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「夏休みは有給で取ってね」いつの間にか廃止された夏季休暇、こんなのあり?

2022年07月06日 09:51  弁護士ドットコム

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2019年4月から、年次有給休暇が10日以上付与される労働者に対し、年5日の有給休暇取得が義務づけられました。この影響もあってか、これまで有給とは別にあった夏休みがなくなったという相談が弁護士ドットコムに寄せられました。


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●【相談】夏休みは有給で取ることに

有給休暇取得の義務化がスタートしましたが、それを受けて私の会社では今年の夏休みは有給で取ることになってしまいました。



今までは有給とは別に、1週間ほど決められた夏休みがありました。今年からはそれが無くなり、有給で各自好きな時に休みを取る方針となります。



就業規則には「会社の定めによる」とだけ書かれており、具体的な夏休みなどに関する記載はありません。



この変更は労働者にとって不利益ではないか?と思っているのですが、法律的にはどうなのでしょうか。



●夏期休暇に関する規定が就業規則にあるか?(回答・中村新弁護士)

夏期休暇に関する規定が就業規則にある場合と、相談のケースのように就業規則に規定がない場合で異なるため、分けて説明します。



●夏期休暇に関する規定が就業規則にある場合

この場合、従業員が夏期休暇を取得する権利を有することが労働契約の内容となっていることを争う余地はありません。したがって、会社からの一方的な通知により、労働基準法上、従業員が当然に有する権利である有給休暇を夏期休暇に代替し、夏期休暇を廃止することはできません。会社が夏期休暇を廃止するためには、就業規則を変更する必要があります。



しかし、会社は原則として、労働者と合意しない限り就業規則を不利益変更することはできません(労働契約法9条本文)。労働者との合意なしに就業規則を不利益変更するためには、変更後の就業規則を労働者に周知させるほか、変更内容に合理性が認められる必要があります(労働契約法9条ただし書き、10条)。



労働契約法10条は、不利益変更の合理性を判断する要素として、以下をあげています。



・労働者が受ける不利益の程度 ・労働条件変更の必要性 ・変更後の就業規則の内容の相当性 ・労働組合等との交渉の状況 ・その他就業規則の変更に係る事情



これは、労働契約法制定前に確立していた判例法理を明文化したものです。



今回のケースの場合、取引先の事情により夏期が会社の繁忙期になったなど変更の必要性が認められ、過半数組合など従業員の過半数を代表する者からの意見を聴取したうえで、他の期間に新たな休暇を設定したり給与の増額などの適切な代償措置を設けるなどして、従業員が受ける不利益を緩和するのであれば、従業員との合意がなくとも、就業規則を変更して夏期休暇を廃止できる可能性があります。



●就業規則に夏期休暇に関する規定がない場合

就業規則に夏期休暇に関する規定がない場合も、従業員が一定日数の夏期休暇を得られるという労使慣行が労働契約の内容となることがあります。



労使慣行が労働契約の内容となるためには、労使慣行が労働条件その他労働者の待遇に関するものであって、一般的な取扱いとして行われていたことが必要となります(菅野労働法第10版p.167~168)。



今回のケースの場合も、長期間、従業員に夏期休暇を与えることは会社の義務であると会社側が認識し、従業員の側でも夏期休暇を取得できるのが当然と考えていたのであれば、就業規則に夏期休暇に関する規定がなくとも、夏期休暇の取得は労働契約上従業員に認められた権利となります。



したがって、この場合も会社からの一方的な通知により夏期休暇を廃止することはできないと思われます。



会社側は、夏期休暇廃止の必要性を従業員に丁寧に説明して従業員からの同意を得るか、前述した就業規則不利益変更の要件を意識しながら、就業規則不利益変更の場合に準じた措置をとる必要があるでしょう。




【取材協力弁護士】
中村 新(なかむら・あらた)弁護士
2003年、弁護士登録(東京弁護士会)。現在、東京弁護士会労働法制特別委員会委員、2021年9月まで東京労働局あっせん委員。労働法規・労務管理に関する使用者側へのアドバイス(労働紛争の事前予防)に注力している。遺産相続・企業の倒産処理(破産管財を含む)などにも力を入れている。
事務所名:銀座南法律事務所
事務所URL:http://nakamura-law.net/