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【漫画】バレエを諦めた少年と女性カメラマン、“好き”とどう向き合う? 創作漫画『踊り子』が美しい

2022年07月06日 08:01  リアルサウンド

リアルサウンド

創作漫画『踊り子』より

 “好きなこと”と真摯に向き合い、挑戦していても、苦境や挫折、停滞は不意に訪れる。そんなとき、何が救いになるだろうか。6月17日にTwitter上で公開された短編漫画『踊り子』は、読後に“自分の好き”に真っすぐに向き合う勇気をくれる作品だ。


(参考:漫画『踊り子』を読む


 足の怪我のために大好きなバレエをやめることを決めた少年は、カメラマンだという女性と出会う。少年が努力を重ね、変形してしまった足は、いまや自身にとって輝かしい勲章ではなかったが、女性はそれを「美しい」と言い、写真を撮らせてほしいと頼んだのだ。撮影しながら2人は会話を始める。すると、バレエをやめようとしている少年だけでなく、シャッターを切る女性の葛藤も浮き彫りになり――。


 物心ついた時からすで絵を描き始めていたというほど、絵を描くことに対して強い“好き”を持っている作者の元田可奈子さん(@m10_kana)。読んだ人がポジティブな気持ちになれる本作を描いた背景など話を聞いた。(望月悠木)


■お世話になった人への感謝が出発点


――『踊り子』を制作しようと思った経緯をお聞かせください


元田:年始めに色々ありまして、メンタルヘルスの不調から体調を崩していました。その時期、友人に支えてもらい、「辛い時に親身になってくれた方々に自分の漫画を見てもらいたい」「友人たちからもらった優しさを漫画を通して世界に還元したい」という思いから制作に至りました。


――なぜバレエというテーマを選んだのですか?


元田:バレエ男子フェチ、ということが一番大きいです。それと同時に「ヒールを履いた男の子を描きたいな」という気持ちも強く、テーマに選びました。体調が優れない状態で制作したので、今振り返れば「ゆっくり描き上げれば良かった」と思ったのですが、「めそめそしている自分と一刻も早くさよならしたかった」からなのか、我ながら無理して描きました。


――バレエシーンは会話シーンとは違い、キラキラ感·透明感を覚える素敵な描写でしたね。


元田:「少年の“踊ることが好き”という気持ちを曇りなく描きたい」という気持ちが、そのような印象を与える表現になったと思います。一方、バレエのない世界は少年にとって単調な時間ですので、会話シーンと言いますか、現実パートは単調に描いています。


――説明やセリフが少なく、登場人物の表情から感情を読み取らせる作品のように感じました。


元田:説明が最小限なのは恐らく自分の作風です。「読者を信じたい」と思いから、本作では特にセリフや説明は最小限に抑えています。また、表情は普段から、余計な情報が入らないように迷いなく線を引くことを意識しています。他にも、コマ割りや頁を構成する全ての線からも、セリフを使わずに感情が最大限伝わるように意識して配置しています。


■リアルとのバランス


――元田さん自身はバレエの経験はあるのですか?


元田:幼少期、バレエ専攻だった母に無理矢理バレエ教室に通わされていましたが、才能がないので早々にやめました。でも、見るのは大好きです!


――『踊り子』を制作するうえで参考資料などはあったのですか?


元田:バレエコンクールの動画を作画制作の際に見ました。ただ、男子バレエは基本的に跳ぶ演技が多く、「足を故障している少年がこんなアクロバティックに動けるのか?」というリアリティとのバランスをとることに苦労しました。


 また、バレエダンサーの柔らかさや姿勢の良さを描くにも頭を悩ませました。普段、自分で同じ動きして描写のイメージを膨らませるのですが、バレエ選手は体の硬い私とは対極の存在です。ですので、オーバーに描いていた記憶があります。


――読み終わった後に前を向きたくなる作品でした。元田さんは本作にどのようなメッセージを込めたのですか?


元田:とてもシンプルに抽出すると「好きなことを捨てないでほしい」です。本当に好きなものって、かけがえのない大切なものじゃないですか。大人になって痛感します。また自分に対しても「もう迷わないぞ」と言い聞かせながら、決意表明のつもりでラストシーンを描きました。


――最後に今後の展望など教えてください。


元田:直近では9月のコミティアで『踊り子』と描きおろしを数本収録した同人誌を刊行するため、興味を持ってもらえると嬉しいです。また、「より多くの読者に漫画を届けたい」「漫画家として生きたい」という気持ちを強く持っていますので、活動を通しご縁が生まれましたらそちらも大切にしたいと考えています。


(望月悠木)