「コミックとらのあな」が秋葉原や新宿、なんば、梅田など主要5店舗の閉店を公式サイトで告知した。特に28年間店舗を構え、かつては複数展開もしていた秋葉原エリアからの「撤退」はインパクトも大きく、同人誌業界には衝撃が走っている。いったい何が起きたのか……。(文:昼間たかし)
業績見込みを見てみると……
同社は公式サイトで「この度、誠に勝手ながら2022年8月31日(水)を持ちまして、秋葉原店A、新宿店、千葉店、なんば店A、梅田店の5店舗を閉店させて頂くこととなりました。同様に、昨年より再出店を継続して模索しておりました名古屋店においても、出店を断念することとなりました。なお、池袋店Bにおいては引き続き女性向同人誌を中心に運営を継続して参ります」と発表した。
いわゆるリアル店舗として残るのは、池袋と台北だけとなる。同社はリアル店舗のほとんど全てを閉店した理由として「コロナ禍による影響を大きく受けており、現時点で回復の兆しが見えていない状況」を挙げている。
ここまで読むと、業績悪化で終了寸前なのかと勘違いしてしまう人もいるかもしれない。実際ネットでは心配げな書き込みをしている人もいる。
しかし、同社が発表している「業績見込み」によると、実態はまるで逆のようだ。
リアル店舗が伸び悩む一方で、通販やデジタル事業は大きく成長しているのだ。同社では2022年度の業績見込みを前年度比121%の307億円。サービスユーザー数は前年度比138%の1141万人になると発表。「この1年で流通総額を50億円以上伸ばすことが出来、創業から初めて流通総額全体で300億円突破を達成する見込み」としている。
同人誌販売はこのところ通販スタイルが伸びており、特に「女性向け同人誌については実に97%を通販が占めるほどオンラインシフトが進んで」いるという。
この理由について、同人誌イベントに長く携わるAさんは「とりわけ女性向け同人誌は、店頭販売の部数が少なく、イベント以外では通販メインになっている」と話す。
通販やデジタルが大きく伸びたきっかけの一つが、2020年に予定されていた東京五輪だ。大会中ビックサイトが使えず、同人誌即売会も開催できなくなることなどから、同人誌業界でも電子書籍や通販へのシフトが起きていた。そこにやってきたのがコロナ禍である。相次ぐイベント中止で、電子化も大きく加速し、同社もオンラインへのシフトチェンジを進めたのであった。
結果として、同社の通販サービスや、ユーザーが任意のクリエイターに月額課金してイラストや漫画などを閲覧するクリエイター支援サービス「ファンティア(Fantia)」は大きく業績を伸ばした。とりわけファンティアは、2018年度に3億円程度だった売上が2021年度には70億円規模に。そして2022年度は売上121億円、ユーザー数も750万人超えを見込んでいるという。
そうした状況だと、アキバや新宿、梅田のような一等地に大型店を構えておくメリットは、どんどん薄くなっているのかもしれない。先のAさんも「秋葉原なんて家賃も高いですから出店メリットがないと判断するのは当然でしょう」と話していた。
ただ、同社としても、長く拠点としてきたアキバには思い入れがあるようだ。閉店のリリース文でも「イラスト展が開催可能なギャラリー型店舗の出展を準備していくとともに、新たな店舗の在り方を模索し、再出店の協議を続け」るとしていた。