2022年07月04日 10:01 弁護士ドットコム
夫婦円満な生活を送るためにも、できれば事前にトラブルの芽は摘んでおきたいものです。そこで、年間100件以上離婚・男女問題の相談を受けている中村剛弁護士による「弁護士が教える!幸せな結婚&離婚」をお届けします。
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連載の第11回は「マッチングアプリ、既婚者と交際してしまった場合の対処法」です。出会いのきっかけとして主流になってきたマッチングアプリですが、相手が既婚者だったという相談は後を絶ちません。相手に法的措置を取りたいと思っても、実は、騙された自分も慰謝料請求されるリスクがあると知っていますか。
中村弁護士は「相手が結婚していることを全く知らなかった場合は、損害賠償責任を負わない可能性が十分に出てきますが、結婚していることを一度知ってしまった場合は、損害賠償責任を負ってしまう可能性が高くなります」と注意を呼びかけます。
今までは、結婚した夫婦であることを前提に、離婚の際の注意点を数々ご紹介してきました。今回は、少し趣向を変えて、婚活など結婚前の交際の際の注意点をご紹介したいと思います。
近年、いわゆるマッチングアプリなどでの婚活が盛んです。マッチングアプリは、婚活の大きな助けになることは間違いありませんが、他方、既婚者が浮気相手を探すことに使われているケースもあります。そこで、既婚者と気づかずに交際してしまい、後から配偶者にバレてしまった、というケースもあるでしょう。
今回は、既婚者と交際してしまった場合についての対処法についてご紹介したいと思います。
法律上、既婚者と性行為等を行った場合には、不貞行為として、損害賠償責任を負う可能性があります(民法709条)。不貞行為だと認められてしまった場合、事案にもよりますが、100~300万円前後(最近は150万円前後が多いと思います)の慰謝料支払義務が発生する可能性があります。
では、「相手が既婚者だと知らなかった」という反論はどの程度認められるのでしょうか?
ひとつの大きな分かれ目は、「相手が未婚者だと思っていた」か、「相手が既婚者だとは知っていたが、離婚した(または夫婦関係がうまくいっていない)と思っていた」かになります。
つまり、「結婚したことを知っていたか否か」です。ここで、大きく結論が変わる可能性が高いです。
相手が結婚していることを全く知らなかった場合は、損害賠償責任を負わない可能性が十分に出てきます。
もちろん、例えば、結婚指輪をしていたが気づかなかった、職場の同僚で結婚式の二次会などのメールが回っていたが見落としていた、子どもの写真を見せられたことがあるが、特に気にも留めていなかった、などの場合は、仮に結婚していることを知らなかったとしても、過失があるとされて損害賠償責任を負う可能性はあります。
しかし、マッチングアプリで知り合うなど、共通のコミュニティがなく、結婚指輪をつけているなど、結婚していることをうかがわせる言動も全くなかった場合には、通常、相手が既婚者だと気が付くのは相当困難です。
このような場合には、故意・過失がなく、損害賠償責任を負わされる可能性は高くはないといえるでしょう。
これに対し、結婚したことを一度でも聞いてしまっていた場合は、損害賠償責任を負ってしまう可能性が高くなります。例えば、結婚していたが、離婚したと聞かされていたというケースを考えてみて下さい。
もちろん、本当に離婚していれば不貞行為は成立しませんが、実際には、離婚したと聞かされていたが実は離婚していなかった、というケースが多くあります。
その場合、単に「本人の言うことを信じていた」という程度では、故意・過失がないと認められるケースは稀で、故意・過失がないと認められるためには、戸籍謄本(戸籍事項証明書)を見せてもらうなどくらいは必要になります。
私が過去扱ったケースでは、「明日、離婚届を提出する」とまで具体的に聞かされ、相手方夫婦は実際に別居しており、相手の家族に自分を交際相手として紹介してもらっていたにもかかわらず、実際には離婚届が提出されていなかったというものでした。これでも、故意・過失がないとはいえない、という状況でした。
一度、既婚者だと知ってしまうと、それくらいハードルが高くなります。ましてや、「夫婦関係がうまくいっていないと聞かされていた」「もうすぐ離婚届を提出すると聞かされていた」程度では、故意・過失がないと認められるケースはほとんどありません。
それでは、単に夫婦関係がうまくいっていないと聞かされていただけでなく、離婚にまでは至っていないものの、実際に夫婦関係がうまくいっていなかったケースはどうでしょうか。
法律上、婚姻関係が破綻した後の不貞行為には、不法行為が成立しないとされています。しかし、この「婚姻関係の破綻」というのは、一般の人が思っているよりハードルが高いものです。
婚姻関係の破綻が認められるためには、最低限、夫婦が別居していることが必要であり、別居していたとしても、別居期間がそれほど長くないケース(数か月程度)では、婚姻関係が破綻したとは認められないこともあります。別居していなくても、婚姻関係の破綻が認められたケースが全くないわけではないですが、かなり珍しいケースです。
ですので、相手が配偶者と同居している場合は、「もう何か月も口を聞いていない」「性行為も何年もしていない」「食事も一緒に取っていない」「頻繁に喧嘩をしている」「家庭内別居状態だ」といくら言われても、同居している以上、婚姻関係が破綻していると認められることはほとんどなく、損害賠償責任を負う可能性が高いと思って下さい。こういうことをいくら聞かされても、安心してはいけません。
なお、私の経験上、「家庭内別居」と主張されるケースでは、単に夫婦仲がよくないというだけで、実際は子どもを連れて一緒に出かけていたり、一緒に食事はとっていないが、相手が食事の準備をしてくれていたりするケースがほとんどで、「家庭内別居」とすらいえない、というケースがほとんどです。
では、当初は本当に既婚者だと知らなかったが、途中から既婚者だと知ってしまった場合はいかがでしょうか。
この場合、既婚者だと知らなかった時期は、損害賠償責任を負わない可能性が高いと言えますが、既婚者だと知った時期以降も、関係を続けてしまったら、損害賠償責任を負います。
交際が始まってから、既婚者だと知ったとしても、その時点では既に情が移ってしまい、なかなか縁を切るのが難しい、ということも理解できますが、それで関係を続けてしまうと、自分が多額の損害賠償責任を負う可能性が出てきてしまいます。
では、逆に、独身と偽った相手に損害賠償請求はできるのでしょうか? これはケースバイケースですが、基本的には、難しいケースが多いです。
婚約までしていた(単に結婚の約束をしたというだけでなく、婚約指輪を購入したり、結納を済ませたり、結婚式場を探していたなど、具体的な行動をしていた場合)のであれば、損害賠償請求できる可能性もあります。
そうではなく、単に交際していたというだけの場合、損害賠償請求が認められないか、認められたとしてもそれほど多額にはならないケースが多いでしょう。弁護士に依頼した場合は、かえって足が出てしまうケースも少なくありません。
仮に、相手の配偶者から損害賠償請求を受け、あなたが慰謝料を支払った場合、独身と偽った相手に対して、求償請求という形で負担してもらうことはできます。そして、独身だと偽った相手が最も悪いのは間違いないので、負担割合も半々ではないとされる可能性もあります。
ただ、割合が半々とされるケースも多いですし、半々ではないとしても、弁護士費用や手間暇を考えたら、やはり割に合うものではありません。加えて、相手からきちんと回収できるか否かも不透明です。
そのため、あまり現実的な選択肢とは言えず、仮に赤字になったとしても、相手にきちんと責任を取らせたい、という覚悟が必要でしょう。
まとめますと、以下の通りです。
(1)当初から既婚者だと全く知らなかったのであれば、損害賠償責任を負わない可能性が十分にある (2)他方、結婚していることを知っていたら、よほどのことがない限り、責任を免れることは難しい
そのため、仮に、途中からでも、結婚していることを知ってしまった場合は、「離婚する予定だ」または「既に離婚した」ということを安易に信じることなく、相手に戸籍謄本(戸籍事項証明書)を見せてもらうなどして下さい。通常の生活をしていて、他人の戸籍謄本を見せて欲しいということはないので、なかなか言いづらいとは思いますが、それくらいしないと責任を免れることはできません。
逆に、そこまでしないなら、きっぱりと別れることも必要です。そもそも、当初から既婚者だと教えてくれないような相手は、あなたに対して誠実だとはとても言えません。そのため、一時的に情が移っていたとしても、その相手はあなたが信頼できるような相手とは言えないので、思い切って関係を断つことも重要です。
また、(1)の場合でも、相手方の配偶者から「当初から既婚者だと知っていたのではないか」と疑われて、弁護士を通じて請求が来る可能性もあります。そうなった場合に、自分も弁護士に依頼したら、相応の費用がかかるため、結局無傷ではいられません。
一番悪いのは、既婚者だということを隠して他の人と交際する人ですが、そのような人に引っかからないためにも、普段から注意しておくことが必要です。
相手が既婚者か否かを見極めるのはそれなりに大変ではありますが、以下などからわかることがあります。観察してみてください。
・自宅(住所を教えてくれるか、招いてくれるか)
・休日の過ごし方(休日、年末年始や誕生日など)
・身に着けているもの(指輪、スマホの待受画面など)
・言動や行動(帰宅時間を気にしているなど)
・メッセージのやりとり(頻繁に連絡を取り合うのを嫌っていないか)
・メッセージのアプリは匿名性が高いものなどではなく、一般的なアプリか
そして、既婚者だとわかったら、少なくとも法的トラブルに巻き込まれる可能性が高いので、それを避けたいなら直ちに離れることをお勧めします。
(中村剛弁護士の連載コラム「弁護士が教える!幸せな結婚&離婚」。この連載では、結婚を控えている人や離婚を考えている人に、揉めないための対策や知っておいて損はない知識をお届けします。)
【取材協力弁護士】
中村 剛(なかむら・たけし)弁護士
立教大学卒、慶應義塾大学法科大学院修了。テレビ番組の選曲・効果の仕事を経て、弁護士へ。「クライアントに勇気を与える事務所」を事務所理念とする。依頼者にとことん向き合い、納得のいく解決を目指して日々奮闘中。
事務所名:中村総合法律事務所
事務所URL:https://rikon.naka-lo.com/