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にじさんじ・赤羽葉子の「神秘性」はすり減らない

2022年07月02日 12:01  リアルサウンド

リアルサウンド

赤羽葉子(C)ANYCOLOR

 現在のVTuberシーンにおけるトップランナーの一つであるにじさんじ。そのなかにおいてもタレントの活躍する分野は日々拡がっている。


 メインとなる生配信に加え、事務所が主導する企画への参加や監修、主に一人ひとりのライバーが主導となって進む歌ってみたなどの動画のほか、ここ1年ほどはエンターテインメントのフィールドでアーティストとして日の目を見る者も増加している。


 これまで当連載では元一期生・元二期生の全員について記してきた。もちろんその順番で続けるならば、元ゲーマーズ組の面々について記していきたいと思う。葛葉、叶、笹木咲、椎名唯華の4人は過去に執筆しているので、残るは3人。


 今回は、元ゲーマーズ組のなかでも最初にデビューした赤羽葉子(あかばね・ようこ)について筆を執っていきたい。


【動画】音量に注意して見てほしい、赤羽葉子の「絶叫」まとめ


 Twitterには2018年5月2日に初ツイートし、初の動画投稿は5月19日の自己紹介動画「【#1】赤羽葉子のお部屋へようこそ!」。


 エメラルドグリーンの瞳、口元から時折覗く八重歯、赤茶色のロングヘアー、左側を赤いシュシュで結んだワンサイドアップの髪型、ピンクのカーディガンに学生服と、名前の通りに「赤」を基調としたビジュアルで当時のファンを沸かせていた。


 初めての生配信は2018年5月25日にYouTubeで行われた。プレイしたゲームは『POSTAL2』。2003年に発売された本作は、奥さんから告げられるおつかいを月曜から金曜までこなしていくという内容で、FPSゲームとしても楽しめるゲームである。


 「妻からのおつかいをこなしている道中で何をしていてもオッケー!」というゲーム内容となっており、通行人をいきなりナイフで刺したり、ショットガンを乱射したりガソリンに火をつけるなどして多数のモブキャラを攻撃することも可能だったり、ゲーム中にいつでも小便ができるなど、その自由度の高さからバカゲーとも評されていたゲームだ。


 ゲームのノリや描かれ方は『Grand Theft Auto』シリーズにも通ずるコメディらしさも十分あるが、さまざまな奇行・蛮行をかなりストレートに表現していることもまた特徴であろう。


 まだVTuber・バーチャルタレントのブームがほんの始まりだったころ、10年近く前に発売されて比較的グラフィックも荒く、知る人ぞ知るようなFPSゲームを彼女はデビュー配信で嬉々として進めていったのだ。


 本動画を見ようとすると「この動画は、一部のユーザーに適さない可能性があります」というおなじみの注意喚起が表示されるわけだが、ほかのにじさんじメンバーのどのデビュー配信でもこのような表示はされていないはずだ。


 あまりにもドギツいゲームチョイス、罪悪感皆無なプレイで多くの血を見ようとする言動、加えて女性のなかでもすこし細めの声質と高いピッチまで一気に声が出るということもあり、見事なまでの「悲鳴」を何度となく配信で聞かせたりと、「予想以上にやべーやつ」と当時から知られるようになった。


 その後に彼女が得意としたゲームといえばサバイバルゲームやホラーゲームといった類。『The Forest』『Don’t Knock Twice』『Man of Medan』『Phasmophobia』と一人・多人数関わらず様々にしていった。


 安定したプレイングをしつつも、急な脅かし・接敵には「きゃああああ!!!!!!」と思いっきり叫んでしまうのは、デビューから現在に至るまで変わることない彼女のトレードマークだ。


 まさにホラー映画のヒロインさながらに、時と場所によってもしかすれば事件性を疑われるかもしれないほどの迫真の悲鳴は、にじさんじ随一のリアクションとしてファンに周知されている。彼女の配信を見るときには、音量に十分注意すべきであろう。


 さて、2022年で4年目を超えて5年目へと向かう彼女は、これまでの多くの名シーンを届けてくれている。


 元にじさんじゲーマーズ1期生同期である叶との「叶え葉(かなえよう)」は、両者ともにアクティブかつイタズラ好きな一面があることや、『PUBG』をともにプレイしていたことで意気投合。


 2018年11月23日のデビュー半年記念配信(ゲームの日記念)では、事前に示し合わせていないのにも関わらず軍服をそれぞれに制作し、ファンともどもに驚きあったほどでもある。


 2022年5月15日に叶が突発的に始めた『PUBG』の視聴者参加型カスタム配信にも事前連絡せずにコッソリと参加すると、配信途中でリスナーや叶に見つかってしまい、叶と同じチームでプレーしたりと、改めて仲の良さを見せてくれた。


 この2人に同じ元ゲーマーズ組の本間ひまわりと葛葉を加えた「シリンソウ」もまた有名であろう。


 渋谷ハル主催の第1回VTuber最協決定戦 PUBG verにチーム「にじさんじゲーマーズ」として出場したのをきっかけとして4人で結成。同大会と第二回大会に向けての練習配信で多くの時間をともにし、その後に改名している。


 この1~2年でにじさんじを知った方にとっては「カスタム大会の練習」というともはや日常茶飯事のように思えるだろうが、2018年~2019年ごろはVTuber全体を巻き込むようなゲーム大会自体がかなりのレアだったころ。


 ホロライブ・個人勢もひっくるめたVTuber頂上決戦のように見られ、文字通り「事務所」を背負っての大一番と期待するファンも多かったのも事実。その後同大会が『Apex Legends』へとゲームを変えて継続していくことで、大きなドラマとファンを生み出していったのは加筆するまでもないところ。


 ゲーム配信では活発でアクティブな姿を見せてくれる赤羽だが、その口調や配信内容を知るリスナーからすれば、どちらかといえば人見知りな性格で、仲良くない方の前では後ろ向き・受け身な態度が滲み出てしまうのが彼女。


 実際彼女がにじさんじに応募するきっかけとなった月ノ美兎と初めて会った時には、叶の後ろに隠れながら挨拶して緊張のせいで全く話せなかったり、別の収録終わりににじさんじの面々からご飯に誘われても「ご飯を食べるのが遅い」という自分のクセもあって気を遣ってしまい、ご飯を共にすることが少ないなどと語っており、そのパーソナリティが伺い知れるだろう。


 自分の誕生日となった2021年4月4日には「初対面限定突撃配信」を実施。ましろ、町田ちま、成瀬鳴、周央サンゴ、社築と、自分の世界を強く持っていたり、人見知りしがちな面々を中心になぜか選んでしまい、四苦八苦する彼女の姿が見れる。


 この配信と通じて仲良くなったましろに、月ノ美兎、でびでび・でびるが加わり「にじさんじ降霊術」としてコラボ配信を行い、自身の3Dお披露目配信や元公式番組『ヤシロ&ササキのレバガチャダイパン』などでもゲストとして共にするなど、一気に距離を縮めていくこととなった。


 オカルト・ホラー・スプラッター要素の組み合わせといえばもう一組、伏見ガク、森中花咲、ギルザレンIII世と4人で「にじさんじオカルト研究部」としてホラーゲームをプレイすることも多い。


 「アタシが主催で声をかけて集めたんですけど、アタシ以外全員元二期生になってしまいました」と話すも、物怖じせず楽しみながらゲームを進めていく伏見、「おじいちゃん」とイジられながらツッコミ役となるギルザレンIII世、積極的にプレイするも絶叫して大慌てする赤羽と森中の女性陣2人、四者四様のバランスがとても見どころとなっている。


 なによりこの「にじさんじオカルト研究部」のおもしろい点といえば、あまり配信を頻繁に行なわないギルザレンⅢ世がゲーム配信をしている点であろう。以前の連載でも書いたように、「配信をしないこと」が強いキャラクター性となっている彼。そんな彼を普通のゲーム配信に呼び出すことができる、にじさんじのなかでも数少ない強権を持っているのが赤羽葉子なのだ。


 2019年9月13日に森中、伏見、ギルザレンIII世とともに『Project Winter』をプレイした際、ギルザレンIII世との会話の流れで「キミも今日から眷属だ!」と言われて以降、なにかとコラボ配信を共にすることが多くなった2人はオカルト・ホラー・スプラッター要素以外にも注目すべき要素がある。それは、お互いに生配信を頻繁にしていないという点だ。 特に、元ゲーマーズ組といえば叶・葛葉を筆頭に、現在でも頻繁かつ積極的に配信活動をし、公式番組などへの出演も頻繁で、外部企業との関りからタレント活動を見せるものも多い。彼らと比較してみれば、彼女はたしかに低稼働ぎみに見えるだろう。ギルザレンIII世ほどではないにせよ、赤羽もまた「配信しない」勢としてファンから認識されていることが多い。


 以前引っ越し準備やネット回線開通のタイミングと被って配信が滞ったときには、同僚・仲間からも生存確認が取られるなど、彼女の身を案ずるメンバーもいるほどだ。


 とはいえ、この配信活動を見てみると面白いことが分かってくる。『PUBG』『ARK』『Phasmophobia』とその時々によってハマったゲームタイトルがあれば頻度がグっと上がり、熱が冷めるとグっと頻度が下がる。その自由かつ正直な配信ペースは、彼女がいかに自然体で活動を続けてきたかの証ともいえる。


 今年に入ってから何度か届けられている雑談配信では「ガシャポンにハマってしまった話し」「数年ぶり2度目の知能検査を受けた衝撃結果」「月末に向けてまったく計画を進められない自分の体たらく」と、やはりどこかズレたエピソードを話していた。


 これまでゲーム配信が専らメインであり、明確な雑談配信をあまりこなしてこなかったことも影響してか、彼女がどういった人物でパーソナリティを持っているのか、彼女のファンでも意見が分かれがち。こうして1月に1回の雑談配信で身の上話をしてくれるだけでも、彼女の場合は話題に事欠かなさそうだ。「もっと配信しないとダメだよ」「スケジュールを自分で設定すると、守れないんだ…」と自分を叱咤しながら、どこまでいってもマイペース、それもまた彼女らしさに溢れている。


 6月25日の配信では、ほぼ無言で絵をスケッチしながら計画を立てていた彼女。おしゃべりな彼女とは裏腹な配信タイトル、概要欄には「#にじフェス2022 この配信の概要は配信終了後に追記されます。」と記され、11月に開催予定の『にじフェス2022』で関わる企画「にじさんじライバージオラマハウス」にまつわる絵コンテを、彼女なりに描いていく配信となった。


 途中休憩ついでにリスナーへと出したクイズがあまりにも酷すぎたことで、リスナーから「???」「あやまれ」「は???」と罵声のコメントが届くなか、うまく内容をまとめられたようだ。


 以前、当連載のギルザレンIII世記事に驚いていた彼女にSNS上で筆者から言葉をかけたところ、「謎は謎のままにしておきましょう!!そのほうが神秘性が保たれていいと思います!!!!!」と返信されたことがある。


 生身を削るように自分をさらけ出していくストリーマーな配信スタイルが増えていくなかにあって、ここまでの4年間でもあまりすり減ることのない彼女の素性・センス・言動は底知れない。「配信をしている/していない」は些事なことと思わせてくれるほどに、「なにをするのか/なにを考えているか」が計り知れない神秘性、凶暴性、無軌道さに注目が集まる。にじさんじらしさを体現するセンスとして今後光っていくはずだ。(草野虹)