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軽量スポーツカーのW杯、決勝は日仏戦? ロードスターとアルピーヌを比較

2022年07月01日 11:31  マイナビニュース

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画像提供:マイナビニュース
軽量スポーツカーのW杯が開催されるとすれば、決勝でぶつかるのは日本代表「ロードスター」とフランス代表「アルピーヌ A110」なのでは? そんなことを思いながら2台を乗り比べてみた。マイナーチェンジしたばかりの2台だが、グレード展開や乗り味などに共通点が見つかった。


○共通点はヒラヒラ感?



ライトウェイトスポーツカーは、本当に楽しい。日本にはマツダ「ロードスター」やトヨタ自動車「86」、スバル「BRZ」などがあり、輸入車ではアルピーヌ「A110」、ポルシェ「718ケイマン」、アウディ「TT」、ロータス「エリーゼ」、アルファロメオ「4C」あたりが頭に浮かぶ。


最新のライトウェイトスポーツカー事情はどうなっているのか。国産と輸入車ではどんな違いがあるのか。今回は改良から間もない2台、ロードスターとアルピーヌ A110を乗り比べた。両者は全く値段の違うクルマだが、共通点もけっこうあった。それは一言でいうと、「ヒラヒラ感」という言葉で表現できるかもしれない。

○3種類の「ロードスター」



改良版が2022年1月に発売となった現行型ロードスターの中で、最も話題になったのが最軽量バージョンの「990S」だ。車名の通り、車重は1tを切る990kgで、フロア下のブレースやアンチロールバー、LSD、遮音材などを取り外し、代わりに1本あたり0.8kg、4本で計3.2kg軽くなったRAYS製鍛造ホイールやブレンボ製ブレーキを装着。サスやダンパーに専用チューニングを施すとともに、目玉の改良技術である「KPC」(キネマティック・ポスチャー・コントロール)を導入することで、軽さをいかして「ヒラリ、ヒラリ」と姿勢を変えていくコーナリングを実現した。それでいて、一般路での乗り心地の良さもしっかりとキープされた、見事な出来栄えだ。


KPCは同じ1.5Lエンジン(132PS/152Nm)を搭載する「RS」グレード(走りを強化したモデル)にも導入されている。こちらはベースとなる「Sスペシャルパッケージ」に装着されたリアスタビライザーやLSDに、強力なビルシュタイン製ショック、フロントタワーバー、大径ディスクブレーキなどを追加。腰にも伝わるガッチリとした手応えのある走りを見せてくれるタイプで、より高い速度域に照準を合わせたセッティングになっている。


さらに、2.0Lエンジンとハードトップルーフを備えた「RF」にもKPCを導入。上質な「テラコッタ」カラーのレザー内装を備えた「RF VS テラコッタセレクション」なら、快適な室内とトルクフルなエンジンをいかしたグランドツーリングも楽しめる。


○3種類の「アルピーヌ A110」



アルピーヌ「A110」のマイナーチェンジバージョンは2021年11月にパリで発表となった。3つのタイプがあり、オリジナルアルピーヌの特色を引き継ぐベースグレードの「A110」はスプリングレートがF30N/mm、リア60N/mm、アンチロールバーがF17N/mm、R10N/mmの剛性を持つアルピーヌシャシーに、これまで通り252PS/320Nmを発生する1.8L4気筒ターボをミッドシップに搭載したモデル。車重は1,110kgと軽く、0-100km/h加速4.5秒、最高速度250km/hを公称している。こちらは、ロードスターでいえば990Sのような、ワインディングの走りが楽しいクルマだろう。

その強化バージョンとなるのが「A110 S」グレードだ。ロードスターでいえば「RS」的な立ち位置となる。エンジンは300PS/340Nmの高回転型。シャシーはスプリングレートやアンチロールバーの強度を1.5倍上げた専用のスポールタイプとなり、ツインダンパーもそれに応じてチューニングされている。結果、最低地上高が4mm低くなっているほか、ミシュラン「パイロットスポーツ4」のタイヤサイズはフロント215/40R18、リア245/40R18へとワンサイズ拡大。ホイールも0.5JずつワイドなGT-RACEタイプに変更されている。


光沢仕上げのカーボンルーフやSabelt(サベルト)社製の軽量モノコックバケットシート(1脚わずか13.1kg)を採用することで、車重は1,100kgまで減量。パワーウェイトレシオはわずか3.7kg/PSだ。0-100km/h加速は0.3秒短縮の4.2秒、最高速度は10km/hアップの260km/hとなっている。



また、A110 S専用のエアロキット(カーボン製のリアスポイラーやフロントブレード、エクステンデッドアンダーパネル)を装着したモデルなら、フロント60kg、リア81kgのダウンフォースを得ることができる。空気抵抗が減少することにより、最高速度は15km/hアップの275km/hとなる。


もう1台の「A110GT」はロードスターの「RF」に似たキャラクターといえる。ノーマルのアルピーヌシャシーにSと同じ300PS/340Nmのエンジンを搭載したタイプだ。GTの名の通り、長時間のグランドツーリングでも疲れない乗り心地は担保しながら、速さも兼ね備えている(数値的にはSと同じ)。身体をしっかりとホールドしてくれる6ウェイスポーツシートはブラックレザーだけでなく、専用のブラウンのレザーシートも選べる。軽量サブウーファーを備えたフォーカル製オーディオなど、ロングドライブに対応した装備が自慢のモデルだ。


○「ヒラリ、ヒラリ」の走りも似ている



冒頭で述べたポルシェのケイマンやアウディTTは、速くてとてもよくできたライトスポーツであるのは間違いないけれど、どこか理詰めの部分が勝りすぎていて、情緒という点ではアルピーヌに少し劣る。一方でアルファの4Cは、内外装ともに情緒は満点だけれども、乗るとガチガチと過敏すぎて気が抜けず、都内から箱根までの往復でもちょっとつらい。このあたりのバランスをうまくまとめ上げているのがアルピーヌだ。


ストロークがあって比較的柔らかいバネを採用した足回り(フニャフニャという意味ではない)によって乗り心地は犠牲になっていないが、コーナーではロールやピッチという姿勢変化を許しつつも、エンジンやガソリンタンクなど重量物をミッドに搭載した44:56の絶妙な前後バランス(50:50ではない)が功を奏し、スムーズなノーズの入り方やリアのジワリとした振り出し方がドライバーの高揚感を誘ってくる。エンジン音もいい。雪のモンテカルロで、オーバーステアをテクニックでカバーしつつかっ飛ばしていた初代A110とは、ちょっと違った形の楽しさがそこにはあるのだ。



ロードスターもしかりで、コーナーではリアを沈めて安定感を増すサスペンションジオメトリーに加えて、内側のブレーキを微小なタッチでつまんで回頭性を増すKPCによって、乗り心地とコーナリング性能がどちらもアップしている。


例えば、箱根のワインディングで楽しいのはA110もロードスターも同じ。そしてヨーロッパのアルプスのワインディングに持ち込むと、パワーのあるA110に軍配が上がるのは当然だろう。そうした機会があるかどうかは別として、ロードスターの価格に+500万円のモアマネーをつぎ込むことができるユーザーには、アルピーヌという世界が待っているのだ。



原アキラ はらあきら 1983年、某通信社写真部に入社。カメラマン、デスクを経験後、デジタル部門で自動車を担当。週1本、年間50本の試乗記を約5年間執筆。現在フリーで各メディアに記事を発表中。試乗会、発表会に関わらず、自ら写真を撮影することを信条とする。 この著者の記事一覧はこちら(原アキラ)