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【渥美心のEWC参戦記】ライダー転倒で決勝直前に交代、電子制御なしとトラブル続き。最後は一致団結で表彰台/第2戦スパ24時間(後編)

2022年06月30日 21:20  AUTOSPORT web

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2022EWC第2戦スパ24時間 表彰式
2022年はフランスに移住し、OG Motorsport BY SarazinからFIM世界耐久選手権(EWC)に“フル参戦”することになった渥美心選手。そんな渥美選手がEWC参戦のなかで感じた、日本のレースとの違いや耐久レースならではの出来事や裏側を語ります。

 今回は2001年以来に開催されたスパ24時間の雰囲気やレースに参戦した心情や表彰台獲得の思いなど、レースウイークの日々を渥美選手と同行している広報兼ヘルパーの目線でお伝えします! (前編はこちら)

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■レース直前の大ハプニング!そこに現れた救世主

 予選までとても順調に進んできたのですが、レース前最後のウォーミングアップ中に大ハプニングが起こりました……。第3ライダーのアレックス・プランカッサーニュ選手が走行中に転倒し、左肩を負傷してしまいレースに出場することができなくなったのです。

 その場合の解決策として他チームの予選に通過している第4ライダーを探す必要があったのですが、スタート進行まで3時間を切っていたのでかなりギリギリでのライダー探しが行われました。交渉に行ったチームの第4ライダーには「このコースは怖いし、レースに向けて自分自身の気持ちができていないから無理だ」と複数人に同じような理由で断られたようなのですが、決勝2時間前にいきなり僕のチームで乗ってくれと頼まれてもチームの雰囲気も掴めなければ、マシンにも一度も乗れないので断られても仕方ない条件でした。

 それでも諦めずに監督のファブリスは必死に探していると他のチームから、#86 PITLANE ENDURANCE のチームの第4ライダーのアレクサンドル・サント・ドミンゲス選手を紹介してもらいすぐに交渉に行ったそうです。彼は了承してくれ、すぐに私たちのチームに装備一式を運び、チームシャツに着替えて共に戦ってくれることになりました。

 初めて彼を目にしたときの感想は、とても笑顔が素敵で優しそうな方でしたが、堂々とした印象を感じました。彼がこのチームに来てくれたのは、スタート進行のわずか1時間ほど前。チーム全体がドタバタと準備に取り掛かっていたので、私たちはまともに自己紹介やゆっくりとした時間を過ごすことなくすぐに決勝が始まりました。

 スタートの数時間前にチームが大きなハプニングを抱えながらも「冷静に問題をひとつずつ解決していこう! 大丈夫だ!」というチーム全体の前向きな雰囲気にひとりひとりのモチベーションが下がることなく保たれていたように感じました! 本当に頼もしいチームです。

 また他のチームの方も私たちのチームに励ましを送ってくださり、TSRの秋山さんもピットに来て励ましてくれました。レースにはトラブルがつきものですが、チームやメーカーを超えてそれぞれのチームがお互いに励まし合うのが耐久レースの大好きなところのひとつでもあります。

■いよいよスパ24時間スタート

 スタートライダーは渥美心。スタート前のハプニングにも惑わされることなく、とても落ち着いてスタートに集中できていました。なぜならこのコースとの相性は抜群で、自身のポテンシャルにも自信があったからです。

 スタートしてからは渥美→Roby(ロベルト・ロルフォ)→渥美→Alexandre(アレクサンドル・サント・ドミンゲス)の順で走行することになりました。渥美本人のペースがかなり良かったので、Alexが少しでもこのチームの雰囲気やリズムになれるまでの間もう1スティント任されることになりました。

 2スティント目走行中、アクセルを開けているときにフロントタイヤやエンジン周りから振動が発生。前戦のル・マン24時間ではエンジントラブルでのリタイアとなったので異変に不安を感じていました。このウイークに2回の転倒がありその影響がエンジンに出ているのかと思いましたが、おそらく高気温になった影響でフロントタイヤに異変が起こっているだろうという見解でした。

 そして3スティント目(17:00台)Robyと交代するときにまたもやトラブルが起こりました。「Noトラクションコントロール、Noアンチウイリー」と伝えられました。バイクのメーターを確認するとどちらもOFFになっており、こっちの方が走りやすいから切ったのか? なんて最初は思いましたが、そうではなくECU(エンジンコントロールユニット)の故障によるものでした。

 どれだけ走行中に手元のボタンを操作しても電子制御の設定は変えられなかったので、潔く諦めて『電子制御なし』で攻めることにしました。1速で加速するコーナーでは慣れるまでウイリーさせすぎないように走らせるのは困難でした。それでも2分27秒台では周回できていたのですが、なんと10周目に突然クイックシフターが故障。シケインでコースアウトして主電源を切りリセットを試みましたが復活はしませんでした。シフトダウンではクラッチを操作し、シフトアップではアクセルを戻すアナログ走法で乗り切れましたが、さすがに2分28秒台で走るのが限界でした。その後Alexandreのスティント序盤にセーフティカーの時間があったのでピットインしてクイックシフターを修復しました。

 その後4スティントは、Robyがダブルスティントをしてくれたおかげでなんとかトラブル続きで疲れた身体が無事に復活! 監督からは「Cocoもできるならダブルスティントしてほしい」と言われました。序盤は体力を温存しつつも2分27~28秒で周回、後半は2分27秒台で周回できるリズムを体得。ピットインして監督から「もう一回行けるか?」と聞かれたので「もちろん」と答えてピットアウトしました。修復時にはクラス12位まで落としていた順位も4位まで浮上しました。

 そして深夜の時間帯の6スティントではRobyが再びダブルスティントをしたので2時間半程の長い休憩が取れました。スティント5で暗さに慣れていたので心理的な不安もなくピットアウト。木曜の夜間走行の時は真っ暗で見えなかったコーナーも照明の配置換えをしたのか見やすくなっていました。淡々と2分28秒台で周回を重ねていたのですが、少しずつ疲れも出てきました。しかし、ピットインすると「もう一回行けるか?」と尋ねられたので「行きます」と答えました。走れない程の辛さではありませんでしたし、ここで頑張ることがチームにとって得になると判断し気合いを入れ直しました。

 4時台のスティントでは、2分28秒台で周回。しかし終盤は疲労により腰回りが固まってきたのでブレーキング時に脚を出してストレッチしながら走りました。このテクニックはかなり有効だったので今後も活用できそうです! スティント終盤にはオレンジ、紫の朝焼けが見えてとても綺麗でした。コース上に留まることが大切だと何度も自分に言い聞かせて集中して走り切りました。

 9スティント目(6:29~7:19)、なんとここからは連続4スティントの始まりです!! 陽が昇り完全に明るくなりました。中盤以降リズムを掴み始め12周目にこのレース中のチームベストタイムを記録。最後2周は雨がパラパラと降り始めましたがグリップ感も変わらなかったのでそのまま走り続けました。「コンディションが複雑だからもう一回行けるか?」と聞かれ、調子も良かったのでダブルスティントをすることにしました。

 そして一度ピットイン(10スティント)すぐ止みそうな雨だと思っていたのですが、止まずにむしろ強くなっていきました。周りのライダーのペースと比較しつつ、自分の感覚も信用して走りました。最終的に路面が濡れてタイヤの接地感が薄くなってきました。ヨシムラのライダーがピットインしたので同じタイミングでピットイン。タイヤはウエットとインターミディエイト(スリックタイヤの溝付き)があり、インターミディエイトを選択しました。

 その後連続3スティント目となる、11スティントではコースインしてすぐにタイヤの接地感が薄く感じたので、ウエットタイヤの方が良かったと思っていた矢先、SSTクラスの上位を走行していた2チームが転倒。また9コーナー立ち上がりで転倒がありオイル漏れが発生したためセーフティカー介入。このタイミングでピットからSTOPのサインが出されたので、ピットインをしウエットタイヤに交換しました。

 連続4スティント目の12スティントでは、4周後にセーフティカーが解除され、レースリスタート。この時点ではSSTクラス2位に浮上していましたが、転倒から復帰して真後ろにいた#18にすぐに抜かれて3位となりました。路面のグリップは明らかに低かったので丁寧にライディングをし、2時間39分のとても長い連続4スティントを無事に終えました。

 その後Robyとチェンジする際にECUを交換。やっと終盤で電子制御が復活しました。そこからRobyは順調にいいペースで走行しておりましたが、しばらく前に白煙を噴いていた#121のバイクから大量にオイルが漏れ出しすぐにセーフティカーが介入しましたが、長距離に渡ってオイルが出ていたので赤旗中断。その後2時間40分の中断後、2周のセーフティカー先導後、2周のレースが再開されRobyは慎重にチェッカーまでを走行し、見事SSTクラス3位を獲得しました!!

■さまざまな試練を乗り越え勝ち取った3位表彰台!

 ついに3位表彰台!第3ライダーが負傷して急遽代役参戦を探し、無事にスタートを切れて安心していた矢先の電子制御のトラブルがあったりいつも以上に困難の多いレースとなりました。しかし、その困難を乗り越えて得た表彰台は本当にみんなで抱き合って涙を流すほど嬉しいものでした。

 急遽代役を引き受け勝利へと導いてくれた、アレクサンドル・サント・ドミンゲス選手には本当に感謝しています。そして今回のスパ24時間で『OG Motorsport BY SARAZIN』にとって初めての表彰台を獲得しました。今年は表彰台を常に狙える位置で走るというチームの目標で一丸となって目指しているので、まずはそれがひとつ達成できたので次戦のボルドール24時間ではさらに上を目指して頑張ります。

 スパ24時間でもたくさんの応援をありがとうございました!!

 第3戦の鈴鹿8耐にはS-PLUSE DREAM RACING・ITECより急遽参戦することになりました。マシンはスズキGSX-R1000Rでタイヤはブリヂストンです。どちらも初めての経験なのでとても楽しみです。

 ベテランライダーの生形選手と津田選手から沢山のことを学びたいと思っています。鈴鹿8耐も応援よろしくお願いいたします。