2022年06月26日 09:31 弁護士ドットコム
スマートフォンのSIMフリーが当たり前になり、携帯キャリア経由ではなく、独自に端末を購入する人もいるだろう。
【関連記事:お通し代「キャベツ1皿」3000円に驚き・・・お店に「説明義務」はないの?】
ネット通販やフリマアプリで端末を購入する際に気になるのが、「海外版」のSIMフリー端末が多数売られているということだ。
IT企業に勤務する東京都内の30代男性ショウタさんは、デフォルトでカメラのシャッター音がオフになっているiPhoneが欲しくて、海外版を購入した。
実は海外版のスマートフォンは、総務省が定めている「技適マーク」がなければ、日本国内では使ってはいけないことになっている。ショウタさんは「何となくわかってましたが、特に誰にも迷惑かけてないっすよ」と悪びれる様子もないが、どんなルールになっているのだろうか。
まずは、SIMフリー端末について、おさらいしたい。私たちが日頃使っているスマートフォンには、「SIMカード」という小型のチップが入っており、このチップには契約者情報が記録されている。
かつての日本では、「SIMロック」すなわち「特定のSIMカードが差し込まれた場合にのみ動作するように設定された」端末が販売されていた。それに対して、「海外渡航時に渡航先の携帯電話会社のSIMカードを国内から持参した端末に差し込んで使用したい」という声の高まりや、SIMロックは利用者の権利制限や事業者間の競争の阻害につながるという指摘も出ていた。
総務省は「移動端末設備の円滑な流通・利用の確保に関するガイドライン」(令和3年8月10日最終改正)において、SIMロックを原則禁止した。スマートフォンの利用者側としては、乗り換えや買い替えがしやすくなり、利便性が高まった。
総務省がSIMロックを原則禁止する以前からSIMフリー端末は多く流通していたが、ガイドラインの影響もあって、今後もますますSIMフリースマホを使用する人は増えていくだろう。
しかし、海外製のSIMフリースマホには、「技適マーク」がついていないものもある。技適マークとは、総務省令で定められているもので、電波法に基づく技術基準に適合していることが証明された無線設備につけられている。
この技適制度は何を目的としているのだろうか。
総務省のHPには、次のように書かれている。
「電波は多くの人が利用しており、現在の社会生活に欠かすことのできない重要なものですが、電波は有限希少ですので効率的に使って頂くために、使用するチャンネルや送信出力、無線機の技術基準など様々なルールが設けられています。
技適マークが付いていない無線機の多くは、これらのルールに従っていません。このような無線機を使用すると、知らずに他人の通信を妨害したり、ひいては社会生活に混乱を来すことになりかねません」
すなわち、技適制度は「社会生活に混乱を来すこと」を防ぐための制度だということだ。 最悪の場合、一刻を争う救急車や消防車の無線に影響したり、航空機や鉄道を止める事態を引き起こしたりしてしまうかもしれない。
技適マークは、電波法令に定められている基準に適合しているという証だ。では、技適マークがついていないスマホを使うことは違法なのか。
総務省によると、技適マークなしの無線機を使用すると、電波法違反になる恐れがある。
電波法110条では、不法無線局を開設・運用した者に対して、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金を科している。技適マークが付されていないスマートフォンを使うことは、不法無線局を開設・運用したとして、電波法110条違反となり、罰則を伴う可能性がある。
これまで摘発された人はいるのか。弁護士ドットコムニュースが総務省に確認したところ、個人を逮捕するといった大々的な事件に至った例はないとしたものの「悪質な場合は告発する可能性もある」という。
過去には外国製のベビーモニター(赤ちゃんを遠隔で監督する装置)を使っていて携帯基地局に影響が出た例や、工事現場でクレーンに取り付けたワイヤレスカメラが航空無線に障害を起こした例がある。
こうした自覚がないままに違法行為を犯す事態を想定し、総務省は「アマゾンなどの販売業者には、技適マークがない場合は購入者が罪に問われる可能性があることを記載する必要がある」と説明。ただ、業者側の努力義務にとどまるため、あくまで「お願い」という立場だ。
ちなみに、技適マークはiPhoneは「設定→一般→法律に基づく情報および認証」で確認できる。そのほか、据え置き型ルーターや家電製品なら、底面や背面などに記されている。見つからない場合は、総務省の電波利用ホームページで検索する手もある。
では、技適マークのついていないスマートフォンを使うことはすべてダメなのだろうか。
たとえば、訪日外国人観光客のように、一時的に日本に滞在する人が、日本の入国の際にWi-Fi端末やBluetooth端末を国内に持ち込む場合はどうなのか。
総務省のHPによると、「米国のFCC認証や欧州のCEマークが付されており、かつWi-Fi Allianceの認証ロゴ」があるWi-Fi端末や「Bluetooth SIGの認証ロゴ」があるBluetooth端末であれば、技適マークがついていなくても入国から90日以内に限って使用することができる。
また「技適未取得機器を用いた実験等の特例制度」を用意している。申請することで、「短期間の実験等のみを目的とする場合」に限って技適マークのついていない無線機器を使用できる。本人確認や廃止届の提出も必要で、総務省の担当者は「あくまで専門家向けの制度」と指摘する。
SIMカードを挿さなくてもWi-FiやBluetoothを使えば無線通信となり、違反対象となる。日本に住む一般の人が、技適マークのないスマートフォンを合法に使用する手段はやはり存在しない。担当者は「業者や一般の方たちにも、地道に周知していくしかない」と話している。