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日本中に拡散したパワハラ「症状」、会社側が謝罪 自死した男性遺族の思い

2022年06月24日 18:01  弁護士ドットコム

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2018年2月に自死した男性(40代)の遺族は6月20日、男性が過重労働やパワハラなどにより精神障害を発病して死亡したとして、勤務先だった住宅建設会社「ハシモトホーム」(青森県八戸市)に対し、約8000万円の損害賠償を求め、青森地裁に提訴した。


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提訴にあたり、同社で賞状を模した侮辱する内容の書面を渡していたなどとして、「症状」と書かれた書面の画像が報じられ、波紋を呼んだ。ツイッターでもっとも拡散した河北新報の記事は、4万4000以上のリツイート(ヤフー配信の記事含む)を記録した。



同社は6月23日、ホームページ上で「弊社に関する一連の報道について」と題するコメントを発表。謝罪するとともに、「本件を重く受けとめ、最大限誠意ある対応をとる所存でございます」としている。



遺族代理人によると、6月24日時点、コメント発表後に会社からあらためて連絡などはきていないという。



●労災認定の理由にもなった「症状」

訴状などによると、2011年1月にハシモトホームに入社した男性は、青森支店で注文住宅の販売営業をしていた。



乱暴な口調で叱責する人物だったとされる男性の上司は、男性に対しても、人格否定的な発言を繰り返していたといい、「おまえバカか」「なんぼ頭わりのや」「あほ」「相変わらずダメポンだな!」といった内容のメールも送信されていたという。





さらに、2018年1月には、同社の新年会の席上で、賞状を模した「症状」と題する書面が男性に交付された。



書面には、「貴方は、今まで大した成績を残さず、あーあって感じでしたが、ここ細菌は」 「お客様にも機械的な対応にも関わらず、見事おったまげーの三位です」「機械的営業スタイルを今年も貫き、永野みたいな一発屋にならない様に日々努力してください」などと記されていた。書面の文面を起案したのは男性の上司だったという。



業務でも、顧客から遊具設置の注文を受けた際、男性の上司が建物の構造上の問題などを理由に拒否する方針を示したことで板挟みとなり、最終的に男性が自費で遊具の部材を購入(約7万8000円)して対応することもあった。



また、男性は、2018年2月上旬に精神障害を発病する直前1カ月で、少なくとも76時間以上の時間外労働に従事。発症前6カ月の時間外労働の平均時間は61時間21分だったほか、持ち帰り残業など計上されていない時間外労働が存在するとしている。



男性は2018年2月15日、自宅に駐車していた自家用車内で自死した。青森労働基準監督署は2020年12月24日付で、男性の自死につき、業務上災害に当たると認定し、遺族補償給付を支給する決定をしている。



労災認定では、上記パワハラ行為、注文をめぐる板挟みおよび時間外労働は事実として認定され、理由で挙げられている。



労災認定後の2021年12月から、会社と交渉したものの、会社側は「法的責任はない」との立場だったため決裂。提訴に至ったという。



●妻のコメント「今いる社員の人のためにも体質を改めてほしい」

男性の妻は、提訴にあたって、代理人を通じてコメントを発表している。一部を紹介したい。



「​​結婚してから愛して尽くした年月が長くありましたので、突然あのような形で失ってしまった事はショックで、立ち直れないほどの悲しみは今でも続いています。子ども達のためにも生きていてほしかったと思っています。



『症状』は、夫の死後、夫がいた部屋から見つかりました。会社の会合でもらった紙袋の中に入ったままでした。夫は、きっと、家族には見せられなかったんだと思います。私も、弁護士にお願いするまで、夫がこんな『症状』をもらったなんて話は誰にもできませんでした。



労基署の調査の結果、『症状』の文面を考えたのが誰かわかりました。日頃から『あほ』『ばか』と夫のことを叱責していた課長でした。こんな『症状』を渡して、家族が見たらどう思うのか、何も想像しなかったのかと不思議でなりません」



「夫から会社の雰囲気をきいて、何回も『辞めたら?』と言ったことがあります。でも、夫は、「家が完成してお客さんに鍵を渡すときがいちばん嬉しいから、続けたい」と言っていました。決して安い買物ではないので、お客さんの要望をできるだけかなえてあげたいという気持ちもあったと思います」



「夫以外にも、会社の雰囲気がいやで会社を辞めている人もいるのではないかと思います。今いる社員の人のためにも、体質を改めてほしいと思っています」