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日曜劇場に秋元康流、考察ドラマの違いは? 『マイファミリー』のヒットから探る

2022年06月24日 08:21  リアルサウンド

リアルサウンド

『マイファミリー』(c)TBS

 6月12日に最終回を迎えた二宮和也主演の日曜劇場『マイファミリー』(TBS系)。ミステリー展開が好評だった今作は、娘が誘拐されたことから始まる家族の絆をテーマとした考察系ドラマだが、前クールに放送された秋元康企画・原案の日曜ドラマ『真犯人フラグ』(日本テレビ系)も家族が失踪するミステリーで、父親が疑われたり、メディアと世論を利用した犯罪劇など共通する点が多く何かと比較されることが多かった。だが、蓋を開けてみると、『マイファミリー』は秋元企画の考察ドラマとはまた違うタイプのドラマだったように思う。そこで、日曜劇場流の考察ドラマ、日テレ秋元康流の考察ドラマとして比較してみたい。


【写真】家族を抱き寄せる二宮和也


 『真犯人フラグ』と『マイファミリー』は似ているようで、根本的にドラマとしてのスタイルがまず違う。それは脚本の特徴でもあるが、放送枠の趣味嗜好というのも大きいだろう。『真犯人フラグ』は、最初に多くの人物(容疑者)を登場させ、話が進むにつれ真犯人が絞り込まれていくスタイル。これはまず、2019年に放送された田中圭主演ドラマ『あなたの番です』(日本テレビ系)の成功が大きく、以前から秋元企画のドラマはたくさんの登場人物が繰り広げる群像劇を得意としている。これはアイドルプロデュースにも通じるところで、キャラに個性を与え、それぞれが動き出し、物語の裏にあるドラマを形成し、特にミステリーではその過剰な個性がどれも怪しい容疑者として活かされる。なので、最初はとっ散らかって何が起きているのか視聴者は分からないが、それぞれの動機を一人一人掘っていき、そのパズルのピースを主人公が集め、様々な謎を解明していく面白さが特徴的だろう。


 主人公が謎解きをし、周りの人が協力するというスタイルも、視聴者が主人公と同じ目線になれるので考察が楽しめるRPG要素が強い作品とも言える。ただこれはドラマが2クールあり、1クール分人物紹介に使えるからこそできる技法だ。また、見せる怖さと見せない怖さも特徴的で、途中での犠牲者が多く、様々なトリックで惨殺される姿を見せたり、体の一部が主人公宅に送られてくるなど、スプラッター要素満載のショッキングな映像を見せてくる一方で、意味深な閉じられた部屋など、意図的に見せない演出でジレンマを誘う、挑発的な描写で視聴者を揺さぶる。


 ただ、これらは日テレ日曜22時30分の「日曜ドラマ」の特徴と言える。「日曜ドラマ」は、元々「映画ファンも楽しめるエンターテインメント」をテーマに立ち上げられたドラマ枠。菅田将暉主演『3年A組 ―今から皆さんは、人質です―』や竹内涼真主演『君と世界が終わる日に』など、最近の地上波ドラマにしては視覚的にも倫理的にも、リミッターを超えたバイオレンス要素が強く、挑戦した内容のものが多い。そうしたエンターテインメント性が要求される枠だからこそ、スプラッター要素の強いミステリーを作ることができたと言える。


 一方、『マイファミリー』は、最初から怪しそうな人物の描写を入れず、真犯人と誘拐の動機が全く分からないまま最終回へと向かう、推理要素が強いドラマとなっていた。また、物語の焦点であり安否不明の心春(野澤しおり)以外はみんな生きていることも大きな違いだ。


 日曜劇場はTBSの看板となるドラマを放送している枠で、最近は池井戸潤作品に代表される、エンタメ性が強くも硬派な作品が多く、基本的には視覚的にも倫理的にも質の高い作品が作られる枠だ。考察ミステリーの要素はあるが、誘拐を軸にした家族の愛と絆というテーマを貫いているのが今作の特徴であり、犠牲者が少なかった理由の一つかもしれない。2作品とも多重構造の誘拐ものという点では共通している。ただ『真犯人フラグ』は、それぞれの誘拐が全く別の動機だったのに対し、『マイファミリー』は、主人公・鳴沢温人(二宮和也)の友人・東堂(濱田岳)が自分の娘・心春の誘拐事件の真犯人を引きずりだすために行ったもので、4つの誘拐事件が最後は一本の線に繋がる話となっていた。


 両作品とも家族の絆を取り戻す物語だが、『真犯人フラグ』に関しては、主人公は仕事熱心で、家族思いだっただけに、なぜ異変に気づかなかったのだろうという苦しみが一つのポイントとなり、メディアを通して家族思いをアピールしたことで、逆に世間に疑われ続けるという内容となっていた。一方、『マイファミリー』の温人は、同じく仕事熱心ではあるものの、家族を顧みずに仮面夫婦状態であり、娘にも「気持ち悪い」と言われるほど愛のない家庭だったのが大きな違いだ。誘拐されたのは本人の愛情のなさも一つの理由だと視聴者に思わせ、容疑者らしき人物を見せるのではなく、家族や社員、または主人公本人の狂言誘拐の可能性も考えさせた。


 こうした考察ドラマとして人気となったのも、オリジナル脚本だということが理由に挙げられる。ミステリー作品において一番難しいのがネタバレで、原作ものだとSNS文化が発達した現代においては放送前から原作を読んでいない人でも犯人を知ってしまう危険性が高い。そんな中でオリジナル作品が作れるのが秋元の強みで、最近考察ドラマが増えたきっかけは、やはり『あなたの番です』の成功にあると思う。誰もがSNSを利用する時代となり、自身の考察でドラマに参加している気分を味わえること。また、考察ドラマは繰り返し観られることで、有料動画サイトや、公式YouTubeでの番宣やまとめ考察動画などの再生数が伸びるという点で、制作側としても美味しいコンテンツとなっている。


 『マイファミリー』もこうした時代の流れに乗ったことが、最終話が最高視聴率を記録し、有終の美を飾った理由だと考えられる。細かく観れば消化しきれていないことが多々あるが、誘拐事件を題材に1、2クールのドラマを作るという意味では、アイデアとしてはよく考えられた2作品だったように思う。みなさんはどちらが好みだっただろうか。


(本 手)