2022年06月23日 19:31 弁護士ドットコム
三菱UFJモルガン・スタンレー証券元社員でカナダ出身のグレン・ウッド氏(52)が、育児休業から復帰後に休職・解雇に追い込まれたとして、約1300万円の慰謝料や社員としての地位確認などを求めた訴訟の控訴審判決が6月23日、東京高裁であった。渡部勇次裁判長は1審判決を全面的に支持し、控訴を棄却。「(育休)申請の不受理はやむを得ない」とし、会社側の対応は妥当との判断を示した。
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ウッド氏が育休申請したのは、2015年11月。日本では男性の育休は珍しかった頃だ。パートナーがネパールで子どもを出産したためだったが、会社側は母子手帳の提出がないことなどを理由に拒否。ウッド氏は父子関係を示すDNA鑑定の結果を提出し、2015年12月に取得が許可された。
2016年3月に復帰したものの、うつ病を発症して休職。その後、要職からの業務変更や休職命令などがあり、2017年12月、提訴に踏み切った。記者会見で「パタハラ(パタニティ・ハラスメント)」という言葉を使って日本社会に対しても問題提起した。こうした対応に、会社側は職場秩序を損なったことなどが就業規程に基づく解雇事由に当たるとし、2018年4月にウッド氏を解雇した。
ウッド氏は、育休取得を妨害されて一時的に欠勤扱いとされたことや正当な理由もなく業務を減らされたことなどは「パタハラ」に当たると主張していた。
2020年4月の1審判決は、「法律上の親子関係が確認できない中で、可能な限りで原告の意向に沿うように対応している」とし、育休取得の妨害はなかったとして、ウッド氏の主張を全面的に退けた。休職命令や解雇についても、相当だとした。
東京高裁も、この判断を支持。新たに原告側が主張していた、ハラスメントを訴えた後に当該上司への聞き取りしかしないなど、適切な対応をしなかった環境調整義務違反についても認めなかった。
約50の傍聴席が支援者らでほぼ埋まった法廷は、判決言い渡しの瞬間、ため息が漏れた。
ウッド氏は判決後、都内で記者会見を開き「日本の司法に正義はなかった。でも最高裁まで闘うのが自分の責任」と語った。代理人を務める今泉義竜弁護士は「敗訴は残念だが、周回遅れの日本社会で声を上げた意義は大きい」と述べ、近く上告する方針を示した。
ウッド氏は英語と日本語で「息子は7歳になった。育児休業を認めないことが違法だということを訴えた極めて簡単なケースなのに、こんなにも時間がかかっている」と語気を強めた。
「育休を取ると仕事で干される。それでは子どもをつくろうと思えない。少子化は加速するばかりだ」。日本の現状にも疑問を呈する。「みんなでSDGsのバッジを付けても、司法の判断は逆をいっている。これでいいんですか、日本。信じられない」と主張した。
ウッド氏は日本在住30年を超えている。「日本は大好きな国だけど、個人が声を上げられない社会だ」と指摘。「司法は大昔から全く変わっていない。メディアと話したらクビになることがまかり通るなら、グローバル化はほど遠い」と批判した。