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ホンダの新型「ステップワゴン」に公道試乗! 最安グレードでも魅力は十分?

2022年06月20日 11:31  マイナビニュース

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画像提供:マイナビニュース
ホンダの新型「ステップワゴン」に、いよいよ公道で試乗した。その印象は強烈で、いまもその余韻が体に残っている。今回の試乗では「AIR」(エアー)のガソリンエンジン車と「SPADA」(スパーダ)のハイブリッド車(HV)に乗って、一般道と高速道路をじっくりと走ってみた。


○圧巻の見晴らし!



何より驚いたのは視界のよさだ。ホンダは現行型「フィット」から、以前にも増して前方視界のよさにこだわったクルマづくりを進めている。ことにフィットでは、車体構造に従来と違う考え方をとり入れ、フロントウィンドウを支える柱と前面衝突の衝撃を受け止める支柱とを分けた構造を開発した。


同じく前方視界を重視したSUVの「ヴェゼル」や今回の新型ステップワゴンでは、フィットのように独特な車体構造こそ用いていないが、フィットで開発・検証した良好な前方視界の確保という方針を引き継いた。運転席に座ると、景色が大きく開けて見えることに感動さえ覚える。



驚きの視界には、ステップワゴンがミニバンという背の高い車種であるため、着座位置が高いことも関係しているはずだ。見下ろすような景色が前後左右に広がっていて、逆に外からも車内が見えるのではないかと思うほど、あけっぴろげの印象がある。



当然、衝突安全を含めた車体構造は頑丈な骨格で構成されているはずだが、運転席から前後左右を見渡してみても、そこにある支柱の存在があまり気にならない。周囲の様子をよく認識できるので安全確認をするうえでも確信が持てるし、角を曲がったり車線変更したりする際も安心感がある。



1990年代以降、自動車業界では衝突安全性能の向上が世界的に求められるようになった。車体は太くてごつい骨格で囲まれ、視界は悪化の一途をたどってきた。対策として、周囲の障害物を認識するセンサーや肉眼に代わって周囲を確認するカメラなどを装備するようになったが、それを信じ切っていいのかという漠然とした不安は解消されないままだ。ところが、新型ステップワゴンでは肉眼で周囲を確認し、加えてセンサーやカメラの助けも借りながら、確信をもって安全と認識し、運転することができるのである。



この安心や信頼は絶大だ。クルマを信頼して運転し続けられるからこそ、新型ステップワゴンの本質的価値を存分に体感することができるのである。



運転席で実感した視界のよさは、2列目や3列目に座っても同じように実感できる。これも新型ステップワゴンの魅力だ。単に室内空間が広々と感じられるだけでなく、後ろの席からでも開けた視界を通じ、車窓を流れる景色を見ることができるので、後席に座っていると癒される。


○5ナンバー車に1.5Lエンジンで力不足が心配?



新型ステップワゴンには「AIR」(エアー)と「SPADA」(スパーダ)の2車種がある。エアーは標準車の位置づけで、スパーダはこれまでのステップワゴンでも派生車種として人気を得てきたモデルだ。


このうち、ステップワゴンの価値、素性のよさを素直に感じられるのはエアーだ。ファブリックシートの座り心地は優しく、体にそって包み込むように支えてくれるので、感動的な視界のよさからくるステップワゴンへの信頼を体感的にもより深めてくれる。その快適さは2列目、3列目でも実感できる。

ステップワゴンは今回のフルモデルチェンジで3ナンバー車になったが、5ナンバーミニバンの基本的価値である実用性はそのままに、より上質な味わいが加味されている。この快さは、ほかのミニバンではあまり感じられないエアーの魅力なのではないかと思う。



今回の試乗で乗ったエアーは1.5Lガソリンエンジンを搭載するモデルだった。ほかにハイブリッド「e:HEV」の選択肢もある。



3ナンバーとなったミニバンに、排気量わずか1.5Lのガソリンエンジンで足りるのかという思いはあったが、いざ運転してみると、完璧な仕上がりといっていい動力性能だった。発進から加速、そして追い越し加速、そのすべてにおいて十分な力を発揮した。なおかつ、強い加速を求めてエンジン回転数を高めたときも、耳障りな雑音というようなエンジン騒音の高鳴りはなく、想像以上に静粛性を保持した。3列目に座る同乗者との会話も、苦もなく普通にできた。


エンジン回転数が高くなったときの軽やかな回転は、長年にわたり「エンジンのホンダ」といわれ、自動車業界でも一目を置かれてきたホンダの面目躍如たる爽快さだ。回転の手応えもよく、改めてガソリンエンジンに惚れ直すほどの出来栄えである。車両価格の面でも手ごろになるガソリンエンジン車は、新型ステップワゴンのひとつの完成形といえるだろう。


○ハイブリッドの動力性能は高級車並み?



e:HEVにはスパーダで試乗した。



スパーダは座席など内装がエアーと異なり、合成皮革なども用いた別仕立てで上級車の趣がある。座席の座り心地も悪くないが、エアーの人に寄り添う優しさとは別の、丈夫で長持ちする良品といった感触だ。そこは好みの違いになるだろう。


ハイブリッド車(HV)としての乗り味はガソリンエンジン車と異なり、静粛さと重厚さをより強く印象付ける。5ナンバーミニバンとして愛されてきたステップワゴンの高級仕様といった雰囲気だ。試乗車の2列目は、1人掛けのキャプテンシート2座が並ぶ仕様だった。キャプテンシートを目いっぱい後ろにスライドさせれば、リムジンのような空間にもなる。



モーター特有の力強さで静かに、しかし猛然と加速することもできる走りっぷりは、伝統的に高級車に求められてきた高い動力性能を実感させる。普段は穏やかで滑らかな走りでありながら、必要であれば底力を発揮できる潜在力は魅力だ。



スパーダには「プレミアムライン」と名付けられたより高価な仕様もある。こちらは座席がスエード調と合成皮革をあわせた表皮になり、さらに上級志向となる。


ステップワゴンの競合としてはトヨタ自動車の「ノア/ヴォクシー」が先にフルモデルチェンジし、ミニバンとして大きく進化して商品性を高めたことに驚かされた。だが、新型ステップワゴンはそれに負けていないばかりか、開けた視界を含め独自の魅力を十分に備えている。ショールームで乗り込んでみるだけでなく、ぜひ街に出て、景色のなかで走らせてみるといい。自分の街がこんな華やかさを備えていたのかと、開けた視界に深い感銘を受けるはずだ。



御堀直嗣 みほりなおつぐ 1955年東京都出身。玉川大学工学部機械工学科を卒業後、「FL500」「FJ1600」などのレース参戦を経て、モータージャーナリストに。自動車の技術面から社会との関わりまで、幅広く執筆している。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。電気自動車の普及を考える市民団体「日本EVクラブ」副代表を務める。著書に「スバル デザイン」「マツダスカイアクティブエンジンの開発」など。 この著者の記事一覧はこちら(御堀直嗣)