2022年06月20日 10:11 弁護士ドットコム
政府は5月17日、全世代型社会保障構築会議を開いて中間整理を公表しました 。中間整理では、「成長と分配の好循環」を実現するためには全ての世代で安心できる「全世代型社会保障」を構築する必要があることが確認されています。
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子育て支援に関しては、1999年12月、「少子化対策推進基本方針」が策定され、2003年には「少子化社会対策基本法」と「次世代育成支援対策推進法」が制定され、2004年に「少子化社会対策大綱」が閣議決定されるなど、20年前から議論されてきました。
直近でも、6月15日に、岸田文雄首相が出産育児一時金について、「私の判断で大幅に増額する」と表明しましたが、「そもそも無料にすべきではないか」「財源の確保ができていない」と冷ややかな見方も出ています。
自治体の努力もあって待機児童の数はかなり減少してきましたが 、依然として出生数は下がり続けています。少子化対策が求められている中、なぜ、子育て支援が一向に進まないのでしょうか。(ライター・岩下爽)
全世代型社会保障構築会議とは、少子高齢化や働き方の多様化に対応する新しい社会保障のあり方について検討する会議です。社会保障は、あらゆる年代に関係するものですが、保険料を負担しているのは現役世代で、給付の多くは高齢者が受給しています。
このような不公平感を是正し、高齢者にも一定の負担をしてもらい、子育て世帯やフリーランスなど現役世代に対する給付をより充実させようというのが「全世代型社会保障」です。
中間整理では、①男女が希望どおり働ける社会づくり・子育て支援、②勤労者皆保険の実現・女性就労の制約となっている制度の見直し、③家庭における介護の負担軽減、④「地域共生社会」づくり、⑤医療・介護・福祉サービスについて議論されています。
この中でも特に社会保険の将来の担い手を増やすという意味で「子育て支援」が重要です。そのため、どの政権でも子育て支援は重要な政策課題とされてきました。子育て支援に力を入れることについて反対する人はおらず、国民からも多くの支持が得られるというのが大きな理由です。
最近では「親ガチャ」と呼ばれるように親の経済状況によって子どもの将来性が大きく左右されることが問題視され、格差のない幼児教育の重要性が指摘されています。どのような家に生まれても、等しく幼児教育が受けられるよう体制を整備することが求められています。
また、約5割の女性が出産・育児により退職しているという現状から、育児休業や短時間勤務の制度も重要です。しかし、制度があっても利用できなければ意味がありません。誰でも自由に選択できるよう環境を整備することが求められています。
(1)運用を企業任せにしている
「育児休業」や「短時間勤務」の制度は、法令で定められた労働者の権利です。しかし、これらは労働者が申し出てはじめて適用されるものです。つまり、「手挙げ方式」であるため、労働者が育児休業を取得したいと主張しなければ、育児休業は発生しません。
実際の育児休業の取得率を見てみると、令和2年度で女性が81.6%、男性が12.65%になっています。女性は、ある程度育児休業が定着してきたようにも思われますが、男性は依然として低い水準です。子育ては女性だけがするものではないため、男性も育児休業を取得できるよう環境整備をする必要があります。
男性が育児休業を取得できない背景には、「育児休業を取りたい」と言いづらいということがあります。会社としては育児休業制度を認めていながら、実際には育児休業が取りにくい雰囲気のところが多いというのが実情です。
「企業は育児休業を取得したからと言って不利益を課したりはしない」と信じたいところですが、人事評価をする上で、育児休業を取ったから評価を下げると正直に書く人はいないでしょうから、別の内容で低く評価される可能性があります。そのことをおそれて、男性の場合、育児休業を取っていないというのが実態だと思います。
(2)国会議員が本腰を入れない限り、動かない
子育て支援については、どの政権も重要課題として取り上げていると述べましたが、それは国民受けが良いからです。しかし、政権の中枢にいるのは、子育てとはあまり関係のない高齢のおじさん国会議員です。また、全世代型社会保障構築会議のメンバーにも若い人はいません。これでは、子育て支援について積極的な議論がなされるはずがありません。
官僚は、政権幹部の意向を忠実に実現しようとするため、一定の対策は提案しますが、国会議員が本腰を入れない限り、あまり積極的には動きません。そのため、細かい法改正はなされますが、抜本的な改正はなされないわけです。
特に、今は参議院議員選挙前なので、票につながる高齢者の給付を削減するなどという政策を打ち出せるわけがありません。若者には子育て支援をすると言いながら、具体的な財源については何ら踏み込んでいないのは、少なくとも現時点では実行する気がないからです。
このように、子育て支援への取り組みは、看板だけ掲げて開店休業しているような状態です。これを変えるためには、若い人が声を上げるしかありません。今は、SNSを使い誰でも発信できる世の中なので、子育て支援の必要性について積極的に発信していくべきです。
同時に社会保障の不平等感や社会保障の是正について真剣に取り組む政党があれば、その党に投票すべきだし、そのような政党がなければ、陳情するなどして子育て支援をするよう求めていくことも重要です。つまり、おじさん国会議員が無視できないような状況に持ち込む必要があるということです。
「選挙に行っても何も変わらない」として選挙に行かない人も多いですが、若者が選挙に行くことで若者の投票率が上がります。そうすると、国会議員も若者の意見を無視できなくなります。若者が選挙に行くだけでも大きな影響を与えることができるので、必ず選挙に行くべきです。
現に子育てで困っているという人については、行政だけに頼るのではなく、NPO法人などに支援を求めることも有効です。子育て支援をしているNPO法人はたくさんありますので、相談してみるとよいでしょう。また、NPO法人の中には、政府に対して政策提言をする法人もありますので、そのようなNPO法人に寄付をするなどして、間接的に政治を動かすという方法もあります。