2022年06月20日 10:01 弁護士ドットコム
人気ラーメン店は回転率が命。パッと食べてパッと出るのが暗黙のルールですが、子どもが居るとなかなかそうもいきません。人気ラーメン店で「子連れお断り」と言われてしまった男性が、弁護士ドットコムに相談を寄せました。
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以前から家族で食べてみたいと話していた人気ラーメン店がありました。近隣の有料パーキングに停めて並び、いざ入店しようとした時に、店員さんに「うち、子ども連れはお断りしているんです」と言われました。
その場はしょうがなく去ったものの、納得できなかったため、あとから電話で理由を聞きました。狭い店内なので席がばらける可能性があること、他のお客さんもいること、ゆっくりできないことなどと説明されました。
回転率を重視して子どもはお断りといった感じで、何を言っても「とにかく子どもはダメ」の一点張りでした。
このお店はSNSやHPが一切なく、グルメサイトなどでもそういった注意書きはありませんでした。しかし、このような店側の対応に法的な問題はないのでしょうか。
結論から言うと、ご質問のケースでは、店の対応に「法的な」問題はない、ということになります。
飲食店での食事は、法的には商品(食事)の売買契約またはサービス供給契約、あるいはこれらの複合的なものと理解されますので、契約一般の原則によって規律されます。
契約一般の原則では、契約当事者は自由に契約の相手を選ぶことができ、契約の申し込みがあっても拒絶することもできます。したがって、飲食店がある特定のお客様(子連れの場合に限りません)の利用を謝絶したり、利用に条件をつけることは法的には問題はありません。
ただし、人種や性別など、社会的に差別が許されないと認識されている事由で顧客を選別する行為は合理的理由のない限り違法となる場合もありますが、「子ども連れ」という理由はいまのところ合理的理由のない差別にはならないと考えます。
実際の例として、バーのようにお酒をメインに楽しむ店が20歳以下の利用をお断りすることや、高級店でドレスコードを指定して短パンやサンダル履きのお客様の利用をお断りすることがありますが、子連れNGというのもこれと同様のことと考えてもらえば分かりやすいと思います。
このように一定のお客様の利用をお断りする、あるいは利用に条件を付ける場合、あらかじめその旨をホームページや店頭の張り紙などで利用を検討している人にわかるようにしておくことが丁寧ですが、このような告知をしていないからといって違法となるわけでもありません。
もっとも、近年は育児休暇の積極的な取得が推進されるなど、子育て世代に優しい社会を作ろうという認識が強まっています。飲食店でも「子連れ歓迎」というお店も増えていますし、小さな子ども連れの家族に優しいことが評判になって繁盛するお店もあります。
特に合理的な理由がなく子連れNGとすることはこのような社会のニーズに反する方針であり、特にSNSでの口コミが重視されるようになった現在では、きちんとした理由を示さず子連れNGとすることは経営面ではマイナスになることも考えられます。
ただし、ご質問のケースのように店が狭い場合や、カウンター席しかないなどで子どもさんの安全を確保できない場合などの設備面の理由でやむを得ず子どもNGとする場合もありえますし、サービス内容や店の方針であえて子どもNGとする場合も考えられますので、経営面でもどちらが正解、というものではないでしょう。回転率を理由に子連れNGとすることも経営方針と言ってしまえばそれまでです。
HPやグルメサイトへの掲載をするかどうかも各店の経営判断です。あえてこのような広告をしない店も当然ありえますが、その場合でもクレームの元になりますので、例えば予約の際にお断りをするとか、店頭に分かりやすく掲示するなどの工夫はありえると思います。
また、近時はコロナ禍でテイクアウトの普及も進んでいますので、店内飲食は子連れNGとするとしても、テイクアウトを活用するなどしてできる限り子どもさんのいる家族にも料理を楽しんでもらうようにするという工夫もありえるでしょう。
子どもは泣くもの、騒ぐもので、散らかすことも当たり前です。全てのお店が子ども連れOKにすべき、とは申しませんが、子育てをしやすい社会の実現が求められているなか、飲食店やその利用客も含めて、こういった子どもの「当たり前」に優しい社会になって欲しいと思います。
逆に、子ども連れOKのお店であっても子どもや親が何をしてもOKというわけではありません。利用する側もお店に過剰な負担をかけないように配慮し、「子ども連れ歓迎」という姿勢を続けてもらえるよう節度を保った対応が求められると考えます。
【取材協力弁護士】
半田 望(はんだ・のぞむ)弁護士
佐賀県小城市出身。主に交通事故や労働問題などの民事事件を取り扱うほか、日本弁護士連合会・接見交通権確立実行委員会の委員をつとめ、刑事弁護・接見交通の問題に力を入れている。また、地元大学で民事訴訟法の講義を担当するなど、各種講義、講演活動も積極的におこなっている。
事務所名:半田法律事務所
事務所URL:http://www.handa-law.jp/