2022年06月19日 08:11 弁護士ドットコム
プロ野球・阪神タイガースを傘下に収める阪急阪神ホールディングス(HD)の株主総会が6月15日、大阪市内で行われた。同総会は例年、株主から球団についての質問が飛び交うことで知られており、今年も様々な「厳しいご意見」があったようだ。
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報道によると、ある男性株主は「(矢野燿大監督が)キャンプイン前日に『辞めますわ』って、あんな自分勝手な人おらんで。キャンプ中に胴上げした。予祝て何や。社会的常識のない監督に役員は言うたんか。」と発言。
これに対し、阪神の球団の谷本修オーナー代行は「前任の金本監督から続くプロジェクトを2022年で完結したいという矢野の思いを受け止めたというところ」などと回答したようだ。
別の男性株主は「安易に外国人やFA選手に頼る補強は反対」と訴え、3軍制をとる考えがあるのかを質問。阪神電鉄の秦雅夫社長は「10年ほど前から取り組んでいるスカウト戦略が実を結びつつある段階」とし、3軍制については検討課題で、すぐに導入する結論にはいたっていないと答えたという。
球団経営に関わる役員を前にして、阪神ファンとして黙っていられなかったのかもしれない。ただ、同社の公表資料によれば、球団経営やチーム方針そのものは報告事項や決議事項に含まれていない。このような場合でも、経営側は株主の質問に必ず回答しなければならないのだろうか。今井俊裕弁護士に聞いた。
——「風物詩」とも言えるやり取りが今年も行われたようですが、経営側は株主の質問に必ず回答しなければいけないのでしょうか。
結論として、今回のような質問に回答する義務は「ない」ということになると思います。
株主総会は株式会社のオーナーである株主に対し、株の配当金に直結する情報である会社の決算事項を報告したり、あるいは承認してもらったり、その他、役員人事や会社の組織改編などについて承認してもらう場です。
そして、その議題、つまりお題やその議案は、会社が決めて株主に提案する形になります。とすれば、会社としては、その議案の内容について、必ずしも経営のプロではない株主にも理解できるような説明をしなければなりません。当然、質疑応答の機会も保証されるべきです。
そこで、会社法は、取締役などの役員や執行役に対し、株主の質問に回答する義務を課しています(314条)。ただし、株主総会の報告事項にも決議事項にも関連しない質問などについては回答する義務を負いません。
——阪神タイガースの運営方針などについて質問はどうでしょうか。
阪神タイガースは、株式会社阪神タイガースが運営するプロ野球チームです。株式会社阪神タイガースは阪神電気鉄道株式会社の子会社であり、阪神電気鉄道株式会社は、阪急阪神HDの子会社です。
阪神タイガースの経営状況などは、阪急阪神HDの決算報告事項に関連性がないとは言い切れません。
とはいえ、野球チームの監督人事や監督に対する会社からの指導、あるいは有能選手の養成方法や獲得に関する具体的な戦略などが、阪神タイガースの経営に関する事項とはにわかには言えないでしょう。したがって、そのような質問に対して、役員らに回答する義務はない、ということになります。
報道によれば、役員や球団オーナー代行などが真摯(?)に回答したようですが、回答する側も上記の法律制度を理解した上で、「ダメ虎を猛虎に復活させたい」という株主の熱い虎魂に応えたものだと思われます。
【取材協力弁護士】
今井 俊裕(いまい・としひろ)弁護士
1999年弁護士登録。労働(使用者側)、会社法、不動産関連事件の取扱い多数。具体的かつ戦略的な方針提示がモットー。行政における、開発審査会の委員、感染症診査協議会の委員を歴任。
事務所名:今井法律事務所
事務所URL:http://www.imai-lawoffice.jp/index.html