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『インビジブル』は再生の物語だった 高橋一生が志村に宿らせた“人間臭さ”

2022年06月17日 06:01  リアルサウンド

リアルサウンド

高橋一生『インビジブル』(c)TBS

 刑事と犯罪コーディネーターの異色のバディが描かれた『インビジブル』(TBS系)がついに最終話を迎える。


【写真】最終話で見納めとなる高橋一生×柴咲コウ


 突然、犯罪コーディネーターの“インビジブル”を名乗る謎の女・キリコ(柴咲コウ)から手を組むことを提案された刑事・志村貴文(高橋一生)。毎話、凶悪犯罪者“クリミナルズ”との対決からかなりハードなアクションシーンの数々に挑む高橋一生の姿が見られた。しかも、ほとんど代役を立てずに撮影しているというから驚きだ。(※)


 常に決まったスーツ1着に身を包んだ軽装で、第2話で一瞬映った自宅も必要最低限のものしか置いていないミニマリストのような空間だったが、そんな志村は“必要以上に大切なもの”を持たないようにしているように見える。これにはきっと目の前で後輩・安野(平埜生成)を殺された3年前の通り魔事件が深く影を落としているのだろう。


 安野を守れなかった罪悪感や喪失感からか、自分のことには全く疎く、気怠そうでどこかやさぐれた志村の風貌からは自己犠牲が滲む。責任感が強いからこそ、そして実際には愛情深いからこそ、不用意に大切なものを抱え込みすぎないように周囲と距離をとりセーブしてきたのだろう志村の3年間が透けて見えるようで胸を突かれる。そして、意識的に身軽であろうとする志村ゆえに、向こう見ずに思えることもやってのける。さらに何なら志村は自分自身さえ信用できていない節も見受けられる。


 “熱血漢”でも“正義のヒーロー”でもない志村だが、あまりに理不尽に命を奪われた安野のことを思う時、何とか自分の中にある“正義感”に頼らなければ自身を正常に保てないしそこに立っていられないのだろう。時折足元をすくわれそうになりながらも“悪”には加担せずにどうにか踏みとどまる志村には、どうしようもないほどの“人間臭さ”が宿る。


 キリコも弟・キリヒト(永山絢斗)に志村のどこかすごいのかと聞かれた際に「あの人は大切な人を殺されてる、あんたにね」とだけ答えていた。その志村の傷口は完全には塞がってはおらず、クリミナルズによる犯行に遭遇する度、誰かの悪意に触れる度に傷口からは今なお血が流れ続けている。


 それでも3年前の事件の真相に近づくため、安野やその妹の無念を晴らすために静かに痛みに耐えながら前進する志村の葛藤や、その痛みをも安野を救えなかった自身への罰だと言わんばかりに受け入れる生々しい姿こそが、この少し現実離れした本作の設定を我々視聴者に一気に近づけてくれているように思える。


 そして、そんな志村がキリコと徐々に心を通わせ、互いに口に出して伝えられることは少なくとも真意を共有し合い信頼し合っている姿を見るにつけ、互いに大切な人を突然奪われた志村とキリコ双方にとって、本作は“再生”の物語でもあるのだろうと思い知らされる。


 史上最凶の“クリミナルズ”のリーパーであり内通者でもある監察官・猿渡(桐谷健太)との直接対決が描かれる最終話。志村はこの血も涙もなく、死をきちんと捉えられていない“悪”を何を持ってして封じ込め裁こうとするのか。これまで同様に、“悪”には転じずに何とか“こちら側”に踏ん張り続けられるのか。志村とキリコにどんな未来が待っているのかしっかりと見届けたい。


・参照
※ https://topics.tbs.co.jp/article/detail/?id=16024


(佳香(かこ))