2022年06月13日 19:11 弁護士ドットコム
インターネット上の誹謗中傷対策として、侮辱罪の「厳罰化」を盛り込んだ改正刑法が、6月13日の参院本会議において賛成多数で可決、成立した。
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女子プロレスラーの木村花さんがSNSの中傷を苦にして亡くなったことを受けて、法改正の議論が加速していた。
この日、ロビー活動を続けてきた花さんの母・木村響子さんらが記者会見を開き、被害当事者の家族として「やっとか」と心情を語り、残された課題の解決に目を向けた。
改正刑法では、拘留または科料だけだった侮辱罪の法定刑に「1年以下の懲役もしくは禁錮」「30万円以下の罰金」を追加した。また、公訴時効も1年から3年に延びたことで、投稿者特定にかけられる期間も長くなった。
厳罰化による言論への抑制も懸念されることから、このたびの法改正では、「表現の自由」との兼ね合いから施行3年後の検証も明記された。
成立に感謝の弁を述べた木村響子さんは「成立して終わりでなく、ここからが始まりだと思う」と残された課題に目を向ける。
響子さんは、花さんへの中傷をネットに書き込んでいた者を発信者情報開示請求の手続きによって特定した。その後、投稿者は侮辱罪で書類送検されたものの、科料9000円という判決が出され、被害に見合わない刑の軽さも大きく報じられた。
民事でも損害賠償請求の裁判を起こし、130万円の損害賠償の支払いが命じられたが、それはいまだに支払われていないという。
「こちらが必死に裁判をして、勝っても、それを回収できないということがあります。なんのための裁判をやっているんだろうと思ったことは2回や3回だけではありません。お金も地位もない『無敵の人』は、追い詰めても何も罪に問えないことになる。厳罰化は最後の砦になってほしいです」
被害者に向けた相談窓口の周知や、開示手続きの助成金、プラットフォームを取り締まる法律作りなど、被害者の救済に必要な制度やルールの整備が急務だと訴えた。
「厳罰化ということではなく、ネット社会に即した適正化だと思います」と話すのは池袋暴走事故で妻子を亡くした松永拓也さん(関東交通犯罪遺族の会副代表理事)だ。
厳罰化によって、中傷の書き込みが「やってはいけないことという社会通念ができると思います」と指摘。
そのような抑止力としての効果を期待しつつ、形だけではなく、罰則が適切に運用されることこそ抑止につながると指摘した。
また、加害者の多くが「意見のつもりだった」と考える現状を紹介し、批判・意見と誹謗中傷の境目があいまいであることを問題視し、その線引きを丁寧に説明するガイドラインの作成を求めた。
松永さんの考えでは、「根拠に基づき建設的な意見を述べることが意見。根拠なく他人を攻撃することが誹謗中傷」としている。
響子さんの代理人をつとめた清水陽平弁護士は、法改正にはメリット・デメリットが考えられ、デメリットとしては、厳罰化が言論封じや濫用につながるのではないかとの懸念があると説明する。
そのため、適切な運用がなされているか、批判的に監視されることも必要だとした。
会見には、響子さんとともに刑法改正に向けて活動した佐藤大和弁護士、スマイリーキクチさん(インターネット・ヒューマンライツ協会代表理事)、齋藤理央弁護士が登壇した。