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電気自動車が急増する中、あえてシトロエン「E-C4」を選ぶ理由とは?

2022年06月13日 07:41  マイナビニュース

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画像提供:マイナビニュース
電気自動車(EV)が増え続けている。中には航続距離が長いクルマ、とんでもない加速力を持ったクルマ、先進的なテクノロジーが詰まったクルマなどさまざまな選択肢があるが、では、シトロエンの「E-C4」を選ぶ理由とは何だろうか。試乗して考えた。


○独特なクーペSUVスタイルが特徴



フランスのシトロエンから国内市場に導入されている唯一のEVがE-C4だ。電気駆動系は先に日本に導入されたプジョー「e-208」や「e-2008」と同じ。EVとしての性能や魅力はプジョーの2車種ですでに実証済みだったので、E-C4も乗る前から、間違いのないEVの選択肢となりそうな予感があった。


E-C4のベースとなる「C4」はプジョーでいえば「308」と同格であるため、E-C4はe-2008に比べひと回り大柄になる。それでも後ろ姿がクーペのように傾斜しており、ヘッドライトやリアコンビネーションランプが独創的な造形となっているため、横幅があまり気にならず、クルマと対面しても手に余るような大きさに腰が引けるような印象はなかった。運転中、住宅地の路地で持て余すようなこともなかったのは、車両感覚のつかみやすさが関係しているのかもしれない。


EVのよい点は、E-C4とe-2008で車格が若干違っても、走行性能にほとんど不足を覚えさせないことだ。理由は、モーターのトルクの出方にある。



エンジンは、回転数が高くなるにしたがってトルクや出力が大きくなる。一方でモーターは、回転数が低いうちから大きなトルクを出せる。したがって、アクセルペダルの踏み込み次第でいかようにも鋭い発進ができ、車両重量の重さをほとんど感じさせないのが常である。



E-C4も、イグニッションを入れてアクセルペダルを軽く踏み込むと、穏やかだが力強く動き出す。走行モードは「ノーマル」だったが、ほかに「エコ」と「スポーツ」があったので、さっそくエコを選んでみた。それでも、市街地から高速道路まで、通常の運転であれば力不足は感じない。これはe-2008でも同じだった。エコモードのほうが一充電走行距離をより長くできるので、日常的にはこちらのモードで運転するといいのではないだろうか。走行距離に対する安心感も高まる。


さらにオススメは、シフトを「D」から「B」へ切り替えての運転だ。これによってアクセルペダルを戻した際の回生が強まり、その減速力をいかした速度調節ができる。E-C4の場合は停止するまでワンペダルでできるわけではないが、ブレーキへのペダル踏み替えを減らせるだけでなく、回生をいかした速度調節や減速によって発電量を増やし、車載のリチウムイオンバッテリーへの充電を促せるので、この点も一充電走行距離を伸ばすことにつながる。



私の運転では、実際の走行距離に比べ残りの走行可能距離の減りが少なく、しばらく同じキロ数表示を続けられる場面もあった。ここが、EVの興味深いところだ。回生をいかした運転をすると頻繁に充電を行えるし、走行可能距離の減り方も抑えられるので、得した気分になる。日常の買い物やさまざまなサービスで付与される「ポイント」を貯めるような感覚だ。


スポーツモードに切り替えると、アクセルペダルの踏み込み量に対し加速の瞬発力がより強くなる。加えてモーター特有の滑らかな加速の持続によって、胸のすく高速走行を満喫できる。とはいえ、普段はエコモードとBレンジの組み合わせで十分だし、その設定でも静かで滑らかなEVらしい加速は実感できるはずだ。

○クセがないところが最大の魅力?

e-208やe-2008と違う点があるとすれば、E-C4には「プログレッシブ・ハイドローリック・クッション」(PHC)と名付けられたサスペンションが組み込まれている。これがEVの静粛な走りと合致し、上級車の趣となる。



PHCは車体の上下動を減衰する(収束させる)ダンパーという部品の内部に追加の減衰機構を設けることで、上下振動をより穏やかに収束させるシステムだ。


1919年に創業したシトロエンは、第二次世界大戦前から快適な乗り心地を実現するためのさまざまな技術をサスペンションに導入してきた。ことに1950年代の「DS」という車種に用いた「ハイドロニューマチックサスペンション」が象徴的だ。空気と油圧を利用した衝撃吸収方法で、空気を金属バネ、油圧をダンパーの代わりに利用し、あらゆる上下振動に適応させる自在性が特徴だった。類まれな快適性を視覚的に表現するため、当時のDSの広告では、タイヤの代わりに風船を装備したクルマが水の上に浮かんでいる写真を使ったこともあった。



ハイドロニューマチックサスペンションに替えて、通常のサスペンション形式でありながら同様の乗り味を実現しようとしたのがPHCだ。この技術は、シトロエンがダカールラリーに参戦した際の特別仕様を基にしている。電気系の性能ではe-2008などとの大きな差が感じられなかったE-C4だが、静かな走りとともに、微振動を感じさせない上質な乗り心地の点ではシトロエンらしさを味わうことができた。


室内の様子はいたって簡素でありながら、仕上げの質感は高く、やはり上級車種の趣がある。運転中のメーター表示はシンプルで、必要な情報はヘッドアップディスプレイにも表示される。前方を見る目線の動きも少なく、的確に情報が確認できるので安心して運転できた。


逆にいえば、何かがものすごく印象深いということもなかった。乗ればすぐに慣れることができて、無意識のうちに快適かつ自然に運転できる、心地よいEV。これがE-C4のEVとしての価値なのかもしれない。



後席もe-2008同様、床下のバッテリー配置が工夫されていることによって床が高くなる弊害もなく、正しい姿勢で快適に座り続けられる。



EVはモーター特性によって走りもよく、乗り心地もよく、静かで、どの車種を選んでもあまりハズレのないクルマだ。そのため、無理に特徴をだそうとすれば、逆に違和感となってしまうことがある。その点において、E-C4は実に心地よく親しみやすいEVに仕上がっている。それでいて凡庸なわけではなく、PHCのような独自技術を黒子のようにいかし、快さをさりげなくもたらす奥ゆかしさに、実は独自性が隠されている。



乗ってみると、手放せなくなるEV。E-C4にはそんな魅力があると思った。


御堀直嗣 みほりなおつぐ 1955年東京都出身。玉川大学工学部機械工学科を卒業後、「FL500」「FJ1600」などのレース参戦を経て、モータージャーナリストに。自動車の技術面から社会との関わりまで、幅広く執筆している。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。電気自動車の普及を考える市民団体「日本EVクラブ」副代表を務める。著書に「スバル デザイン」「マツダスカイアクティブエンジンの開発」など。 この著者の記事一覧はこちら(御堀直嗣)