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夜明け近づく「TRPG×VR」の融合 『Xpraize』が示す新たな可能性

2022年06月11日 10:01  リアルサウンド

リアルサウンド

『Xpraize』

 5月31日、『Xpraize』のベータ版がリリースされた。


 水面下で盛り上がるTRPG×VRという新しいジャンル。前例の少ない世界に一歩を踏み出した同タイトルは、分野の旗手となれるだろうか。『Xpraize』の発売を入り口に、TRPGがVRと融合することの可能性を考える。


【画像】VR上でTRPGが楽しめる『Xpraize』


〈VRとの融合で新たなTRPG体験を提供する『Xpraize』〉


 『Xpraize(エックスプライゼ)』は、独立系のディベロッパー・RedefineArtsが開発したテーブルトークRPG(以下、TRPG)だ。


 TRPGとは、レギュレーションが記載されたルールブックに基づき、参加者同士がコミュニケーションをとりながら物語を進めていく、対話型のロールプレイングゲームのこと。プレイヤーは、自身の分身となるキャラクターを設定し、そのキャラクターを演じることで、客観ではなく主観でゲームへと関わっていく。参加者のなかから1人の進行役(ゲームマスター)を選ぶ点も同ジャンルの特徴。シナリオ上の分岐では、ゲームマスターのコントロールのもと、サイコロなどを使い、イベントの着地点や行き先を決定する。


 アナログゲームの一分野に数えられる同ジャンルだが、近年では、そのゲーム性をデジタルで再現したタイトルが増えてきている。今回紹介する『Xpraize』もそのうちのひとつだ。


 同タイトルはVRの活用によって、コンピューターゲームでありながら実際にテーブルを囲んで遊んでいるかのようなTRPG体験を提供。プレイヤーは、デバイスのモーションキャプチャ機能を通じ、ゲーム内のアバターに自身の動きを伝えられるため、(従来のデジタルTRPGでは困難だった)身振り手振りを混じえての参加者とのコミュニケーションが可能となっている。


 RedefineArtsは、こうした新しいデジタルTRPGの形を『e-act』と銘打つ。同社によると『Xpraize』では多彩なカメラアングルにより、シネマティックなリプレイ動画の作成も可能とのこと。参加者はもちろん、配信・動画プラットフォームの視聴者にも楽しめる設計を実現しているという。


 対応プラットフォームはPC(Steam)で、ベータ版の価格は1,520円(税込・※)。正式版は2022年7月1日にリリースされる予定で、こちらの価格は3,000円(税込)となっている。


※ゲームマスターは、VR機能を用いないPC版(無償提供)でゲームに参加する。


〈『Xpraize』が実現したTRPGとVRの融合。その可能性は?〉


 TRPGの魅力は、参加者の想像力のかぎりに広がる自由な世界にある。ゲームマスターは、達成すべき目標や、過程にあるイベントを思いのままデザインでき、プレイヤーは、レギュレーション・ゲームマナーの許す範囲で、あらゆるアクションを試すことができる。あらかじめ用意されたレールに沿って話が進む一般的なコンピューターRPGとは異なり、映像・音の特別な演出はないが、その分、想像力という無限の可能性の下で遊べる点が、同ジャンルが支持を集めてきた所以であると言えるだろう。あえて言葉にするのであれば、「用意された演出」ではなく、「想像力とコミュニケーション」にパラメータを振り切っているのがTRPGであり、「制作者」ではなく、「参加者」に面白さが委ねられているのがTRPGだ。プレイを通じ、より良い体験を得るためには、パブリックの部分ではなく、プライベートの部分を充実させなければならない。


 この観点に立ったとき、TRPGのデジタル化は逆進的だ。オンラインを介することで、物理的な場所に縛られずプレイできるメリットがある反面、多くの場合、参加者間で共有する環境はボイスチャットのみと限定されている。プライベートの部分の充実が質の高い体験に必須であるにもかかわらず、便利さを優先することで、一部の魅力が失われてしまっている実態がある。


 『Xpraize』が実現したTRPGとVRの融合は、こうした課題を解決するものだ。デジタル特有のメリットは活かしながら、VRの活用によって、まるでその場を共有しているかのようなゲームプレイを演出する。これまで声だけだったコミュニケーションには、身振り手振りといった体を動かすものが加わるため、参加者はよりアナログに近い体験を受け取ることも可能だ。シナリオに忠実なアバターをゲーム内のキャラクターに設定すれば、アナログになかった映像的演出も享受できる。同ジャンルはVRとの融合によって、新たな局面を迎えている。


 もちろんこれまでのデジタルTRPGでも、ウェブカメラなどを利用すれば、擬似的な場の共有が可能だったかもしれない。しかし、バーチャルであるがゆえのプライバシーへの意識などから、自身の映像の共有をNGとしていたプレイヤーも多くいたはずだ。こうした層もゲーム内アバターへの自身の投影なら抵抗なく取り組める可能性がある。リアルを共有していない、かつ顔が見えていないからこそ、遠慮のないロールプレイが可能となる面もあるだろう。


 実際にVRを活用したSNSプラットフォーム・VRChat内には、同技術との親和性に着目し、新しい形でTRPGを楽しもうとするコミュニティがある。界隈では、すでにスタンダードとなり得るソフトウェアが待たれている現状だ。


 『Xpraize』は、TRPG×VRの分野の旗手となれるか。今後の動向を注視したい。(結木千尋)