6月10日(金)、第90回ル・マン24時間レースの決勝スタートを翌日に控え、トヨタGAZOO Racingから参戦する小林可夢偉チーム代表兼7号車ドライバーと、8号車をドライブする平川亮が現地からリモート形式で日本メディアの取材に応え、ここまでのレースウイークの裏側や、決勝レースに向けた展望などを語った。
■ピット内の“緊張感”
トヨタの2台のGR010ハイブリッドは、9日木曜の“ハイパーポール”で、ブレンドン・ハートレーがアタックした8号車がポールポジションを獲得、コンマ4秒差で可夢偉が続き、フロントロウをロックアウトした。
ハートレーがポールを獲得した瞬間について問われた平川は、「やはり特別な感じはありました」と、ピットから見守っていたときの心境を振り返った。
「ハイパーポールをやっているなかでも、トラフィックだったり、結構見ていてもストレスを感じる場面は多かったです。2台でフロントロウを獲得できて、僕としてもチームとしても良かったですし、ピットの中の緊張感もすごかったので、“和らいだ”感じはありました」
なお、ハイパーポールの前のFP3では、平川がドライブする8号車が一時ストップ。その後スロー走行でピットに戻る場面が見られたが、これは電気系のエラーが起きたことと、その際にハイブリッド系を含むシステムをリセットする“パワーサイクル”と呼ばれる作業の手順を誤ったことが原因だったようだ。
「基本的に電気系がちょっとエラーを起こして、実際パワーサイクルしたんですが、そのやり方がうまくいかなくて、変なエラーメッセージを拾ってしまったようだ、ということを聞いています」とチーム代表として状況を説明した可夢偉は、「そのときに乗っていた平川さんが、何か特別なことをしたんですかね?」と冗談まじりに平川に話を向けた。
これを受けて、平川は次のように説明した。
「パワーサイクルを僕がちゃんとできていなくて。シミュレーターとかでも何回もやっていたのですが、手順を少し間違えていました」
「テスト(プラクティス)で良かったです。レースで起きても落ち着いてちゃんと対応できる準備ができたので。(原因が)エラーだったので良かったですし、自分としても走行しながらああいう経験がレース前にできたのは、良かったなと思っています」
可夢偉いわく、前回のスパで起きた高電圧(DC=DC)コンバータの問題とは「全然関係ない」とのこと。
「そのパワーサイクルのやり方を間違えてしまっただけ。ただ、なぜこの電気系にエラーが起きたのかというのは、まだちょっと見ている(調べている)段階です」
■平川が難しさを感じる“夜のタイヤ選び”
この件以外は、決勝に向けた準備は2台とも概ね順調に進んでいるようだ。すでにFP2、FP4で、GR010でのル・マンの夜の走行を経験した平川は、次のように語っている。
「いわゆる夜用のタイヤ(低温向けソフトタイヤ)であれば、とくに問題はなく発動はしているのですが、3スティント(連続走行)とかをやったりする際には路温が変化することがあり、そこの見極めが難しいなと思ってます」
「自分が最初に履いたのは昼間(向け)のタイヤだったんですが、それだと少し難しい場面が……セーフティカーとかスローゾンが出たりすると不安な感じがあったりしたので、正しいタイヤチョイスができれば、(決勝でも夜は)問題なく走れるのかなと思っています」
可夢偉もセットアップは順調に進んでいることを認めており、「あとは神のみぞ知る、という感じです」と語っている。
既報のとおり、走行2日目となった木曜からBoP(性能調整)が変更され、ライバルであるアルピーヌA480・ギブソンの最高出力が引き上げられた。
可夢偉によれば、トヨタ陣営はその上がり幅を「1秒」と見積もっていたというが、実際にはそれ以上タイムを上げ、ハイパーポールではニコラ・ラピエールが可夢偉のタイムに肉薄してきた。
「かなり三味線を弾いてたんだな、というのはあります」と語った可夢偉は、決勝レースにおける気になるライバルについて問われた際にも、「アルピーヌだと思います。最後の夜のセッション(FP4)のタイムを見たら速いのが分かります」と述べている。
どれだけ周到に用意を重ねてきても、昨年の燃料系トラブルのように、必ずと言っていいほど“想定外”の事態が起こるのが、ル・マン24時間レースというもの。それを肌で感じているからだろうか、可夢偉、平川ともに、決戦を前にいつもより幾分“締まった”表情で受け答えをしていたのが、印象的だった。
※追記
取材後、BoPは再度変更され、アルピーヌは決勝に向け出力削減を受けている。