2022年06月10日 17:21 弁護士ドットコム
山口県阿武町の公金誤送金事件で、送金を受けた男性が「お金はオンラインカジノで使った」と話したことをきっかけに、オンラインカジノの規制を求める声が強まっている。
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依存症の当事者・支援者らでつくる「依存症問題対策ネットワーク」は6月10日、海外のカジノサイトの取り締まりやサイトへのアクセス制限など、規制強化を求める要望書を関係省庁に提出した。
同ネットワークは同日、都内で記者会見を開き「サイトを放置すれば、アプリを使いこなす若者世代に被害が広がり、彼ら彼女らの未来が奪われかねない」と訴えた。(ライター・有馬知子)
会見には、ギャンブル依存症問題を考える会の田中紀子代表のほか、依存症問題に関わる弁護士、精神科医とギャンブル依存の当事者が参加した。
田中代表によると2020年以降、コロナ禍で休業や巣ごもりを迫られた人からの「暇な時間にオンラインギャンブルをして、運営資金や貯金に手をつけてしまった」という相談が増えたという。
田中代表は「オンラインは他のギャンブルと比べると、借金額が数千万円単位とけた違いに多く、ヤミ金融に借金したり会社のお金を横領したりと深刻な相談が多い。阿武町の問題が発覚して、これほどまでに若者に広まっているのかと驚いた」と話した。
昭和大付属烏山病院でギャンブル依存症者の治療に当たる常岡俊昭医師も「オンラインギャンブルの依存症者には、深刻なうつ病を抱える人が多いと感じる。パチンコのように店へ行く必要もなく、スマホでいつ、どこからでも24時間、無制限に近い額のお金を賭けられるため、治療も難しい」と語った。
オンラインカジノについては、岸田文雄首相も6月1日、規制強化を表明した。ただカジノサイトの多くは海外事業者によって運営されているとみられ、日本の「賭博場開帳等図利罪」での摘発は難しいとの見方も強かった。
同ネットワークは、海外事業者が日本国民にカジノのサービスを提供する場合も、同罪を適用するよう法改正を要望した上で、実効性を確保するため、利用者によるサイトへのアクセスを制限するよう求めた。
要望書の作成に当たった中島俊明弁護士が海外事例を調査したところ、オンラインカジノ事業者の多くが利用規約に、米国やフランスからのアクセスについて「認められていない」「禁止されている」などと記載していたという。このため中島弁護士は「日本も海外のカジノ運営業者に対して、米仏と同程度の規制は可能だと考えられる」と述べた。
また、オンラインカジノのアフィリエイトや広告には、「法的にグレー」であるかのような記載が多いため「違法だという認識がユーザーに広まっていない」(中島弁護士)として、利用者もとばく罪に問われ、処罰の対象となることを周知するよう要望した。
海外事業者と日本のユーザーとのお金のやり取りを仲介する「決済代行業者」についても、無許可で為替取引をしている可能性があるなどとして取り締まり強化を求めた。さらにクレジットカード会社や電子マネーの業者が、カジノに関連するなどの「公序良俗に反する事業者」と取引しないよう、業務改善命令などを通じて指導すべきだとした。
「考える会」の田中代表はまた「芸能人など著名な人が(オンラインカジノの)CMに出ているのを見て、『大丈夫だ』と安心して利用し始めた人もいる。ギャンブルを少し経験すると、AIでカジノのCMがスマホに自動ポップアップするのも、若者を引き入れる要因になっている」と批判。このため要望書には、オンラインカジノの広告を規制することも盛り込まれた。
会見では当事者の会社員男性、なおさん(仮名、40代)が体験を語った。なおさんは、コロナ禍以前から競馬やパチンコをしていたが、緊急事態宣言でパチンコ店や場外馬券場などが閉鎖されたのをきっかけに、オンラインカジノを利用し始めた。
最初は一勝負100円から始めたが、「次第に金銭感覚がマヒして、金額がただの数字に見えるようになり」賭け金が膨らんだ。1年ほどで、30秒のルーレットに60万円もの額を賭けるように。深夜に起き出してギャンブルをしたり、在宅勤務中オンライン会議に出ながら、手元のスマホで賭け続けたりして、仕事にも支障をきたすようになったという。
「勝てば『もう一度快感を味わいたい』と賭け続け、負けると取り戻そうとして賭け金を引き上げるので、結局お金がなくなるまで終わらない。やめなければと思いつつも衝動を抑えられず、やってしまえば罪悪感に苦しめられた」と、オンラインカジノの怖さを語った。
最終的には消費者金融などで1000万円を超える借金をつくり、うつ病も発症した。今年5月、「考える会」のセミナーに参加し支援者につながったが、現在も借金返済のため、自宅マンションを売りに出している。両親や義両親に借金を立て替えてもらうなど「多くの人に迷惑をかけた」と振り返る。
「オンラインカジノが完全に違法だと、社会の人が広く認識できるようになってほしい。違法だと分かれば、利用のハードルはかなり高くなると思います」と話していた。