塾・予備校選びで見落としがちなポイントがあります。それは、同じ系列の塾・予備校でも「教室によって、教育レベルがかなり違う」という点です。今回は個別指導塾を例に、「良い教室を見抜く方法」をお伝えします。参考にしてもらえれば幸いです。(文:妻鹿潤)
「ドル箱教室」とは?
個別指導塾の場合、着目すべき点は「教室の立地」です。「学校に近い」「ターミナル駅に近い」「人気の私立学校のスクールバスの発着場所に近い」といった生徒が集まりやすい教室に行くのがおすすめです。そこは、「ドル箱教室」と呼ばれ、良い教室長が配置されることが多いからです。
大学生が講師をつとめる個別指導塾の場合、所属大学のレベルにはけっこうバラツキがあります。以前は、関東ならGMARCHや国公立以上、関西であれば関関同立以上の学生がほとんどでした。ところが最近は人手不足なので、日東駒専や産近甲龍以上でも採用されることが多くあります。一方で、ロケーションによっては東大生・京大生がいる場合もあります。
そうなると、東大生に当たったらラッキーと思うかもしれません。しかし、「難関校の学生がうまく教えられるかとは限らない」というのが実際です。そもそも「問題が解けるかどうか」と「教えられるかどうか」は別の話。さらに生徒との相性問題もあり、単純に講師の学力が高ければ高いほど良い、とはならないのです。
一方で、「教室長」の能力差は、わかりやすく塾のサービス品質を左右します。ドル箱教室の責任者は、生徒数の多い教室を上手く運営し、評判を上げていく手腕が必要です。優秀な教室長は、教育に必要なノウハウを講師(学生)にきちんと共有します。マッチングも上手で、生徒のニーズに合わせた講師をあてがいます。
例えば、教室長が実力も意欲もないAさんだったとしましょう。本社から指示されたことをするだけ。生徒1人1人はもちろん、講師1人1人を細かく見ることもできず、生徒と講師の組み合わせも「なんとなく相性が良いかも?」という感覚で決めてしまいます。指導ノウハウも持っておらず、さらにコミュニケーション能力も低いことから、学生講師に対するリーダーシップも取れません。
教室長のやる気の無さは、講師にも伝わってしまいます。上司がコレだと講師は授業準備もあまりせず、楽しく生徒と会話して終了、ということも多くなります。個別指導を掲げていても、個々に応じたカリキュラムが提供されるわけでも、授業の工夫があるわけでもありません。おまけにバイトと割り切っている講師も多く、離職率も高いため、質の高い授業は全く期待できません。
また、面談などの際に、A教室長に進路のアドバイスや我が子への勉強の相談をしても、一般的なこと(まずは基礎を固めて、それから応用問題をしましょう)とかしか言えない、我が子のことを全然把握してない、テストが返ってきたのに興味もなさそう、といった具合です。他にも、「お願いしたことを忘れられている」「夏休みや冬休みなど、長期休暇前だけ面談を提案され、通り一辺倒に夏期講習・冬期講習で大量の講座を勧められる」といったことになりがちです。
一方、実力のある剛腕の教室長Bさんは、授業の細かいポイントにも目を配り、ノウハウや経験が豊富なので、講師から尊敬されています。授業準備をサボる講師がいれば、うまく指導してやる気を引き出します。
さらに、何気ない講師への気遣いや優しさ(授業準備している講師をさりげなく褒める、ご家庭から感謝されている様子を伝える、叱った後にフォローを入れるなど)があるため、何かあったらBさんを頼れば良い、という信頼関係も築かれていきます。「何が良くて、何がダメか」「求められる基準は何か」がハッキリしているので、高い質の教育サービスが保たれ、新人の講師も自然と高いレベルを目指すことができます。
チームとしてまとまりを作るために、誕生日を教室の皆で祝ったりするので、講師同士の連携も生まれます。「実はあの子、こんな状態でした」「あの先生、あそこで困っているので、ここでフォローしてあげよう」「こんなことしたらうまくいきました」「今回のあの学校の定期テスト、こんな感じでした」といった情報共有や、お互いをフォローする姿勢によって、講師のモチベーションが高い状態に保たれ、ノウハウもブラッシュアップされやすくなります。
さらにB教室長は勉強熱心で、勤務時間外でも参考書や学校の研究(実際に学校まで行って、通学時に坂があるとか、駅からは意外と遠いといったレベルの情報まで持っています)を行い、子ども1人1人の授業の様子の確認や家庭との連絡なども教室長自ら積極的に取り組みます。その結果、子どもにあった講師のマッチングや、最適化された指導の提供、各家庭への適切な情報共有が可能になるのです。
A教室長の教室に1年通っても、お子さまの成績は上がるどころか、むしろ下がったり、勉強への苦手意識がより強くなってしまったりするでしょう。一方、B教室長の教室に1年通えば、点数が15-20点以上は伸び、勉強に前向きに取り組めるようになるでしょう。見た目としては同じブランドの教室であったとしても、中身はここまで違います。
個別指導塾を選ぶ際には、ぜひB教室長の教室を選びたいものです。良い教室長かどうかは「ノウハウをきちんと持っているか」と「営業主義ではなく、我が子をどこまで大切にしてくれそうか」の2点で見極められます。
教室責任者が何かと追加講座の提案をしてきたり、オプション授業の提案ばかりしてくる場合は注意しましょう。本当に必要な講座や授業なのか見極めるためにも、「なぜ、その講座が“うちの子に”必要なのか」「それを受けると“うちの子は”どうなるのか」を聞きましょう。その回答にノウハウが見え隠れして、妥当性が極めて高そうな回答であること。我が子の性格や成績を想定し尽くした回答であれば、良い教室長でしょう。個別指導塾であるにも関わらず、一般論で回答するような教室長には要注意です。
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近影
【筆者プロフィール】】株式会社STORY CAREER取締役 妻鹿潤(めがじゅん)
関西学院大学法学部卒。塾コンサルタント・キャリアアドバイザー・プロ家庭教師などを通してのべ1500人以上の小中高生、保護者へ指導・学習アドバイスを行う。
大手教育会社時代は携わった教室が10か月で100人以上の生徒が入会する塾に。しかし志望校合格がゴールの既存教育に限界を感じ、「社会で生き抜く力」を身につける学習塾を起業。40~50点の大幅な点数アップを実現し、生徒のやる気を引き出すメソッドを確立。入塾待ちの塾となる。
現在はキャリアアドバイザーとして企業の採用支援、大学生・社会人のキャリア支援を行う。ほかにも塾コンサルティング、プロ家庭教師、不登校・発達障害の生徒の個別指導なども行っている。