2022年06月08日 18:51 弁護士ドットコム
慶應義塾大学で通算8年、勤務していた非常勤講師が、有期労働契約の通算期間が5年を超えたにもかかわらず、大学側が無期労働契約への転換を認めず、カリキュラムの編成上の都合を理由に2022年度の契約を更新せず雇止めしたことは不当だとして、無期労働契約上の権利を有する地位の確認などを求め、横浜地裁に提訴した。提訴は5月26日付。
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慶應大で教壇に立つことができなくなった原告は、現在休職中だという。
原告代理人を務める田渕大輔弁護士は、6月8日に都内で開かれた会見で、「非常勤講師がいなければ、大学の授業は成り立たない。不可欠の存在である」と話し、大学側が無期労働契約への転換を認めない根拠として主張する任期法の特例について、「安易な適用範囲の拡大にはしっかりと歯止めをかけていかなければならない」と訴えた。
訴状によると、原告は、2014年度に契約期間を1年とする有期労働契約を大学側と締結。以降毎年度、契約の更新を繰り返し、2021年度までの通算8年間、学部の授業を担当してきた。
原告は、契約の通算期間が5年を超えたことから、労働契約法18条に基づき、2019年度に無期労働契約への転換申込権を行使した(いわゆる「無期転換ルール」)。
しかし、大学側は、原告が転換の申し込みをおこなうには、任期法(大学の教員等の任期に関する法律)7条1項の適用に基づき、契約の通算期間として「5年」ではなく「10年」が必要だとして、無期労働契約への転換を認めなかったという。
その後、大学側は、原告が担当していた授業を行わないことになったと説明。カリキュラムの編成上の都合を理由として、2022年度の原告との契約を更新しなかった。
慶應大で2022年度の授業を行うことができなくなり現在休職中だという原告は、裁判で、(1)無期労働契約へと転換していることの確認、(2)雇止めの無効を前提とする毎月の賃金の支払いを求める。
原告側は、無期転換ルールの「5年」を「10年」にする任期法7条1項の特例が適用されるかどうかという点を、今回の訴訟における最大の争点と位置付けている。
任期法の特例の適用には、あらかじめ任期に関する規則を定め、その規則に基づいて教員との労働契約が締結され、任期を定めて任用することについて当該教員の同意を得るなど適切に運用することが必要とされている。
原告側は、慶應大の就業規則で、非常勤講師の無期労働契約への転換申込みには契約の通算期間を「10年」としているものの、任期に関する規程が定められたのは、原告が2014年度に就労した後の2015年2月だったとして、原告の雇用期間については任期に関する規程に基づいて定められたことにはならないと主張。
さらに、大学から受領している委嘱状には、原告の雇用期間について、任期に関する規則に基づくものであるとは示されておらず、任期を定めて任用することについて、原告の同意を得ることもおこなっていないことから、任期法の特例が適用されると解する余地はないとしている。
原告側は「雇止め自体が不当であり無効」とも主張しているが、田渕弁護士は、「無期転換が認められれば、雇止め(有期労働契約の更新拒否)はそもそも問題にならないことになる」と話す。
「任期法の特例が、多くの大学で濫用されている実態があります。裁判を通じて、この濫用に歯止めをかける判断を獲得することが裁判の最大の目標になると思います」(田渕弁護士)
同代理人の馬込竜彦弁護士は、「事実関係自体はシンプル」としたうえで、任期法の特例をめぐる法的な判断が裁判での主な争点になるとの考えを示した。
「任期法の解釈については、文献資料などもほとんどなく、未だ流動的な点が多くあります。今回のケースが先例となることも考えられます」(馬込弁護士)
慶應大広報室は、弁護士ドットコムニュースの取材に対し、「訴状は届いていますが、内容確認中のため、コメントできません」と回答した。