2022年06月08日 10:21 弁護士ドットコム
対向車とすれ違うことが可能な道幅があるにもかかわらず、白い乗用車が対向車の進路を塞ぐようにクラクションを鳴らし続けながら近づき、対向車を下がらせて交差点を曲がろうとする動画がツイッターで投稿され、1万7000回以上リツイートされるなど、大きな話題となっている。
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動画は、白い乗用車の運転者がクラクションの大きな音を連続して鳴らして、対向車に正面から近づいていく乗用車の様子が映っているとこからはじまる。道路中央より左側に「止まれ」の路面標示が映っており、現場は対向車が来ることが想定された道路とみられる。
進路を塞がれた対向車はバックする以外に動きようがない状況で、停止とバックを繰り返し徐々に下がっていく。途中、白い乗用車の運転者は窓を一度開け、対向車に向かって何かを叫ぶ様子もあった。
結局、対向車は曲がって進入する前に走行していたであろう大通りまでバックで戻り、進路を変えて走り去った。投稿者の別のツイートによれば、現場は愛知県豊田市内にある道路のようだ。
白い乗用車の運転者がなぜこのような行動をとったのかは不明だが、対向車の進路を塞ぐように正面にきて、クラクションで威嚇しつつ対向車のバックを余儀なくさせる行為は、事故につながりうる危険な行為だ。具体的にはどのような違反行為になるのだろうか。澤井 康生弁護士に聞いた。
——白い乗用車の運転者による今回の行為は、具体的にはどのような違反になりますか。
結論から言うといわゆる「あおり行為」として妨害運転罪(道路交通法117条の2の2第11号)が成立します。
妨害運転罪は、あおり運転に対する処罰を目的として、2020年6月に道路交通法の改正によって創設されました。
あおり運転というと車間距離を極端に詰めて後ろから煽ったり、急な進路変更を行ったり、幅寄せや蛇行運転をするというイメージがありますが、これらの行為だけではありません。
道交法は、妨害運転罪に当たる違反として、他の車両の通行を妨害する目的で道路における交通の危険を生じさせるおそれのある方法による10類型を列挙しています。
10類型の中には、先にあげた典型的なあおり行為のほかに「対向車線にはみ出す通行区分違反」(同法17条4項違反)や「執拗なクラクション」(同法54条2項違反)、「執拗なパッシング」(同法52条2項違反)、高速道路での駐停車(同法75条の8第1項違反)などが規定されています。
今回の動画を見る限り、白い乗用車は明らかに対向車の通行を妨害する目的をもって交通の危険を生じさせようとしているといえます。
そして、道路の中央から右側の対向車線に入り込んでいますので、通行区分違反としての妨害運転罪が成立します(同法117条の2の2第11号イ)。さらに必要なくみだりにクラクションを鳴らしている点でも妨害運転罪が成立します(同法117条の2の2第11号ト)。
妨害運転罪は、「3年以下の懲役または50万円以下の罰金」と定められており、重大な犯罪です。
——道交法違反以外の犯罪が成立することも考えられますか。
刑法上の犯罪についても検討します。
対向車の車両を運転するという業務を威力により妨害しているので、威力業務妨害罪(刑法234条)の成立が考えられます。
業務妨害罪の「業務」は、職業・営業などの経済的活動に限定されないので、対向車の運転者がたとえ私用で運転していた場合であっても威力業務妨害罪は成立します。
また、対向車の運転者の身体に対する不法な有形力の行使をしたものとして、暴行罪(刑法208条)の成立も考えられます。
暴行罪の「暴行」は、人の身体に対して加えられれば足り、必ずしも身体に接触しなくてもよく、車両の幅寄せも暴行に該当するとされているからです。
次に、白い乗用車の運転者は窓を開けて対向車に向かって何かを叫んでいるようですが、対向車の運転者の生命、身体などに対して害を加える旨を告知して脅迫した場合には脅迫罪(刑法222条)の成立も考えられます。
このように他の刑法上の犯罪も成立しそうですが、もともと「あおり運転」を処罰するために特別に妨害運転罪が創設されたことから、特別法である妨害運転罪の適用が優先されるのではないでしょうか。
——今回のような事態に遭遇した場合、被害者側(被行為者側)はどう対応すべきでしょうか。
本件のようなあおり運転の被害を受けた場合、安全を確保した上でただちに110番通報してください。
あおり運転を受けた事実をドライブレコーダーやスマホなどで撮影して証拠を確保しておくことも必要です。相手車両が現場から逃走するかもしれないので、ナンバー(自動車登録番号)も撮影しておきましょう。
また、相手が車両から降りてきた場合はさらなる二次被害の恐れ(暴行、傷害など)があるので、こちらはドアや窓を開けずに一定の距離を取って警察が到着するまで待ちましょう。
【取材協力弁護士】
澤井 康生(さわい・やすお)弁護士
警察官僚出身で警視庁刑事としての経験も有する。ファイナンスMBAを取得し、企業法務、一般民事事件、家事事件、刑事事件などを手がける傍ら東京簡易裁判所の非常勤裁判官、東京税理士会のインハウスロイヤー(非常勤)も歴任、公認不正検査士試験や金融コンプライアンスオフィサー1級試験にも合格、企業不祥事が起きた場合の第三者委員会の経験も豊富、その他各新聞での有識者コメント、テレビ・ラジオ等の出演も多く幅広い分野で活躍。陸上自衛隊予備自衛官の資格も有する。現在、朝日新聞社ウェブサイトtelling「HELP ME 弁護士センセイ」連載。楽天証券ウェブサイト「トウシル」連載。毎月ラジオNIKKEIにもゲスト出演中。新宿区西早稲田の秋法律事務所のパートナー弁護士。代表著書「捜査本部というすごい仕組み」(マイナビ新書)など。
事務所名:秋法律事務所
事務所URL:https://www.bengo4.com/tokyo/a_13104/l_127519/