2022年06月06日 09:51 弁護士ドットコム
レジの打ち間違いは誰しも起こりうることですが、「ミスした金額を自腹で支払わされる」という相談が弁護士ドットコムに寄せられました。
【関連記事:マイホーム購入も「道路族」に悩まされ…「自宅前で遊ぶことのなにが悪いの?」】
最近転職した職場は、商品を販売しているのでレジを打つことがあります。
先日、アルバイトの子がレジのミスをしてしまい、お客様から頂かなくてはいけない金額が数千円マイナスになってしまいました。
このような時は、ミスをした人がその金額を自腹で払う事になっていると聞きました。
私は違和感しかなかったので、上司に確認したところ、「それが当然だ」と言われてしまいました。
レジのミスの支払いを強制する会社は、法的に問題ないのでしょうか。齋藤裕弁護士に聞きました。
結論から言うと、レジ打ち上のミスについては、通常想定されるようなものであると考えられますので、労働者に重過失があったとか、使用者がミスの防止のために十分な措置をとっていたような事情がない限り、使用者から労働者への賠償請求は許されないと考えられます。
使用者から労働者に損害賠償できるかどうかは、過去の裁判例で、労働者が交通事故を起こして使用者に損害を与えたというケースで、以下のように解釈すべきとしています。
使用者が、その事業の執行につきなされた労働者の加害行為により損害を被った場合には、使用者は、その事業の性格、規模、施設の状況、被用者の業務の内容、労働条件、勤務態度、加害行為の態様、加害行為の予防若しくは損失の分散についての使用者の配慮の程度その他諸般の事情に照らし、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において、被用者に対し同損害の賠償の請求をすることができる(最高裁昭和51年7月8日第一小法廷判決)
この判例はその後、交通事故以外で、労働者が使用者に損害を与えたような場合でも使われています。
例えば、東京地裁平成26年9月30日判決は、労働者による発注ミス等について、
・そのようなミスがありうることを使用者としては予想すべきであったこと、
・労働者の行為に故意・重過失があったとはいえないこと、
・使用者がそのようなミスの防止のために十分な対応をしていなかったこと
などから、使用者が発注ミス等による損害について、労働者に請求することは信義則上許されないとしています。
【取材協力弁護士】
齋藤 裕(さいとう・ゆたか)弁護士
刑事、民事、家事を幅広く取り扱う。サラ金・クレジット、個人情報保護・情報公開に強く、武富士役員損害賠償訴訟、トンネルじん肺根絶訴訟、ほくほく線訴訟などを担当。共著に『個人情報トラブル相談ハンドブック』(新日本法規)など。
事務所名:さいとうゆたか法律事務所
事務所URL:http://www.saitoyutaka.com/