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鉄道技術展・大阪 - 注目の新型車両を紹介「未来の改札機」展示も

2022年06月05日 09:01  マイナビニュース

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画像提供:マイナビニュース
産経新聞社主催、シー・エヌ・ティ共催の「鉄道技術展・大阪」が、インテックス大阪にて5月25~27日の3日間開催された。大阪での開催ということもあり、関西エリアの鉄道事業者のブースが目立った。その中でも興味深かったブースや試みを紹介したい。


○■「大阪メトロ」新型車両400系のパネルに注目集まる



鉄道事業者の中でも際立っていたブースが大阪市高速電気軌道(Osaka Metro)である。車両面では、2023年4月のデビューを予定している新型車両400系のパネルに注目が集まっていた。2025年関西の大阪・関西万博を前に、中央線へ投入される400系は、1編成(6両編成)のうち1両を地下鉄でも珍しい横2列(1列+1列)のクロスシートとする。



同社によれば、400系の製造にあたり、「チーフ・デザイン・オフィサー」を務める工業デザイナー、奥山清行氏の意向を最大限反映させたという。その結果、宇宙船のような外観になり、個性あふれる前面形状となった。400系の車両デザインが今後の標準になることは「ない」としつつも、400系の設計プロセスから「新しい気づきが得られました」と担当者は振り返った。


400系のクロスシート車両が横2列(1列+1列)である理由を尋ねると、ベビーカー利用者やスーツケースを持った利用者を意識したという。荷物棚をなくし、空間を広げることで、VIP感を演出したとの説明もあった。



その他、ホームと車両の隙間段差解消の取組みも。同社は可動式ホーム柵を順次設置すると同時に、ホームと車両の隙間段差解消も進めている。具体的には、ホームの床面をかさ上げし、先端にゴム製のすき間材を設置することにより、ホームと車両の隙間が縮小。担当者によれば、ホーム柵を設置することで停車位置が定まり、停車位置だけに工事を行えば良いため、コスト的に有利だという。


JR西日本も昨年11月、ホーム・車両の隙間の解消を目的に、「自動スロープ」の実証実験を行っていた。今後、各社とも同様の取組みを行うものと予想する。



大阪市高速電気鉄道(Osaka Metro)のブースでは、都市型Maas構想オンデマンドバスのデビューなども大々的に発表していた。かつて大阪市交通局だった頃、どちらかというと「守り」の姿勢だった印象だったが、民営化後は「攻め」の姿勢に転じたことを強く実感させる展示内容だった。

○■JR西日本グループ、顔認証対応の新型自動改札機など展示



駅・バス関連設備の展示では、JR西日本グループのブースが目を引いた。目玉は2023年開業予定の「うめきた(大阪)地下駅」に設置を予定している新型自動改札機。従来のICカードに加え、顔認証にも対応しており、事前にウェブを通じて自身の顔を登録し、改札機に顔をかざして通過するしくみになっている。顔認証が可能になった場合、たとえば両手がふさがっている状態で、きっぷやICカードをわざわざ取り出す必要がなくなる。


開発にあたって、アニメーターなどに「未来の改札機」をイメージしてもらい、最大限反映したという。これにともない、従来の自動改札機ではおなじみの扉がなくなっている。仮に無賃で通過を試みると、側面のデジタルサイネージが赤色になり、警告音を発するしくみだった。



JR西日本テクシアが開発したIC車載機(簡易型)も興味深い。こちらはコミュニティバスをはじめとする比較的小型のバスを想定し、交通系ICカードに対応する。最大の長所はコスト面で、通常の3分の1程度の費用で済むという。非接触での決済が可能になるだけでなく、訪日外国人旅行客へのスムーズな対応にも期待が高まる。

JR西日本では、交通系ICカード「ICOCA」を利用したサービス「ICOCA地域ポイント」も進めている。地域内においてバスや商品を「ICOCA」で決済し、獲得したポイントを商店などで使うしくみだという。JR西日本テクシアは必要な機能をクラウドと専用「ICOCA」端末で提供する。なお、このサービスは、JR西日本が現在行っている「ICOCAポイントサービス」とは別物とされている。



うまく活用すれば、地方での公共交通の利用促進につながるかもしれない。一方で、都心部と比べて「ICOCA」の普及率が低い地方において、どのように「ICOCA」を使ったサービスのメリットを告知するかが課題、と担当者は話していた。

○■家具・カレンダーなど、鉄道を生活の一部にする試みも



「鉄道技術展・大阪」では、鉄道を生活の一部にする試みも見られた。鉄道車両のメンテナンス・改造、車両メンテナンス設備の保守・修繕などを行うJR西日本テクノスは、JR西日本の長距離列車「WEST EXPRESS 銀河」をベースにした家具を製作した。


リビング用ソファーは、「WEST EXPRESS 銀河」の6号車グリーン個室「プレミアルーム」にあるソファーをアレンジ。単にモケットを敷いてソファーにするだけでなく、猫が遊べるように、背面下にトンネルが仕掛けられている。モケットの素材は猫がひっかいてもキズが付きにくく、猫と安心して遊べるとのこと。このように、単に鉄道用品を家具にするだけでなく、ひと手間加えていることに好感を持った。


鉄道車両や駅案内の案内サインを手がける関西工機整備は、JR西日本の駅にある時刻表を模した「時刻表スタイルカレンダー」を製作。今年度はジェイアール西日本商事から販売され、来年度も製作・販売する予定とのことだった。

○■会場からコスモスクエア駅まで、自動運転車両も体験



「鉄道技術展・大阪」の取材後、帰りにインテックス大阪からコスモスクエア駅まで自動運転バスの実証実験に参加した。この実験は大阪市高速電気軌道(Osaka Metro)が実施し、ソフトバンク子会社のBOLDLYが運行および運行管理を担当。本来は事前予約制だったが、筆者は幸運にも当日予約で乗車できた。



最初に顔認証を済ませ、インテックス大阪の館内から入口まで電動車いすを操作して移動した。大阪市高速電気軌道(Osaka Metro)によれば、電動車いすは近距離モビリティに有効とされ、昨年12月に実証実験も行っているという。


電動車いすから降り、自動運転バスへ乗り換える。ドア付近にあるタブレットに顔をかざして認証を済ませ、自動運転バス「NAVYA ARMA」に乗車。バスには運転台がなく、まるでロープウェイのゴンドラのようだった。



この日、バスは自動・手動を交互に使い分けながら公道を走った。自動での運転時はテレビゲームのようなコントローラを用いて操作。路上駐車の回避や一部の信号などで手動の運転に切り替えた。自動運転・手動運転は即座に切り替えられる。ゴンドラのようなバスが先進的な街並みをゆっくりと走る。通常のバスとは明らかに異なり、視界が開けている点が新鮮だった。コスモスクエア駅付近のカーブは自動運転で曲がり、10分ほどのショートトリップが終わった。


昨今の鉄道業界は、コロナ禍の影響もあって暗いニュースが多く、とくに省力化が目立つように感じられる。しかし、「鉄道技術展・大阪」では、デザイナーやアニメーターが生み出したデザインを反映した車両および駅設備の解説・展示もあり、鉄道に対して希望を抱いたひとときでもあった。これらの新技術やアイデアがどのように反映されるか。今後も追っていきたいと考えている。(新田浩之)