2022年06月01日 19:01 弁護士ドットコム
精神科医・斎藤環さんによるツイッター投稿で名誉を傷つけられたとして、東京都内の精神科病院が300万円の損害賠償などを求めた裁判の控訴審で、東京高裁は6月1日、100万円の支払いを命じる判決を言い渡した。
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1審の東京地裁は、投稿のうち1つについて名誉毀損を認め、20万円の支払いを命じていたが、高裁判決は、問題となった7つの投稿すべてが名誉毀損にあたるとし、賠償額も増額した。
斎藤さんは報道などに基づくツイートが名誉毀損にあたるとすれば「言論弾圧」だとして、「驚いております。戸惑い怒り、いろいろな感情。不当判決だと痛感している」と眉をひそめた。
斎藤さんは、30代の男性が「ひきこもり支援」をうたう民間施設に2018年5月に無理やり連れ去られたとする事件をめぐり、その記事などを引用する形で2019年から2020年にかけてツイートした。
男性はこの事件に関連して、要件を満たさないのに身体拘束されたなどとして病院を刑事告訴し、民事でも裁判を起こしていた。
病院は、斎藤さんの7つの投稿が名誉毀損にあたると訴えていた。1審・東京地裁は「ケツモチ」という言葉を使った投稿のみ、真実相当性が認められず、病院側の社会的評価を低下させるとして、名誉毀損を認めた。
斎藤さんは「ケツモチ」は比喩表現であるとして控訴していたが、東京高裁は「ケツモチ」だけでなく全投稿について真実性・真実相当性を認めず、名誉毀損にあたるとして賠償額も100万円に増額させた。
1審判決では、それぞれの投稿について不法行為の成立を検討したが、控訴審判決では、複数の投稿を一体として判断した。
「ケツモチ」が含まれる投稿(2020年6月15日の2つの投稿)については、〈病院が拉致監禁行為に協力していることにより暴力団やヤクザと同程度に悪性が強い組織であることをいうものであって、犯罪行為に加担する組織であることを表現を変えて述べている〉と判断した。
また、その他の投稿(2019年11月~同12月の5つの投稿)についても一体として判断し、〈刑事告訴されたことそのものではなく、告訴事実である拉致監禁行為に協力したことを断定的に述べたもの〉としている。
斎藤さん側が特に問題視したのは、投稿にあたって〈病院に対して民間施設の運営元による拉致監禁行為の有無及び病院の協力の有無に関する事実関係や見解を確認した形跡もみられない〉と判決が指摘したことだ。
「批判の相手に電話をかけて確認したりしないとツイートできないというメチャクチャな判決でありえない。報道に基づいたツイートが誹謗中傷や名誉毀損に該当することになりかねず、言論弾圧的で不当です」(斎藤さん)
弁護団によると、相手に聞き取りをせよとするような判決は、斎藤さんが精神科医という専門家の立場にあることも影響した可能性があるという。高裁での争いにあたって、病院側から特に新たな主張が提出されたわけではないそうだ。
高裁は病院が犯罪に協力したとするツイートによって、閲覧した人が病院の利用をためらったり、第三者の利用を思いとどまらせる可能性が高いなどとして、100万円の慰謝料が相当とした。
「金額も非常に大きくて驚いている。この事案で100万円はひどい」(弁護団)
斎藤さんは上告について、内容を検討して慎重に判断するとした。