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レクサスの味は電動化で深化する? 新型EV「RZ」開発者に聞く

2022年06月01日 12:11  マイナビニュース

マイナビニュース

画像提供:マイナビニュース
2035年には新車販売の100%を電気自動車(EV)にすると宣言したレクサス。クルマづくりで独自の乗り味を追求してきた同社だが、電動化はレクサスの走りに何をもたらすのか。初のEV専用モデルとなる「RZ」のチーフエンジニアに話を聞いてきた。


○EVらしさは求めていない?



RZはBEV(バッテリーEV)専用プラットフォーム「e-TNGA」(トヨタ自動車「bZ4X」などと共通)を使ってレクサスが作る同社初のEV専用モデル。電動化技術を活用した四輪駆動力システム「DIRECT4」やステアバイワイヤシステムによるドライバーの意図に忠実な車両コントロールなどが特徴だという。大きな開口部が不要なEVの特性をいかし、フロントデザインは従来の「スピンドルグリル」から「スピンドルボディ」へと変更。レクサスのエンブレムに向かって上下から線が収束していくような造形となっている。


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電動化はレクサスに何をもたらすのか。RZ開発責任者の渡辺剛さんに話を聞いた。



――クルマをスタイリングするうえで、EVにはどんな優位性がありますか?



渡辺さん:いくつかあります。まず、エンジンに比べればユニットが非常にシンプルなのでフードを下げられますし、大型のラジエーターも必要なくなるので開口部を小さくできます。



――空力にもよさそうな特徴ですね。



渡辺さん:開口がないので空力も上がっています。ボンネットフードを絞り込むことができたので、コアとなるボディの立体をスピンドルとして構成し、デザインと機能を融合させることができました。



もうひとつはサイドシルエットです。RZの全長は新型「RX」に比べ短いのですが(RXは4,890mm、RZは4,805mm)、ホイールベースはRXと同じ2,850mmを確保できています。ユニットが小型化できたことでオーバーハングを短くし、タイヤをしっかりと四隅に配置することができたので、スタンスのいいプロポーションが実現できました。このあたりがBEVのスタイリングの魅力ですね。


――レクサス初のEVということで、どんな味のクルマなのかが気になります。例えばテスラみたいに速いのか、あるいはキビキビと走るのか……。



渡辺さん:正直にいうと、「BEVを作っている」という感覚はあまりないんです。電動化というテクノロジーを使って、いかにレクサスらしいクルマづくりをやるかということを常に考えてきました。BEVらしさとかBEVならではの走りの味を追求するのではなく、私たちが大事にしている「Lexus Driving Signature」を、電動化というテクノロジーを使ってより高いレベルに引き上げたかったんです。

――電動化は手段であり、目的はレクサスの走りを追求することだったと。



渡辺さん:「よりレクサスらしいクルマづくりができている」とか「レクサスの走りの味がより際立ったね」とか、「違和感がないね」という風にいってもらえれば、開発としては意図が伝わったかなと思いますね。



――電動化が手段=武器だとすれば、これにはどのくらいのインパクトがあったのでしょうか。すごい武器なのか、いろいろとある武器のひとつにすぎないのか。



渡辺さん:電動化のメリットは随所にあります。クルマの体格の割にはホイールベースが取れるのでスタビリティは高まりますし、バッテリーを床下に敷き詰めることで重心高はほかのSUVに比べ低くできます。基本的には重量物がタイヤの間に収まるので、前後の重量配分も50:50の理想に近づけられますしね。重心高を下げたり、前後のバランスをよくしたりするため、搭載物のレイアウトをいろいろと工夫してきた我々なんですが、このあたりはBEVの恩恵です。オーバーハングが短く、ユニットも車軸の間に収まるので、ヨー慣性モーメントが低く、回頭性にもかなりのメリットになっています。



――なるほど。ただ、そのあたりは全ての自動車メーカーに同じ恩恵がありそうです。レクサスならではの部分は?



渡辺さん:エンジンがなくなることにより、いろいろな「雑味成分」がなくなり、よりすっきりとした乗り味にできたと思います。



――「雑味」とは騒音とか、操作に対するちょっとした遅れとかのことですか?



渡辺さん:既存のクルマではエンジンの往復運動に起因する、さまざまなな周波数帯を持ったものが配管やボディから伝わってきますが、BEVはモーターが直接タイヤ軸につながっているので、基本的にはタイヤへの入力成分はそれだけで、それ以外に振動とかはありません。このあたりは、レクサスが大事にしてきた静粛性に寄与します。



そうすると逆に、これまではノイズがあったので気づかなかったような音、例えば風切り音などが目立ってきます。音圧レベルは全体的に下がっているのに、気になる音が出てくる。そういうものにひとつずつ、しっかりと対策を施していけば、クルマの「NV」(ノイズとバイブレーション)としての素性をものすごく上げられます。それをほかのクルマにも還元すれば、レクサスのクルマづくり全体にもメリットになります。



――お話を聞いていると、どうやら、レクサスのEVは0-100km/h加速の速さを自慢したいようなクルマではなさそうですね?



渡辺さん:まったく(笑)。



eアクスルによる駆動力のレスポンスのよさ、それを使った四輪駆動システム、これらもどちらかというと、走りのパフォーマンスを上げるというより、ヒトの操作に対してクルマがしっかりと答えてくれる、その性能向上に活用しています。ライントレース性、つまり、狙ったところに、ヒトの操作に遅れなくきちんとクルマが追従していくこと、クルマの荷重移動、駆動力の配分、ヒトの操作に対する素直なクルマの動き、トラクションの手ごたえのよさやフィードバックなど、そうしたものを大切にしてクルマの味づくりをやってきています。それがレクサスEVの特徴です。



――ステアバイワイヤのステアリングも、レクサスの味づくりにとっていい武器になりますか?



渡辺さん:なっています。レスポンスがよくて、ヒトの操作への追従性が高い「DIRECT4」のような制御では、どちらかというと、ヒトの操作が遅れてしまうことがあります。例えばタイトなコーナリングだと、クルマはしっかりと曲がっていってくれるのに、ヒトの操作が遅れてしまい、ステアリングの持ち替えなどをやっていると、それでクルマの動きが決まってしまう部分がある。クルマの操作性も、レスポンスのよさにしっかりと追従できるように進化させなければなりません。このクルマの動きと、ステアバイワイヤならではの操作感はシンクロします。


――反応がすばらしいクルマになればなるほど、人間のハンドル操作が切り遅れがちになる。それがステアバイワイヤであれば、少しの入力でも読み取ってクルマが反応してくれるから、意図に合致した動きができる。そういうことでしょうか。



渡辺さん:ドライバーの意図に対して、より一体感が生まれてきます。そういう味を狙って、ギア比の設定などもも磨き込みました。(藤田真吾)