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『クレヨンしんちゃん』野原家以外を巻き込んだ、ハチャメチャないたずら4選

2022年05月31日 11:11  リアルサウンド

リアルサウンド

『クレヨンしんちゃん』1巻

 2022年4月22日、記念すべき劇場版30作品目となる『クレヨンしんちゃん もののけニンジャ珍風伝』が公開された。本作の主人公・野原しんのすけが家族や友人のため奮闘する姿は、これまで多くの人の涙腺を刺激してきた。


(参考:磯野フネ、野原みさえ、ベルメール……国民的漫画のかっこいい母親たち


 一方で、“普段”のしんちゃんといえば、いたずらやおふざけなどで周りの人々を困らせるヤンチャさが魅力。特に連載初期においては、必ずしも関係性が深いとはいえない人たちも含め、周囲を巻き込んだ、面白さより驚きが勝ってしまうようないたずらも少なくない。当時とは時代も変わったが、「あくまで子どものすること」と寛容な目で見ることができるかどうか、その一部を紹介したい。


■エレベーターガールの女性を怒らせる


 しんのすけがちょっかいを出し、みさえやひろし、ひまわり組の友人やネネちゃんのママを怒らせる。そんな様子は本作では見慣れた光景であろう。ただ上述の通り、しんのすけがちょっかいを出すのは顔見知りの相手だけではない。


 『クレヨンしんちゃん』1巻「オラと母ちゃんはお友達なのヨ編(その9)」にて、しんのすけはエレベーターガールを務める女性に「(行きたい階数は)135階」と話しかける。女性は視線を合わせずマニュアル通りの対応で乗り切ろうとするものの、しんのすけは「ようち園の先生が言ってたよ/お話するときは人の顔を見なさいって…」といった発言を続けるのだった。


 すべての乗客が降りた際に彼女は「くそガキめ」と本音をこぼすも、影に隠れていたしんのすけは「家賃いくら?」「ベッドはシュウノウ?」「恋人はいないの?」といった質問を投げかける。


 「人をコケにするのもいいかげんにしてよ」と言いながらしんのすけを睨み付け、怒りをぶつけるエレベーターガールの女性。その姿を売り場の客に見られ、デパートのスタッフから注意される様子が描かれた。なかなかの“わるがき”エピソードである。


■アルバイト初日の女性店員を怒らせる


 同エピソード「その4」においても、しんのすけは見ず知らずの女性にちょっかいを出す。舞台はハンバーガーショップであり、アルバイト初日の女性店員にしんのすけは「テレビのコマーシャルのねえちゃんはもっとニコニコやさしいぞ」と発したり、彼女の胸部を指で触ったりする。


 少しずつ怒りの感情があらわになる女性店員に、しんのすけは「せんえん」の文字と人物画が描かれた紙を渡す。戸惑う彼女に「知らねーのか…さてはビンボーだな」と告げるといった追い打ちを仕掛け、女性店員は「いーかげんにしろよ/このクソガキ‼」といった言葉をぶつける。しかし彼女の発言は本社から視察に訪れた男性社員に見られてしまうこととなる。


 直後に描かれたコマでは、ベンチに座りながら求人雑誌を読む女性、そして「半分あげる」とハンバーガーを差し出すしんのすけの姿が描かれた。こちらもいま読んでみると、シャレにならないエピソードだ。


■かすかべ書店の店長を本棚の下敷きにする


 しんのすけの被害者として幾度か登場するのは「かすかべ書店」の店員たちだ。


 店長の女性と店員「中村」のふたりは客の立ち読みを阻止するため、“書店協会ブロックサイン”と称するサインプレーでコミュニケーションを図る。ふたりの連携によって大勢の客は立ち読みを中断されるものの、しんのすけには策が通じない。


 売り物の本を無数に積み上げたり、本部からの視察があるなか店内で騒ぎつつ勤務中の中村をロイヤルチョコビで買収したりーー。作中ではかすかべ書店の店員がしんのすけに翻弄される様子が数多く描かれる。


 そんなかすかべ書店のふたりがはじめてしんのすけと出会ったエピソードでは、しんのすけの行動によって店長は本棚の下敷きになってしまうのだ。このとき店長がケガを負ったかは定かではないが、無傷であったとは考えにくいだろう。


■フランス風フルーツ・ド・ライスシチュー(ミルクソース和え)


 多くの登場人物に迷惑をかけるしんのすけであるが、幼稚園のひまわり組全体に影響を及ぼした事例も存在する。そのひとつが2巻「幼稚園は楽しい 楽しいパラダイス編(その1)」で描かれた給食にまつわるお話だ。


 本エピソードではしんのすけやマサオくんたちが給食を教室に運ぶ様子が描かれる。冒頭に給食センターの女性を怒らせたしんのすけは、そのあとシチューとごはんの大半を床にこぼしてしまう。その事実をみなに知られぬよう、「成せばなる/洗えば食える/何物も」と話しながらちり取りでこぼしたシチューを鍋に移す。


 デザートのフルーツみつ豆も加えたり、色彩を調整するため牛乳を入れたりするなど、様々な工夫を凝らしひまわり組の生徒に「フランス風フルーツ・ド・ライスシチュー(ミルクソース和え)」と称し提供した。この料理を実際に食べる様子は描かれていないものの、最後にはひまわり組の先生・吉永みどりが給食センターの女性に「またフランス風の作ってね♪」と話す様子が描かれた。


 本稿で挙げたようなエピソードは、掲載当時であったからこそ描くことのできたものも多いだろう。時代が変化したことや妹・ひまわりが生まれ兄という立場になったことなど、しんのすけの行動の過激さは少しずつ和らいでいるように感じる。


 ただしんのすけの行動に相手を貶めようという悪気があるとは思えず、最後に挙げた「フランス風フルーツ~」のエピソードは、怒られたくないマサオくんや風間くんをかばうために及んだ行動としても捉えることができる。当然ながらフィクションであることも踏まえ、人に迷惑をかけてしまうのもご愛嬌……といえる範囲のいたずらかどうかは人それぞれの判断に委ねられるところだが、常に自分が楽しみ、人を楽しませたいという純粋さゆえのいきすぎた行動にも思え、またときには人のために行動するからこそ、「野原しんのすけ」というキャラクターは30年以上、多くの人に愛されているのかもしれない。


(あんどうまこと)