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デート代ワリカン問題は戦前からあった! 昭和のデートマニュアル「流線型アベック」を読んでみた

2022年05月29日 06:20  キャリコネニュース

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国会図書館のサイトで5月19日から、新たに153万点もの本・雑誌が、オンライン無料閲覧できるようになった。ちょっと覗いて見たところ、昔の面白い本がわんさか見つかった。今回はそのうちの一つ、「戦前のデートマニュアル本」を紹介する。(取材・文:昼間たかし)

「遅れた場合の言い訳」が「女性のタイプ別に分類」されている

その中身は……

本の名前は『流線型アベツク』である。著者は小川武という人で、1935年(昭和10年)に丸之内出版社から発行された。「流線型」は当時デビューした新型蒸気機関車になぞらえ、「新しいもの」の代名詞として、ほんの一時期だけ爆発的に流行した言葉。「アベック」もすっかり使われなくなったが、カップルのことだから、書名を現代語訳すれば「次世代カップル」といったところだろうか。

丸之内出版は当時、けっこう多くの本を発行している出版社だったようだ。『御存じですか? : 常識百般早わかり』『大東京うまいもの食べある記 昭和10年版』みたいな書籍を刊行していた(どちらも今回のサービス拡大で読める)。

さて、この本の内容だが新聞社に勤めているという小川氏が東京の「アベック」について、

・二人はどこへいくのだろう
・どんな風にして会うのだろう
・そして、どんな具合に過ごすんだろう
・さて、どのくらい使う(費用)のだろう

といった疑問を一年越しで調べてまとめた調査本なのだが、中身は当時の「実践デートマニュアル」としても読める内容だ。

待ち合わせスポット、デートで行く場所・店、デート時に気をつけるべきポイントなどが網羅されている。

デート時の注意点を書いた「アベック心得」では、「待ち合わせに遅れた時の言い訳の仕方」が女性の性格別に分類されていたりする。男性読者しか想定されていないのがいかにも昭和だ。

「デート中に知り合いに会った時の対処法」なんていうのもある中で、面白かったのは最近もしょっちゅう話題になる「デートの割り勘」が話題にのぼっていたこと。

ここで小川氏は「二人で出かける度に男に全部費用をもたせるのはどうかと思います」と持論を展開、「(女性は)ランチをご馳走になったらお茶をオゴル」ことを勧めていた。

本の出版年代からして著者はおそらく明治・大正時代生まれの男性だが、こういう感覚だったのかと関心した。そしてこういう論争が、戦前から続いていることにもちょっと笑ってしまった。

待ち合わせの難易度が高すぎる

様変わりしたのは「待ち合わせ」だろう。今はスマホで連絡が取り合えるのでわりとテキトーでもOKだが、当時はスマホどころか固定電話が普及しきっていない時代。待ち合わせで「出会えない」というケースがガチであり得るのだ。

そして待ち合わせスポットといえば「駅」だが、当時は必死である。たとえば渋谷駅での待ち合わせは「交通地獄の中心で、待ち合わすにはよほど慎重に決めないとハラハラする」とある。

そして待ち合わせのコツが笑える。「ハチ公のように何年も、おとなしく待っている覚悟がまず、かんじん」と。お互いウロウロ動くとかえってすれ違いが起きるということだろうが、すごい覚悟が求められていたものだ。

ちなみに、駅ごとの「待ち合わせのコツ」みたいなのが書いてあるのだが、15駅も取り上げられているのになぜか新宿駅の扱いが小さい。「本書の発行間際に拡大工事で変わった」として駅と周辺地図だけが無理矢理挿入されている。なんだ、この新宿駅の扱いの悪さは?

ちなみに紹介されている「デートコース」は、次のようなものだった。

三浦三崎ドライブ一周
ワリカン、銀ブラ法
地下鉄で、デパート早回り
新宿、はしご食べの一夜

「新宿、はしご食べの一夜」を例に挙げると、一杯やってから、今もある新宿の中村屋でコーヒーとチョコレートケーキを食べて「今夜の総計は2円と50銭」と予算まで示してくれていた。

しかし、値段がわからなすぎる。昭和10年ごろと2016年ごろの消費者物価指数を比べてみたところ、現代の金銭価値だと4500円ぐらいらしい。いまは4500円だと「はしご」は難しそうだが……気が向いたら本のとおり、昭和初期アベックの再現デートをしてみるのも面白いかもしれない。