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値段に驚き! 走りはどうなの? 日産の軽EV「サクラ」に試乗

2022年05月27日 11:31  マイナビニュース

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画像提供:マイナビニュース
日産自動車が発表した新型軽EV(軽自動車の電気自動車)「サクラ」は意外なくらいの安さや和テイストの車名などが話題となっているが、走行性能は実際のところどうなのだろうか。まだ発売前だが、ほぼ市販モデルに近いプロトタイプに日産のテストコースで試乗できたので、その「走り」を紹介したい。


○軽なのに? 0-100km/h加速は10秒前後!



サクラは全長3,395mm、全幅1,475mm、全高1,655mm、最低地上高145mmと日本の軽自動車枠内に収まるトールサイズボディ。タイヤを四隅に配し、ホイールベース長は普通乗用車並みの2,495mmを確保している。


フロントボンネット内に搭載するモーターは最高出力47kW(64PS)、最大トルク195Nmで前輪を駆動する。フロア下のトンネルスペースに設置したリチウムイオンバッテリーパックの総電力量は20kWhで、最高速度は130km/h、航続距離は最大180km(WLTCモード)を達成。車重は1,070kg~1,080kgとされている。


つまり、同社の軽自動車「デイズ」と同じサイズで200kgほど重くなったボディに、発生する出力は同じでトルクが約2倍になった電動パワートレインを搭載したのがサクラというクルマなのだ。



サクラに試乗したのは、神奈川県横須賀市の追浜にある日産のテストコース「グランドライブ」。1周約3.8kmのコースには、バンクで結んだ700~800mの2本の直線、アップダウンのある大小のワインディング、さらには首都高のような段差やうねり、荒れたアスファルト路面などが組み合わされている。ここを何周かすれば、大体の走りの性能がわかってきそうなレイアウトだ。


サクラで走る際にはシフトレバーで「D」(ドライブ)か「B」(ブレーキ)を選択する。ステアリングポスト右下(少し押しにくい位置)にあるボタンでは、ドライブモードを「Eco」「Standard」「Sport」の3つから選べる。Sportは最も加速力の強いモードだ。


まずはデフォルトのStandardを選んで直線路をフル加速してみる。すると10秒ほどで100km/hに到達しそうになり、まだまだ順調に車速を伸ばしていきそうな雰囲気に。サクラの最高速度は130km/hとされているから、もう少し長く直線が続けば、そこまではすぐに届きそうな感じだった。



当然、Sportにするともう少し速く、Ecoだと少し遅くはなるのだけれど、その差はあまり感じられない。それよりも、エンジンのうなり(特にCVTを採用した軽自動車に多い)や排気音のない中で、一定の加速度で直線的にスピードが増していくというEVらしい動き方が「新しいモノ」感を伝えてくる。そこには当然、超高性能EVのようなワープ的な加速力はないものの、100km/hまで10秒程度で到達できるというのは既存の660ccターボモデルでもごく僅かなモデルだけで、ひょっとしたら普通車の小排気量モデルやハイブリッド(HV)モデルよりも速いのでは、と思わせてくれたほどだ。

○日産の得意技? ワンペダルの制御はお手のもの



サクラはEVなので、電動車ならではのアクセルオフによる減速が堪能できる「e-Pedal Step」機能が使える。起動させるには、シフトレバーの横にあるボタンを押す。



こちらの減速Gはドライブモードによって左右されるわけではなく、車速によってその強さが変わる。つまり、車速の低い街中などでは減速が強く働いてメリハリのある走りができ、高速走行時などでは減速度が小さくなるのでスムーズに車速を落とすことができるのだ。


コース内のS字の切り替え部分には、最も俊敏な走りができるe-Pedalオン×Sportモードを選び、60km/hくらいで侵入してみた。アクセルオフで自然に発生するフロント荷重の状態で車速を落としつつ、ステアリングを切ってコーナーの出口に鼻先をむけ、頂点を過ぎたところでアクセルを踏み込んでやると、トレッドが狭くて背の高いボディなのにアンダーステア(外側に大回りする状態)を出さずに、さらには大きなロールを伴うこともなく上手にクリアしてくれる。3本のブレースで補強した床下に強力にバッテリーをマウントしたことによる低重心・高剛性ボディと、リアの3リンクサスペンションの相乗効果による動きはしっかりしており、スポーツカー並みとはいわないけれど、ステアリング操作に対するゲインはなかなか高い。


柔らかでフラットなベンチシートなので、速いコーナリングは乗員にとって少し負担になってしまう代わりに、段差部分を通過する時にうまくショックを抑え込んでいるのは、前出のボディとサスだけでなく、このシートの出来がいいからなのだろう。



直線路ではe-Pedalオフ×Ecoモードも試してみた。この組み合わせは最も緩やかな加減速が得られる状態になるので、高速道路などでは電費良好な走りが楽しめそうだ。ワンペダルのオンとオフの差は結構大きく、オフでの滑るような走りは、これまでの軽自動車ではなかなか体験できなかったタイプの空走感だ。



走行音量に関しては、軽自動車としては本当に十分以上のレベル。数値的にはデイズに比べて発進加速時で10dBA(デシベル)、巡航走行時で2dBA低いという結果が出ている。日産によると、ボンネット内の骨格にユニットメンバーを新設して、インバーター一体型モーターの慣性軸の真上をそこにマウントすることで上下振動を抑えたとのこと。ただ、段差部分や荒れた路面を通過した時にはそれなりの音が進入してくるので、さすがに上級モデルの「アリア」ほど静かではなかったかもしれない。



フル充電での航続距離はWLTCモードで180km。試乗車はスタート時点でバッテリー残量89%、航続可能距離148kmと表示されていたから、100%で170kmほど走ることができる計算だ。


日産の調べによると、軽自動車ユーザーの半数以上は1日の走行距離が30km以下だというから、例えば日曜の夜に自宅で一晩充電しておけば(2.9kWで8時間)、月曜から金曜までは充電作業なしで往復30kmの日常走行をこなすことができる。このクルマを手に入れたら「一生、ガソリンスタンドに行くことのない生活ができるようになるはずです」(日産 商品企画部 日本商品グループの鈴木理帆主担)というから、特にスタンドが年々減ってきている地方のユーザーにはぴたりとハマるクルマになりそうだ。ゲームチェンジャーとしてサクラの花を咲かせるヒントは、意外にこのあたりにあるのかもしれないと思わせてくれた。


原アキラ はらあきら 1983年、某通信社写真部に入社。カメラマン、デスクを経験後、デジタル部門で自動車を担当。週1本、年間50本の試乗記を約5年間執筆。現在フリーで各メディアに記事を発表中。試乗会、発表会に関わらず、自ら写真を撮影することを信条とする。 この著者の記事一覧はこちら(原アキラ)