最近、SNSや動画投稿サイトなどで目にする、いわゆる「インフルエンサー」、その潮流は旅行業界も例外ではなく、多くのインフルエンサーが活躍している。一体彼らのビジネスモデルはどのように成り立っているのか。「本当は教えたくない…」、ある業界関係者が匿名を条件に語った。
ブロガーから続く“インフルエンサー”の流れ旅行業界に大きな影響を与える“インフルエンサー”は、SNSが本格的に普及する前から、個人ブログから始まったと見るのが自然だという。当時はジャンル別のブログランキングや、それぞれのブログのアクセス数カウンターの数字などで、ブログの実力が評価され、実力があるブログの運営者は「有名ブロガー」として持て囃された。
旅行ジャンルのブログでは、搭乗記やホテルの宿泊記、旅行に便利なクレジットカードの紹介などが主なコンテンツ。記事を書いた人の状況や感想などと共に、主観も交えた記事構成が多く、ブロガーに読者と言う名のファンがつき、定期的に“巡回”するようになり、アクセス数が多くなってブログが成長していった(本誌「TRAICY」も実はライブドアブログをプラットフォームとしていた)。
旅行系インフルエンサーの流れが変わった契機はいつだろうか。インターネット上で情報を得る主たる手段が、掲示板からブログ、そしてSNSと変化していくにつれ、読者(フォロワーやチャンネル登録者ともいう)以外にも情報が伝わりやすくなった、2010年代後半を挙げる。機械学習などを交えて、YouTubeやツイッター(Twitter)、インスタグラム(Instagram)などで興味があると思われる情報が提案されるようになった。ときには、発信者を意識しない形で、情報が拡散されるようになった。
その情報拡散のプロセスにおいて、発信者が不在になり、情報の正確性が置き去りにされ、好まれる要素だけが増幅され、消化が良くなるように意図された断片的な情報構成とともに積極的に「臭い物に蓋をする」ようになったのが、ここ最近の傾向である。
旅行系インフルエンサーの稼ぎ方存在感を増すインフルエンサー。どのようなビジネスモデルのもと成り立っているのだろうか。
従来、もっとも一般的な「アフィリエイト収入」だ。情報発信した記事や発信に、特定のURLなどをいれることで、そのURLを経由した読者が買い物をしたりサービスに登録したりすることで、インフルエンサーに収入が入る仕組みだ。「アフィリエイト」の登録はハードルが低い代わりに、収入も、読者の1アクションに対して数円から数百円程度にとどまる(某カードの紹介特典のように数万ポイントのインセンティブがあることもあるが、あくまで例外である)。多くの読者を抱えないと、なかなかこの「アフィリエイト」でまとまった収入にはなりにくい。
YouTubeなど一部SNSにおける広告収入を思い浮かべる人もいるかもしれないが、「アフィリエイト」と同様に、多くの読者を抱えないと安定した収入源にすることができない。数十万人や数百万人の読者を抱えた超インフルエンサーにしかできないと言っても過言ではない。
これに対して、インフルエンサーの数に対応するように急増しているのが「企業案件」だ。ファッションブランドやレストランなど、さまざまなBtoCビジネスが、多くの読者を持つ有名インフルエンサーに対して、商品試供や金銭を含むインセンティブの支払いをともなって、インフルエンサーにPRをしてもらう、という「案件」だ。
この流れは旅行業界も例外ではなく、主にホテルを中心に、航空や鉄道、旅行会社などさまざまな企業が、有名インフルエンサーとタイアップして、自社サービスのPRをしようと躍起になっている。旅行業界では、昨今の「GoTo」や「県民割」などによる競争激化、金太郎飴のような新規ホテルの乱立、コロナによる需要急減による影響も否定できない。
そしてインフルエンサーも、資金のある企業からの案件を引き受けることで、インフルエンサーとしての収入を安定化することができる、というわけだ。1投稿数千円から数万円、数十万円に及ぶこともある。
インフルエンサーと読者に迫る闇、景品表示法のスケープゴートに「企業案件」によって、安定した収入を獲得できるようになるインフルエンサーという構図は、一見デメリットもない優良なビジネスモデルのように見える。しかし、ここには誰も話したくない、いくつかの闇がある。
もしA社の「B」という商品を、A社が実際のものよりも著しく優れていると表示した場合、これは景品表示法で禁じられている優良誤認にあたる。しかし、「Bの商品が、(現実と異なる説明とともに)とてもよかった」とあるSNSユーザーCさんが発言し、それを多くの読者をもつインフルエンサーDさんが拡散した場合、優良誤認表示に当たるとは考えづらい。
だが、万が一、A社が「B」の商品を、Cさんに事実と異なる投稿をすることを依頼し、内容に関わらずDさんに拡散を依頼した場合、話は違う。厳密な規制に含まれるかは傍においておいて、A社が多くの消費者を優良誤認によって欺こうとしたという、紛れのない事実がある。景品表示法に抵触する可能性も大いにある。
SNSの発達によって、だれでもインフルエンサーになり、情報発信者として影響力を持てるようになった現在ならではの闇として、インフルエンサーは景品表示法の「不当表示」のスケープゴート(身代わり)になり得るのだ。
読者の“信者”化 インフルエンサーが発信した時点で、その“情報”は期限切れインフルエンサー自身も、自分が何者であるのか、読者に明かすことなく投稿することができ、かつSNSで拡散を狙うために、都合の良い情報のみで構成した投稿をすれば、手っ取り早く影響力を獲得できる。
SNSのユーザーは、再生回数や拡散数、フォロワーの数が多ければ、疑うことなく信用してしまう性質がある。嘘を嘘で塗り固め、嘘を見抜けない人を囲い込むことで、インフルエンサーは「一丁上がり」だ。ボロを出さなければ、信者ばかりのコミュニティを長く維持できる。そして、知らないうちにあなたもその闇に呑み込まれていくのだ。
そもそも大多数が知ることができる、インフルエンサーの発信に含まれた情報は、インフルエンサーが発信した段階で、期限切れが宣告されたようなものだ。
もし、大々的に発信されたのに、もし「お得な情報」が残っていたら、実はその情報に罠があったか、サービス提供元が鈍感であったか、インフルエンサーの力が過大評価されていたか、というところだ。どれにしても何とも哀しい。
インフルエンサーの応援の仕方そんな厳しい環境で、闇に呑まれず頑張っているインフルエンサーを応援したいという人もいるだろう。そんな人におすすめしたいのはこういう行動だ。
・インフルエンサーの投稿を拡散する(「本当は教えたくない~」「知らないと損~」などと煽る投稿は、特に頑張って投稿している)
・インフルエンサーの掲載したURLから購入する(雀の涙と言ったけれど、枯れ木も山の賑わい)
・インフルエンサーを引用やメンションで褒めまくる(褒められると嬉しい。エゴサーチをしてるかもしれない)
・インフルエンサーの誘導するURLに積極的にアクセスする(アクセス数は大体見ている)
・インフルエンサーのコラボプランは積極的に利用する(リピートがインフルエンサーの信仰具合を表す)
逆接的に言えば、こういう行動をしないと、インフルエンサーが闇に呑まれてしまうかもしれないので、読者は気をつけるべきだろう。
ところで、あなたがSNSで「いいね」した、無料ドリンクがおすすめのホテル、景色が綺麗なホテル、漫画がたくさんあるホテル、食事が美味しそうにみえたホテル、”お得そう”に感じたホテル。その名称を思い出せますか? そしてそのうち、いくつのホテルに泊まりましたか?
(※本記事は特定の人物を意図した投稿ではありません。また、記事中の画像はすべて参考画像です。)