2022年05月25日 17:41 弁護士ドットコム
業務委託契約を結んだエステ会社代表取締役の男性から体を触られるなどの被害にあったとして、フリーライターの女性がエステ会社(東京都中央区)とその代表取締役に対し、慰謝料や不払い報酬など約580万円を求めた訴訟で、東京地裁(平城恭子裁判長)は5月25日、会社とその代表に約188万円の支払いを命じた。
【関連記事:社用車に傷をつけたら手洗い洗車?! 「罰」の法的問題は】
原告側弁護団によると、フリーランスに対するセクハラ・パワハラや会社の安全配慮義務違反を認めた裁判例は珍しく、画期的だという。
フリーライターの女性と弁護団は判決後、都内で記者会見を開いた。女性は「大方事実を認めていただいたことに関しては安心しています。被害にあっている人は相談に行ってほしい」と話した。
判決などによると、女性は2019年3月、代表取締役の男性から直接「サロンの体験後の評価コメントをお願いしたい」と体験記事の執筆依頼を受けた。体験施術のなかで胸を見せるよう求められたり、陰部を触られたりした。その後も、代表取締役の股間を押し付けられたり「性交渉をさせてくれたら食事に連れて行く」などと言われたりするセクハラを継続的に受けた。
女性は基本給月15万円の業務委託契約を締結し記事を執筆していたが、「代表取締役の教えの下に育ててほしいのであれば報酬は要求しないでほしい」などと言われ、報酬は支払われなかった。
平城裁判長は、性被害に関する代表取締役の供述について「内容に不自然な部分がある」とした一方で、女性の供述を「代表取締役の供述に比して自然である」として信用性を認めた。
代表取締役の「(女性が代表取締役に)セクハラ行為による被害を訴えたことはなく、メッセージのやりとりからもセクハラ行為などの存在はうかがわれない」といった反論については、「美容ライターとして安定した収入を得ることを嘱望する女性が、会社から業務の依頼を打ち切られ、報酬の支払いを受けられなくなることを恐れて、代表取締役に対してセクハラ行為などによる被害を訴えず、セクハラ行為などの存在をうかがわせる内容のメッセージのやりとりをしなかった可能性も十分あり得る」と退けた。
雇用契約ではなく業務委託契約だったが、「女性は代表取締役の指示を仰ぎながら業務を履行しており、女性が代表取締役に従属し、代表取締役が女性に優越する関係にあった」として、代表取締役の10項目にわたる一連の行動をセクハラとパワハラにあたると認定。
さらに「実質的には、会社の指揮監督の下で会社に労務を提供する立場であったものと認められる」として会社の安全配慮義務違反を認めた。
代表取締役の性的な発言や性器への身体接触をともなうセクハラ行為を継続的におこなったこと、報酬支払いを正当な理由なく拒むという嫌がらせにより経済的な不利益を課すパワハラ行為は「態様は極めて悪質」と指摘。女性がうつ状態に陥ったことなどからも、慰謝料150万円(弁護士費用10万円)を認めた。
弁護団の長谷川悠美弁護士は、証拠がなかった密室での性被害について「ハラスメント被害は客観的な証拠がどうしても乏しい部分があるが、最終的には性暴力被害者心理にも言及し、原告の供述の信用性を認定して判断してくれた」と評価した。
記者会見を開いた弁護団ら(2022年5月25日、弁護士ドットコム撮影、東京都)
女性は場所の拘束こそなかったものの、専属性の程度が強く、仕事を断る権利もなく、時間にして1日8~12時間ほど働いており、会社もそれを認識していた。判決は代表取締役の不法行為責任だけではなく、会社の安全配慮義務違反を認めた。
長谷川弁護士は「必ずしも労働者性が認められる事案ではなくても、フリーランスの働き方によっては安全配慮義務が認められるという点で切り開いている。女性と同じような働き方のフリーランスの人はたくさんいると思うので、影響力が大きい」と語った。
女性は「被害について、フリーランスという働き方をあえて選んだ責任じゃないかと言われることもありました。確かに自分も経験が浅くて未熟な部分はありましたが、後ろめたいことではないし、ハラスメントされる理由にもならないと思っています。これをきっかけに少しでも経済的な嫌がらせがあることが広まっていけば嬉しいです」と話した。