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新潟に新たな国際アニメーション映画祭が誕生!審査委員長の押井守が会見で意気込み語る

2022年05月23日 21:01  コミックナタリー

コミックナタリー

左から真木太郎、井上伸一郎、押井守。
第1回新潟国際アニメーション映画祭が、2023年3月17日から22日にかけて新潟県新潟市で開催されることが決定。この発表に合わせた記者会見に、審査委員長の押井守、フェスティバルディレクターの井上伸一郎氏、映画祭事務局長を務める真木太郎氏が出席した。

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長編商業アニメーションにスポットを当て、長編アニメーション映画のコンペティション部門を持つアジア最大の祭典を目指す「新潟国際アニメーション映画祭」。アニメ情報誌・Newtypeの元編集長にして現在はKADOKAWA上級顧問を務める井上氏は、アニメが日本を代表する文化でありながらも、文化価値の共有、作品評価、人材・スタジオの維持といった課題が山積みであり、商業とアート、専門家と大衆などアニメ文化の分断によって力が発揮できていないと、アニメを取り巻く現状を説明。続けて今回の映画祭の役割を「日本のアニメに限らず、アニメーションの地位や価値の向上に貢献する中心を担う」と位置づけていることを明かした。

井上氏は「アニメ映画を上映するだけでなく、アニメやコミックの研究論文を発表する場を作っていく」と“クリエイティブな映画祭”を目指す方向性として挙げる。またこうしたプログラムを作る背景として、世界で黒澤明監督や小津安二郎監督の映画がいまだに支持を受け続ける理由の一つに海外の日本映画研究家の力があると伝え、「日本人の研究を海外で発信するのは難しい状態。日本のアニメ・マンガの研究を本映画祭から発信し、地位向上の一助となりたい」と思い述べた。

日本にとどまらず世界からも評価を受けるアニメーション監督であり、審査委員長という大役を担う押井は「今までもアニメーションのコンテストはたくさんあった中で『何をいまさら』と思う人もいると思います」と前置きし、アヌシー国際アニメーション映画祭、広島国際アニメーションフェスティバルといった具体例をあげながら「基本的にはアート系のアニメーション作品がこれまでのコンテストのメインだったと思います。今回の映画祭の特徴は長編作品つまりエンタテインメント作品に特化したコンペにしているということ。それが面白いと思いました」と今回の映画祭の見どころをアピールする。

押井は、これまでエンタテインメント作品に特化したコンテストがなかった理由として「アニメ業界は人の作品を評価したり、人の作品の悪口を言ったり基本的にしない特殊な世界。それが僕らの世界の悪しき伝統で、批評もなければ評価もなかった」と私見を述べ、「そういったものを打ち破る契機になればいいかなと思います」と期待を込める。審査委員長の意気込みを話す場面では「引き受けたからには、自分のポリシーで作品を選びたい。作品の規模であるとか、興行成績であるとか、作った会社の規模だとか、監督の評判であるとか、そういったことを全部無視して、クリエイティブで情熱を感じる作品を選びたい」と力強く伝えた。

会見には、フランスで開催中の第71回カンヌ国際映画祭の会場からプログラミングディレクターの数土直志氏、新潟から映画祭実行委員会代表の堀越謙三氏も参加。数土氏は、長編アニメーションを重視した理由を「長編はアニメーション文化の多様性の最先端になっている。ヨーロッパの巨匠が作り出す作品、巨大な予算をかけたハリウッド制作のCG、日本の2Dスタイルなど独自の文化・歴史を背負った作品が登場しているが、これらには同じ視点からの批評がなくばらばらな世界に存在している。映画という共通の視点を与え、新しい価値をつけたい」と説明した。堀越氏は「新潟では、約30年の間に約3000人のアニメ、マンガのクリエイターたちが育成されている。なおかつ昨年、大学の中にアニメ、マンガを専門とする学部もできた」といかに新潟がアニメ・マンガと密接な関係にあるかをアピール。「楽しくなくては映画祭ではない」と言う堀越氏は「新潟は日本で一番お酒がおいしいところ。海の幸もおいしいものがある。飲んだり食べたりしながら皆さんがアニメーションについて語れる場を提供したい」と意気込みを口にした。

会見終盤の質疑応答では、長編アニメは公開直前まで制作が行われる傾向にあることや、商業的な側面から映画の露出について細かな宣伝スケジュールが組まれていることが多く、目玉となるような、全国公開前の長編アニメを映画祭に呼ぶことが難しいのではないかという質問が飛ぶ。プロデュース会社ジェンコの代表でもある真木氏は、「ジャパンプレミアムとして海外からの作品は集まりやすいと思うが、日本の作品を集めるのはおっしゃるとおりかなりハードルがある。出展にどんなメリットがあるかをお伝えしていかなくてはいけない」と今後の課題を話す。押井も日本のアニメ作品は漏洩を極端に恐れて公開まで扱いがとてもシビアであると説明。一方で、海外の映画業界を例に出し「公開前の作品を1晩だけ露出する伝統が海外にはある。そこでアンケートを取ったり、市場調査をする。つまり興行側にとってもメリットがあることなんです」と意見を述べ、「日本にはないがとてもいい制度。今回の映画祭がその先がけになってほしい」と思いを伝えた。