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映像作品への出演ラッシュが続く岸井ゆきの 求められる理由は“想像力を掻き立てる演技”?

2022年05月21日 12:01  リアルサウンド

リアルサウンド

岸井ゆきの『パンドラの果実~科学犯罪捜査ファイル~』(c)日本テレビ

 現在放送中の日本テレビ系土曜ドラマ『パンドラの果実~科学犯罪捜査ファイル~』(以下、『パンドラの果実』)で、天才科学者・最上友紀子を演じている女優の岸井ゆきの。天才科学者でありつつも、私生活では寝癖を気にしないような無頓着な部分もあるという独特のキャラを好演している。本作に限らず、近年映画、ドラマなど映像作品への出演ラッシュが続く岸井の魅力に迫る。


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 『パンドラの果実』で岸井演じる最上は、これまで画期的な研究をいくつも発表し、業界内でも有名な天才科学者。しかし、ある研究を続けるなか、科学の闇に触れ、現在は科学界から退いているという女性だ。一方で、ディーン・フジオカ演じる警視庁・警視正であり最先端科学技術にまつわる犯罪を専門に取り扱う部署「科学犯罪対策室」の室長・小比類巻祐一を会って間もなく“こっひー”と呼ぶなど、人との距離感にやや常識離れした部分も持つ。


 本作の最上以外にも、3月まで放送されていたドラマ『恋せぬふたり』(2022年/NHK総合)では、恋愛を前提としたコミュニケーションに馴染めず、悶々としているなか、自身がアロマンティック・アセクシャルであるかもしれないと気づく女性・兒玉咲子を、さらに『#家族募集します』(2021年/TBS系)では、6歳の男の子を育てながら、シンガーソングライターを目指すシングルマザーの横瀬めいくを演じるなど、どちらかというとキャラが立った役を演じることが多かった。


 もちろん、ドラマや映画という物語のなかで描かれるキャラクターであるため、大前提として“なんの特徴もない人”であることは少ないのだが、どのキャラクターも、ややもすると現実社会ではリアリティに欠けて感情移入しづらい人物になりかねない。


 見方によればやや“ウザキャラ”になりがちな人物を、岸井は非常に良いバランスで演じている。最上は“イヤ”をハッキリ言い、馴れ馴れしさ満点でガサツながら、科学の持つ闇に直面したときに見せる苦悩を、仕草や目線で繊細に表現。普段はぶっ飛んでいるが、こうした岸井の丁寧な表現によって、最上という人物のリアリティが増している。


 同じように『恋せぬふたり』の咲子も、『#家族募集します』のめいくも、ややうるさいなと思わせる部分もあるものの、自分自身と向き合う場面で、岸井がストレートな表現ではなく、奥行きを想像させる芝居をすることで、しっかり視聴者に感情移入させるキャラクターに仕上げていた。


 岸井といえば、自身のInstagramなどで映画メディアに対しての熱い思いをたびたび述べているが、映画作品では、どちらかと言うとドラマとは違い、直接的な感情表現ではなく「なにかを抱えているんだろうな」と想像力を掻き立てる演技を見せる。自身も見ただけで、なにを考えているか分かるような単一的な答えを導き出すような芝居ではなく、「どんなことを考えているんだろう」と想像させる余白を作ることで、その人物に寄り添ってもらえるような芝居を意識しているという。現在公開中の映画『やがて海へと届く』で演じた主人公・湖谷真奈などは、まさにそんなキャラクターだった。


 こうした映画的な表現を、ドラマで演じるキャラクターにも、できる限り投影する。だからこそ、ややデフォルメされた人物でも、その場に生きている人として物語にしっかりと根付くのだろう。そして、ガチャガチャしたキャラクターでも、スッと間を持たせる場面を作れるから、対峙する相手との空気感もしっかり保てる。どんな俳優とでも、安定した関係性を提示してくれるのも、岸井が多くの作品で求められる理由の一つだろう。


 2022年は、現在解禁されている映画だけでも、『大河への道』、『神は見返りを求める』、『犬も食わねどチャーリーは笑う』、『ケイコ 目を澄ませて』と出演ラッシュだ。手合わせする監督も、吉田恵補監督、三宅唱監督、市井昌秀監督と気鋭の映像作家ばかりで、日本国内だけではなく、海外からも注目を集めている。岸井と対峙する俳優たちも、香取慎吾、ムロツヨシ、三浦友和ら、バラエティに富んだ名優ばかり。


 質量ともに充実一途の岸井。筆者が過去にインタビューした際、「人一倍体力があるんです」(※)と笑顔で語っていたように、現場では、太陽にように明るく元気に俳優道を邁進していくことだろう。


・参考
https://www.crank-in.net/interview/103203/1


(磯部正和)