2022年05月16日 11:11 リアルサウンド
登場人物の願いが叶うことが、必ずしもハッピーエンドではない。ツイッターで投稿された創作漫画『人狼にされた男とその幼馴染の話』は、カタルシスがありながらも、その結末に心を揺さぶられるダークファンタジーだ。
町医者として働くイーサンは、かつて魔女の手によって半狼にさせられた親友・ダンを街中で見つける。現在、魔女の下僕として凄惨な生活を強いられるダンに、イーサンは魔女と交渉することを提案するが、この返答は「俺を殺してほしい」、「俺はもう 人を喰ってる」という衝撃的なものだった。罪悪感に押しつぶされるダンを助けるため、イーサンは魔女が住む館に単身向かう。親友への贖罪と、そのために重ねてしまった罪。果たして、イーサンとダンの物語はどんな結末を迎えるのか――。
本作の作者・松倉ユウコさん(@999_mtkr)は、4年前から本格的に漫画制作を始め、「ページ数を決めて話をまとめる練習をしよう」と、挑戦的な思いで制作したという。やりきれないラストに至る本作はどのように制作されたのか、話を聞いた。(望月悠木)
■“キャラクターの感情”を前面に出した作品
――「人狼にされた男とその幼馴染の話」が制作された背景を教えてください。
松倉:これまではページ数を決めずに描いていたので、「今回はページ数を決めて話をまとめる練習をしよう」と思ったことがキッカケです。作風に関しては、もともと北欧神話が好きなので、そのモチーフを使ったダークファンタジーが描きたかったことも背景にあります。
――ダンを救うため、イーサンが悪魔と契約していたという展開には驚きました。
松倉:「どうすればイーサンが豹変するシーンで驚いてもらえるのか」ということを意識しながら制作したため、そう思ってもらえたなら嬉しいです。もともと、今回はキャラクターの感情を前面に押し出すことを意識してストーリーを作りました。その上で、世界観や設定の説明を崩さないために、最小限に表現を抑えてみましたが、「どこまで説明したらいいのか「どこまで省いたらいいのか」という点でとても悩みました。ただ、キャラクターの作り込みと世界観の掘り下げのバランスが取れた結果、“良い裏切り”が表現できたと思います。
――また、最初に魔女の家に潜入した時、息苦しくなるほど重々しい雰囲気だったのも印象的でした。
松倉:室内のシーンは意識的に少し暗めに描いています。イメージとして19世紀初頭のヨーロッパを参考にしており、当時は昼間の明かりが窓から入る日光のみだったと思います。映画など参考にしつつ「昼間なのに暗い室内で重々しい雰囲気」を意識しながら描きました。イーサンが見たがった「狼の毛皮」のあった部屋は、窓の少ない倉庫のような場所という設定で、より暗い場所になっています。
■伝えたいセリフは短く
――胸を打つセリフが多かったのですが、どんなことを意識しましたか?
松倉:セリフはできるだけ短くまとめようと意識しました。特に感情を伝える台詞は短くても印象に残るような言葉を選んだつもりです。一言で「あ、このキャラはこう思っていたんだ」、「こういう話だったんだ」ということが伝わると嬉しいです。
――ダンは魔女の支配から開放されましたが、彼らの今後を思えば必ずしもハッピーエンドとは言えません。暗いラストは最初から決めていましたか?
松倉:最初は漠然と「イーサンが堕落する」と考えていました。ただ、ダンとの関係性を模索する中で、知人から「人が人らしく在るためには、一緒に寄り添ってくれる誰かが必要」という考えを共有してもらったことが大きく影響しています。「倫理的には後戻りができなくても、誰かが傍にいてくれれば、最後の人間性は保つことができるのではないか」と思い、イーサンがダンと同じところまで堕ちるために堕落した、という結末にしました。
――最後に今後の活動についてお聞かせください。
松倉:特定のジャンルに拘らずに挑戦しつつも、全てに何か共通した読後感を得られるような作品を作っていきたいです。また、商業デビューを目指している真っ最中ですので、今後もより多くの方に楽しんでいただけるものを模索していきたいです。pixivやboothで過去作品の公開、同人誌の販売をしているので、お気に召しましたらお手に取っていただけると嬉しいです。
(望月悠木)