2022年05月16日 10:41 弁護士ドットコム
人気グループ「SixTONES」の森本慎太郎さんが、出演するドラマ「ナンバMG5」の撮影中に鼻骨を骨折するケガを負った。フジテレビが5月6日、報道各社に発表したという。
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各メディアによると、5日のアクションシーンの撮影で、共演者の手が森本さんの鼻に当たったという。フジテレビは事故を受けて、森本さんに謝罪するとともに、番組制作における安全対策に一層の注意を払うことを表明した。
森本さんのような「芸能人」でも、仕事中のケガについて労災は認められるのだろうか。近藤暁弁護士に聞いた。
労災保険法が適用されるためには、労災保険法上の「労働者」に該当する必要がありますが、これは労基法上の「労働者」と同じ概念であるとされています。
芸能人が労基法上の「労働者」に該当するかどうかについては、1988年に出された厚生労働省における通達(通称「芸能タレント通達」)にその判断要素が示されました。
具体的には、次のいずれにも該当する場合には、芸能人は労基法上の「労働者」ではないこととされています。
(1)当人の提供する歌唱、演技等が基本的に他人によって代替できず、芸術性、人気等当人の個性が重要な要素となっていること。 (2)当人に対する報酬は、稼働時間に応じて定められるものではないこと。 (3)リハーサル、出演時間等スケジュールの関係から時間が制約されることはあっても、プロダクション等との関係では時間的に拘束されることはないこと。 (4)契約形態が雇用契約でないこと。
この芸能タレント通達を前提とすると、多くの芸能人は「労働者」に該当しないこととなり、労災保険法による補償を受けることができません。
しかしながら、2021年4月1日から芸能関係作業従事者(俳優、ミュージシャンや監督など)等も新たに特別加入制度の対象となりました。
労災保険法上の「労働者」でない方についても、労災保険への任意的な加入を認める制度です。
個人事業主(フリーランス)がケガや病気等をした際の補償の必要性を訴える声を受け、労災保険法が改正された結果、芸能人にも補償を受けられる道が開かれたわけです。
結論として、森本慎太郎さんのような芸能人が労災保険法上の「労働者」として取り扱われることは少ないものの、特別加入制度を利用することにより労災保険法による補償を受ける余地があると言えます。
なお、一般の労働者の場合には、雇用する事業主が労災保険に関する届出等をおこなうこととされているのに対し、この特別加入の場合、芸能人自身が特別加入団体を通じて加入手続きをおこなう必要があることに注意が必要です。
【取材協力弁護士】
近藤 暁(こんどう・あき)弁護士
2007年弁護士登録(東京弁護士会、インターネット法律研究部)。IT・インターネット、スポーツやエンターテインメントに関する法務を取り扱うほか、近時はスタートアップやベンチャー企業の顧問業務にも力を入れている。
事務所名:近藤暁法律事務所
事務所URL:http://kondo-law.com/