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バーチャルアンデッドユニット BOOGEY VOXX、音楽を軸にした活動の足跡 クラブとの関わりもポイントに

2022年05月15日 13:01  リアルサウンド

リアルサウンド

BOOGEY VOXX『死亡的観測』

 4月24日よりTOWER RECORDS新宿店に特設ブースが設置されたバーチャルアーティストの名を知っているだろうか。彼らはBOOGEY VOXX。どの企業にも所属せず、自分たちの力だけで活動する、個人勢、いや、“故”人勢として最強の音楽力を持つこのユニットは、これを機に学ぶに相応しい。Vラップを扱う記事(※1)の中で紹介した彼らだが、今回はそこでは語りきれなかった多くの魅力を深掘りして紹介していく。


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 BOOGEY VOXX(以下BGV)は、ボーカル担当のキョンシー・Ciとラップ担当のフランケンシュタイン・Fraの2人からなる“バーチャルアンデッドユニット”。音楽活動を明確に軸に据えたユニットで、ゲームや雑談の配信をメインコンテンツにしたバーチャルアーティストとは一線を画す。


 まずは、彼らの足跡を辿ろう。彼らは2020年2月にTwitterを開設し、3月にみきとP「ロキ」のカバー動画でデビューを果たした。それ以降、現在まで毎週金曜日にカバー動画を投稿し続けている。同年5月には初のオリジナル楽曲「D.I.Y.」をリリースし、爆発的にその名を轟かせた。9月には森カリオペ(Mori Calliope)「失礼しますが、RIP♡」のカバーを投稿しスマッシュヒット。2021年、「ロキ」の投稿日と同じ3月6日にアルバム『Bang!!』をリリースし、それ以降活動が加速していく。同年6月には『#デッドマーチ02』と題したライブにて、3Dモデルを披露。また同月にカバー楽曲のコレクションEP『BGV#ぶぎぼのうたばん』をリリース。さらに10月リリースのアルバム『死亡的観測』収録曲「CROWN (feat. Mori Calliope)」でも話題を呼び、今に至る。


 音楽的な魅力の前に、彼らの活動のどの部分が驚異的か説明しよう。まず、カバー動画の週一発表ということの凄まじさは、音楽に触れたことのある人間ならば容易に理解できるだろう。アーティストによっては、それだけでもかなりの時間をかける作業を、配信活動といった他の活動の傍らコンスタントに続けているのだ。それをデビュー当初から絶やしていないのだから、凄まじいバイタリティだ。そのスピード感によって最新の流行を追う層にリーチしつつ、選曲センスもまた彼らの音楽性を輝かせることに一役買っている。バーチャルにハマる世代にどストライクかつ、“VTuber”と“歌”を接続するのに大きな役割を果たした「ロキ」がデビュー投稿曲に選ばれていることも、それを補強する要素だ。


 キズナアイや電脳少女シロを想像すると分かりづらいかもしれないが、3Dでの活動を無所属で行うというのも特筆すべき点だ。現実の体の動きに合わせてバーチャルキャラクターを動かすには、大掛かりな機材が必要となる。モデルの用意もコストがかかり、そこに踏み出すには大きな壁がある。個人勢かつ非3Dクリエイターとなると、天開司、歌衣メイカ、兎鞠まり、ガッチマンVからなるグループ・All guysや、ぽこピー(甲賀流忍者ぽんぽことピーナッツくん)といった“超一流”に限られてくる。ほぼ音楽一本でその壁を打ち破っていることがいかに凄まじいか、感じていただけるだろう。


 クラブとの関わりが深いことも、BGVの大きな特徴の一つだ。クラブイベント向けRemix EPをクリエイターズマーケット BOOTHにて無料配布するという試みが話題を集め、特に「D.I.Y.」は今ではオタクカルチャーのクラブシーンでアンセムと呼んでも差し支えないほどに浸透している。本人たちも、日本最大級のアニソンクラブイベント『宴』シリーズに何度も出演しており、5月21日には新プロジェクト『Vの宴』に出演することも決まっている。彼らの言う“生前”、つまりバーチャルな活動を始める前に積み重ねたライブイベント経験によって、その場で最高のパフォーマンスができることも要因の一つだろう。


■圧倒的な歌声とラップテクが作り上げるBGVのパワー


 BGVの音楽は、「単純に上手い」という評価が一番しっくりくる。Ciの歌声は、決して変幻自在というタイプではない。m-flo「miss you」のカバーのようにハスキーな成分を巧みに使いチルをシャープに決めることもあれば、全編を通して叫ぶように歌う「Digmen Funk」など、確かなテクニックはあるが、本質はそこではない。やはり一番に輝きを増すのは、その圧倒的なパワーを全面に押し出したときだろう。表現に幅を持っているという面を見せながらも、ストレートな歌声が最も似合うというのが、フィジカルで勝負するようなカッコ良さを醸し出している。


 一方Fraは、テクニックが大きな領域を占めるラップにおいて「何でもできる」ことによってパワーを示している。広いテンポ感やライムの硬さを操り、喉を締めて鼻腔を震わせるような声質は、英語的な発音にも対応できる。なかでも「Digmen Funk」はFraの複数の面が一挙に理解できる曲だろう。「CROWN」でコラボした森カリオペは間を詰めるようなスタイルが得意で、発音を含めて統一感を出すことも当然Fraにはできたはず。しかし彼は、ライムを固めすぎず、日本語として聞き取りやすいフロウを選択している。硬すぎない韻や不規則な間がまるでフリースタイルのようなグルーヴを作り出しており、真っ向からぶつかっていく意思表示のようにも見える。


 また、彼の歌詞にも隙はない。カバー動画では、Fraが楽曲にメスを入れ、その意図を汲み取ったり汲み取らなかったりを選択的に切り替えながら作詞していく。そこにも、自在な表現方法を持つFraの強みが光っている。オリジナル曲の場合、2人で、あるいはそれ以上の人数で対話を重ねながら、テーマについての解釈や理解を深め、納得がいくまで練り上げられたものが世に送り出されている。歌詞だけでなく、その他の部分についても隙がない。そこが最強のバーチャルアーティストの一組と筆者が確信を持てる所以だ。


 バーチャル界にいくつか張られた前線の正面に立って牽引しているBOOGEY VOXX。今やその前線がTOWER RECORDS店舗というリアルにまで拡大している光景があるのだ。プロモーション力のある企業勢が大きな輝きを放っているのも確かな事実だが、個人勢も着実に勢力を伸ばしている。その中で存在感を増しているBGVの活躍は、こんなところで止まるはずがないだろう。リアルを揺るがすその現場を、その目で確かめてみてほしい。


※1:https://realsound.jp/2022/04/post-1000884.html(安西達紀)