2022年05月15日 09:31 弁護士ドットコム
テレビ放送をめぐる環境は、インターネットの普及によって、大きな変化が起きている。NHKプラスやTVerといった、放送番組のネット同時配信やアーカイブ配信も普及してきた。
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今後、若い人たちを中心に、テレビ受信機で放送番組を見ない人が増える可能性も高く、テレビを置く人に受信契約を義務付けているNHKの受信料をどうするのか、ということも論点になりそうだ。
自宅にテレビを置いていても、「ほとんど見ないから払わない」という主張もかねてからあるが、現状の受信料制度のもとで、受信料を支払わなかったらどうなるのだろうか。あらためてまとめてみた。
NHKのホームページによると、2020年度末時点で、テレビ普及世帯が4650万件、受信契約対象世帯数(テレビ普及世帯数からテレビ故障等世帯数を引いた数)が4610万件、世帯契約数(受信契約数から事業所契約数を差し引いたもの)が3811万件、世帯支払数が3703万件となっている。
これらのデータからNHKが推計した世帯支払率は、世帯支払数÷受信契約対象世帯数より、80.3%だった。すなわち、テレビを所有している世帯の約2割が、未契約も含めて、受信料を支払っていないということになる。受信契約対象であるにもかかわらず契約をしていない世帯は799万件にのぼる。
NHKの受信契約は、放送法64条1項によって義務付けられている。2017年、テレビを置く人に受信契約を義務付けた放送法の規定は合憲であると最高裁で判断されている。
また、過去の判例では、ワンセグ放送を受信できるカーナビや携帯電話についても「協会の放送を受信することのできる受信設備」に当たるとされ、すでに世帯契約をしている場合を除き、受信契約の対象となっている。
NHKがうつらないテレビを所有していたとしても、契約義務があるとする最高裁判決が2021年に出されている。
では、契約義務がある、ということで、NHK側が契約を申し込んだ時点で自動的に受信契約が成立するかというと、そうではない。
テレビを持っているのに契約を拒む人に対しては、NHKが個別に裁判を起こし、裁判所が契約の承諾を命じる必要がある。また、受信料を払っていなかった場合でも、罰則は科されない。
契約しているにもかかわらず、受信料を滞納していた場合は、 NHKが支払い督促を申し立てると、裁判所から滞納者に督促状が届く。滞納者が2週間以内に異議申し立てをしなければ、裁判所による賃金などの差し押さえが可能となる。異議申し立てを行えば、通常の民事訴訟に移行する。
NHKは、滞納者に対してはまずは訪問や文書によって支払いを促し、支払い督促は「最後の手段」だとしているが、2022年3月末時点での支払督促申立て総件数は11,534件にのぼっている。
ネット配信なども広まっていく中で、受信契約のあり方はどう変わっていくのだろうか。
NHKは、テレビを持っていない人や日常的に使用していない約3000人を対象に、専用のアプリやサイトを通じてサービスを提供する実証実験を4月22日から始めている。
この取り組みに関連して、4月8日の総務大臣会見で、記者から「ネット受信料徴収につながるのではないか」という質問が出た。
これに対して、金子総務相は「幅広く国民・視聴者の皆様からの御理解を得る必要があり、総務省としては、テレビを設置していない方を新たに受信料の対象とすることは、現時点で考えておりません」とコメントしている。
確かに、ネット受信料を徴収するとなると、大きな反発が出るのは間違いない。一方で、既存のテレビ放送を想定した受信料制度だと、視聴環境の変化とのズレが生じる可能性もある。最高裁判決で受信料の制度が合憲となったとはいえ、環境変化に対する受信料の「あるべき姿」にたどり着くのは簡単ではないだろう。