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フィアット「500e」は96%が新設計! でも魅力は不変?

2022年05月12日 11:31  マイナビニュース

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画像提供:マイナビニュース
フィアット「500」(チンクエチェント)が電気自動車(EV)になった。新型車「500e」は写真を見る限り、中身だけをEV化した500の亜種かと思ったのだが、聞けば96%が新設計のEV専用車になっているのだそう。何がどれほど変わっているのか。500の歴史を振り返りつつ、500eの実車をチェックしてきた。


○「チンクエチェント」の歴史



新型500eについて触れる前に、まずはついに電動化した「500」の歴史をサクッと振り返っておきたい。



1936年に登場した初代「500」は排気量570ccの水冷4気筒エンジンをフロントに載せた2人乗りFR(フロントエンジン・リアドライブ)スタイルで、手に入れやすい価格、ちょこまかと走り回ることができる小柄なボディ、丸いボンネットとフェンダー上のヘッドライトという愛嬌のあるスタイルから「トポリーノ」(ハツカネズミ)の愛称で呼ばれた。商業的にも大成功し、当時は国民車といえるほどよく売れた。



1957年の2代目「NUOVA500」は、全く新しいデザインの軽量モノコックボディに4人乗りRR(リアエンジン・リアドライブ)というスタイルで登場した。リアに搭載したのは479ccの空冷直列2気筒OHVエンジンで、最高出力はたったの15PSだったものの、かのダンテ・ジアコーサが設計した軽量コンパクトなボディは非力さを補ってあまりある走行性能を発揮。価格も安く、初代に続く大ヒット商品となった。丸くてユーモラスなデザインは多くのファンを獲得。室内騒音がこもることを避ける目的で制作されたオープンキャンバストップモデルはそれに輪をかけて人気が出た。マンガ『ルパン三世』で主人公の愛車として登場するのも、クリームイエローのこのタイプだ。


2代目のデビューから50年が経った2007年に登場したのが3代目「FIAT500」。駆動方式はFF(フロントエンジン・フロントドライブ)となり、搭載するエンジンは1.2L直列4気筒の8バルブ「マルチエア」、1.4L直4の16バルブ、1.3Lディーゼルターボ、0.9Lの2気筒「ツインエア」と多彩な展開に。内外装は先代のイメージをしっかりと踏襲した愛らしいデザインを採用していて、もう見ただけで目尻が下がってしまう、という類のもの。デビューから時間が経った今でもその魅力は普遍的で、折々に出てくるスペシャルバージョンの効果もあってか、2022年になっても乗り始めたばかりと思われるニューカーを街中で見ることができる。


筆者が試乗したことがあるのはこの3代目で、1年前に乗ったのが0.9L2気筒のオープンバージョン「500C」、9カ月前に乗ったのが最終型の1.2L「カルト」だった。まだその感覚が残る中、先ごろ乗ったのが、ついにフル電動化されたチンクエチェントだ。その名もシンプルな「500e」(チンクエチェントイー)。わかりやすくていい。何が変わって、何が変わっていないのか。エンジンモデルと比べてみた。

○「姿を変えずに電動化」がトレンドに?



新型500eの発表時に写真を見た印象としては、見た目があまりに変わっていないので従来モデルのボディをいかしたまま電動化したのだろうと思ったのだが、それは大きな間違い。聞けば、その96%を刷新したというから、つまりはBEV(バッテリーEV)専用モデルとしてプラットフォームを新設計したクルマなのだ。



新型のボディサイズは全長3,630mm、全幅1,685mm、全高1,530mm、ホイールベースは2,320mm。エンジンモデルより60mm長く広く、15mm高く、20mm長いホイールベースというサイズ感だ。ちょっとだけ大きくなってはいるけれども5ナンバーサイズをキープしてくれているので、イタリア・ローマの狭い路地でも、東京・銀座木挽町にある細い通りでも、気にせずスイスイと侵入していくことができる。


ボディカラーは発表写真でしょっちゅう目にする「ミネラルグレー」のほかに、「アイスホワイト(ソリッド)」「オーシャングリーン」「ローズゴールド」「セレスティアルブルー」の5色を用意。試乗車(500eオープン)のカラーでもあるセレスティアルブルーは三層パールの凝った塗装(11万円のオプションカラー)で、光の加減によって薄い水色の中に淡いピンクが浮かぶという、とても素敵な色合いに仕上がっている。

エクステリアでは、まずフロントノーズにある大きな「500」の“ヒゲ”付きロゴが目立つ。従来型は、ここに「FIAT」のロゴ(エンジ色ベース)があり、横に太いグリルバーが取り付けられていた。


ヘッドライトは従来の丸型から、ボンネットラインで上下に2分割したオートハイビーム付きのLEDタイプになった。上側の半円部分が眉毛のように見えるファニーな形状だ。その下にはエクボのような左右2個のポジションライトが変わらず装着されていて、ナンバープレート下のエアインテーク部分が口角を上げた唇のように見える。目が合うと、自然と笑みがこぼれてしまう感じの表情だ。



サイドやリアビューは従来型とほとんど変わっていない。NUOVA500のホイールアーチ径と同じ直径の真円を後輪前に置き、高さを4倍にした円心がリアウインドウ角度の延長線と36度の角度で交わる、というのは500eも同じで、その黄金比を正確に継承しているのである。レオナルド・ダ・ヴィンチが15世紀末に描いた『ウィトルウィウス的人体図』(建築に影響を与えたという手足を広げた男性の人体図)をも連想させるこの話は、さすがイタリアの名車たる所以だ。


ホイールは電動化による重量増とパワーアップに合わせて、従来の14インチから17インチのダイヤモンドカットアルミホイール(タイヤは205/45R17)へと大径化。今どきのクルマらしい先進感とエレガントさを醸し出している。ボディサイドとリアにある水色の「500e」ロゴは、一桁目のゼロにeを重ねたオシャレな書体になっていて、電動チンクのオーナーの心をくすぐるはずだ。


インテリアは、クラシカルでちょっとチープな2代目NUOVA500のイメージを上手に表現していた従来型に対して、新型では立体感と高級感を兼ね備えた見事な造形を持ったものに進化していた。フルデジタルとなったコックピットの7インチメーターパネルや10.25インチのタッチパネル式センターモニターだけでなく、「イントレチャータ」と呼ばれる編み込みのレザーのようなダッシュボード表面の上質な風合いだったり、手触りのいいレザーフリーのステアリングホイールだったり、FIATのモノグラムが連続する植物素材のレザー風シートなどから、500eの上質さが感じ取れる。


200万円台で買うことができた従来型に対して、500万円近い高額モデルとなった新型500e。室内の仕上がりも、500万円のクルマを購入するユーザー層に見合ったレベルに引き上げた、ということなのかもしれない。



電動スイッチ式になったドアノブの内側ポケット底面(のぞき込まないと見えない)には、「MADE IN TORINO」の文字と2代目NUOVA500のイラストが描かれていて、もういうことなし。その走りについては別項でお伝えしたい。


原アキラ はらあきら 1983年、某通信社写真部に入社。カメラマン、デスクを経験後、デジタル部門で自動車を担当。週1本、年間50本の試乗記を約5年間執筆。現在フリーで各メディアに記事を発表中。試乗会、発表会に関わらず、自ら写真を撮影することを信条とする。 この著者の記事一覧はこちら(原アキラ)