2022年05月09日 19:41 弁護士ドットコム
牛丼チェーン「吉野屋」の採用説明会を予約していた学生が、外国籍と判断されて、説明会の参加を断られた問題。会社側は「説明不足だった」と釈明するが、まだ炎上は続いている。外国人の労働問題にくわしい指宿昭一弁護士に聞いた。
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問題発覚のきっかけは、5月1日に投稿されたツイートだ。5月9日までに2.2万リツイートされている。
投稿によると、吉野家からのメール内容と思われる画像が添付されており、そこには「外国籍の方の就労ビザの取得が大変難しく、ご縁があり内定となりました場合も、ご入社できない可能性がございます」と記載されている。
要するに、外国籍と判断されてしまった投稿主は、一方的に説明会を断られたというわけだ。投稿主は「ハーフだけど日本生まれ日本育ち国籍日本なのに向こうから急に説明会キャンセルされたんだけど!!!こんなのアリなん」などと怒りをつづっている。
吉野家の広報担当者は、弁護士ドットコムニュースの取材に対して、次のように説明した。
「組織の活性化を目的に外国籍社員の積極的な登用を続けており、国籍を問わず、将来的な幹部候補として中長期的な教育に基づいた雇用を主としています。従って、当社のこの方針に最も沿うと考える技術・人文知識・国際業務によるビザの取得を前提とすることを採用対象の条件としております。
ただし、技術・人文知識・国際業務によるビザの取得は非常に困難であり、内定取り消しをせざるを得なくなったことが一定程度ございました。ビザの取得をできず内定を取り消された方の心象を慮るあまり、外国籍の方は新卒の会社説明会のご応募をいただいても参加をやむなくお断りしておりました」
指宿弁護士は、今回の吉野家の対応について、3つの論点があると指摘する。
「1つ目は、今回、投稿主本人は日本国籍だったようですが、吉野家は公に外国籍の人を採用すると言っているのにも関わらず、実際は外国籍の人の採用を拒否していることです。
2つ目は、本人に国籍を確認していないことからすると、外国籍であることを問題にしているのではなく、外国ルーツの人を差別しているように見えることです。
3つ目は、本当に外国ルーツかもわからないので、『見た目』で人を差別している可能性があることです。いずれについても非常に問題だと思います」
吉野家をめぐっては、同社の常務取締役だった男性が、早稲田大学の社会人向け講座に講師として登壇して、若い女性を狙ったマーケティング施策を「生娘をシャブ漬け戦略」とした発言でも物議をかもしたばかりだ。
「一連の問題は、決して偶然ではなく、そういう差別をする会社だとわかってしまったといえるのではないでしょうか。会社として、抜本的な改革をしないと社会的に責任のある企業として生き残っていくことはできないのではないでしょうか」(指宿弁護士)
指宿弁護士によると、今回の吉野家の対応は、憲法13条の『個人の尊厳』や、憲法14条の『平等原則』に反するおそれがあるという。さらに「外国籍の方の就労ビザの取得が大変むずかしい」としたコメントについても批判する。
「一般論として、説明会に応募してきている人について『就労ビザを取得するのがむずかしい』というのは、根拠なくいうべきではありません。あのコメントは不正確、あるいは著しい誤解にもとづくものといえます。外国籍の大学生が就職する際に『在留資格をとるのがむずかしいから採用するのをやめよう』と、他の企業に思わせたとしたら、社会に間違った情報を垂れ流すことになります」(指宿弁護士)