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アマゾン配達「勝ち組」ギグワーカー「自由な働き方、ブラック社員より遥かにいい」、ネガティブ報道に反論

2022年05月07日 11:41  弁護士ドットコム

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「なんで取材する方々はそんなにアマゾンに批判的なことばかり書かれるのでしょうか。日本の大手運送会社よりもよっぽどいいですよ」


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普通自動車の運転免許と黒ナンバーの軽貨物自動車などを用意すれば、誰でも運送業者として、アマゾンの宅配業務ができる「アマゾンフレックス」。自由に働けるギグワークの一種として、ウーバーイーツなどと同様に知られているが、その実態を取材しようとしたところ、現役ドライバーの佐々木さん(仮名)から、報道する側への冷ややかな言葉をぶつけられた。



ギグワークについては、海外の大手プラットフォーマーの対応を中心に、メディアで否定的に批判されることも多いが、実際に現場で働いている人の思いはそう単純なものではない。(編集部:新志有裕)



●「報酬も高いし、自由なので最高の仕事」

佐々木さんは、10年以上前に大手の運送会社にいたことがあり、その職場は「超ブラック企業」だと感じていた。早朝から深夜までの長時間労働に加え、ハラスメントまがいの理不尽な指示。それに比べると、アマゾンフレックスには、何よりも「自由」があるという。



「下請業者のドライバーと違って、アマゾンと直接やりとりするので、報酬も高いし、何よりも自由なので、最高の仕事ですよ。自由にやれるんだから、やりたくなければやらなければいいだけなんですよ。これからはそういう時代です」



アマゾンフレックスは、2017年の「宅配クライシス」と呼ばれる、大手運送会社の送料抑制や値上げを経て、アマゾンが2019年から独自に始めた仕組みで、ドライバーはアマゾンと直接契約して、アプリで働きたい時間帯の仕事を確保する。倉庫から荷物を持ち出し、AIで組まれたルートに従って配達する。「置き配」が基本になっていることも特徴的だ。



時間単価がいいことから、参入する人たちが増えている。佐々木さんのような慣れたドライバーにとっては、働きやすく、稼げる仕事であり、否定的な見方をされることには、違和感があるという。





●巨大プラットフォーマーの「掌の上の自由」という面も

過去にアマゾンフレックスの宅配ドライバーをやったことがある原田さん(30代男性、仮名)も、以前に中小の物流会社を業務過多でやめたことがあり、「やりたい人が自由にやればいいということは理解できる」と語る。



ただ、「自由であることの良さ」を感じている反面、それはアマゾンの「掌の上の自由」だとも感じている。ある日、突然アカウント停止に陥ってしまったからだ。



「急にアカウントを停止されて、異議申し立てをしたけれどもマニュアル通りの返事しか来なくて、何もできませんでした。その前から、荷物が届いていない件数が多いという警告が出ていましたが、誤配などのミスはなかったと自覚しています。客から何らかのクレームがあったのかもしれませんが、こちらの言い分もまともに聞いてもらえず、納得がいかなかったですね」



プラットフォーマーの一方的な対応は問題視されることが多い。建交労軽貨物ユニオンの高橋英晴代表は「アマゾンフレックスの場合、下請け業者(いわゆるデリバリープロバイダと呼ばれるアマゾンの委託業者のさらに下請け)でドライバーをやる場合に比べて自由はあるのかもしれないですが、アカウント停止や、トラブルがあった時の機械的な対応など、下請けとは違った問題があります」と語る。



また、自己責任で仕事をこなせるのであれば、自由を享受できるが、そうでない場合、淘汰されることになる。



原田さんが東京都の多摩地域でアマゾンフレックスの配達をしていた時、倉庫にいる担当者から電話がかかってきて、「もう何時間経っても(残りの配達個数が)80個くらいから一向に減っていない人がいて、ヘルプに行ってください」と連絡がきた。行ってみると、50代の男性ドライバーで、端末も使いこなせず、地理感覚もなくて四苦八苦していた。原田さんはその時、20個くらいの荷物を預かって、代わりに配達することになった。



後日、倉庫の担当者に聞いてみたところ、「もうその人はやめちゃったよ」ということで、姿を見かけることはなくなったという。



原田さんは「自由にできること自体はいいことだけど、どんな人がやってくるのか、全くわからない面があります」と振り返る。





●「誰もが運送業者の時代」を迎えて

デリバリープロバイダの下請けに入ったことのある、関東の宅配業者の男性経営者・佐藤さんは、アマゾンフレックスも含めて、「誰もが運送業者の時代」がやってきたと感じている。



「アマゾンのAIが指定したルート通りだと、微妙にピンがずれていることもありますが、アマゾンフレックスには、そういうことも確認できずに失敗する『三流』のドライバーもいます。誰もが運送業をできる時代になり、どこかの会社に所属する必要もなくなりましたが、それで本当にいいのかと感じることもあります」



それでも、大手運送会社の経験がある佐藤さんは、「宅配クライシスのころは馬車馬のように働かされていました。そこで一流の配達スキルを身に着けることはできましたが、もうその時には戻りたくはない」と話します。



「誰もが運送業者」の時代になって、良い面、悪い面があることは事実だが、今回、話を聞いた3人のドライバー経験者たちに共通していたのは、アマゾンに対する温度差はあっても、既存の日本の運送会社の働き方がいいとは全く思っていないということだ。



特に、冒頭の佐々木さんが、「日本の大手運送会社はアマゾンに吸収されてしまった方がいいんじゃないか」と極論を語っていたことが印象に残っている。



「宅配クライシス」のころよりも労働環境改善が進んでいるとはいえ、能力が高く、自由にやっていけるドライバーからすれば、人を縛りつける従来型の「働かせ方」に対する見方は厳しい。アマゾンのような巨大プラットフォーマーがもたらす「自由な働き方」については、単にプラットフォーマーの良し悪しだけを見ていては捉えきれない面がある。