トップへ

「夢とやりがい」を強調する企業はなぜ危険なのか? ブラック企業チェックリスト

2022年05月06日 10:21  弁護士ドットコム

弁護士ドットコム

記事画像

職場でトラブルに遭遇しても、対処法がわからない人も多いでしょう。そこで、いざという時に備えて、ぜひ知って欲しい法律知識を笠置裕亮弁護士がお届けします。


【関連記事:マイホーム購入も「道路族」に悩まされ…「自宅前で遊ぶことのなにが悪いの?」】



連載の第13回は「入社後のブラック企業の見分け方」です。入社前には分からなかったものの、入社後に自分の会社に対して疑問を感じた人もいるかもしれません。そんなとき、労働時間や賃金、退職届や社風など、いくつかチェックポイントがあります。



本当に問題のある会社かどうかを見分ける方法について、笠置弁護士に解説してもらいました。



●入社後に見分ける方法

新社会人になられた皆さんの中には、これまでののんびりとした学生生活から、1日の大半を仕事に費やさなければならないという環境の変化に戸惑っている方も多くいらっしゃるのではないかと思います。



さらに皆さんの中には、入社前に聞いていた話とは全く違い、入社した会社の職場環境があまりにも良くないことに苦しんでおられる方も多くいらっしゃるのではないかと思います。 以前、入社前の段階で「ブラック企業」かどうかを見分ける方法について解説をしました(https://www.bengo4.com/c_5/n_13649/)。



今回は、不運にも入社前の段階では見分けることができないまま、「ブラック企業」に入社してしまったかもしれない…という場合において、本当に問題のある会社かどうかを見分ける方法について解説したいと思います。



●ポイント1「長時間労働、労働時間管理なし」

まず、労働時間に関していうと、求人段階で社員の本当の残業時間を開示している会社はまずないと言ってよいでしょう。



そのため、入社前の段階ではそれほど忙しくなく、残業があったとしても月20時間程度と聞いていたにもかかわらず、実際には過労死ラインを超えるような長時間残業を強いられたり、有休を取得することを拒否されたといったトラブルはよく耳にします。



社員に対し結果を出すことを強く求めつつ、結果を出すためには長時間労働は当然であることを強調したり、労働時間管理をきちんと行わないなどといった会社は、要注意です。



●ポイント2「固定残業代に注意」

賃金に関しても、注意すべきポイントがあります。トラブルになることが特に多いのは、固定残業代です。



例えば、入社前の段階では基本給額が月22万円だということで提示を受けていたにもかかわらず、入社した後に提示された契約書には、基本給が14万円、固定残業代が8万円と書かれており、いくら働いても残業代が出ないというケースです。



このような会社は、新入社員であっても長時間労働をあらかじめ見込んでいるため、人件費を節約するために固定残業代制度を導入しているわけですが、基本給額が14万円などという会社には誰も人が集まらないため、入社前の段階ではあたかも一般的な基本給額であるかのように装って求人を行っているのです。



このようなケースにおいて、国による監督が十分機能しているとは言えないため、問題のある求人条件が横行してしまっている状況にあります。なぜ基本給額をごまかすのかといえば、安く長時間労働をさせるためですから、社員の方々としては要注意です。



●ポイント3「辞められないような制度はないか?」

人事管理の面でいえば、社員が簡単に辞められないような制度を採用している会社は要注意です。



例えば、退職届を提出する期限を、退職日から相当前(3か月以上前など)に設定していたり、入社祝い金や会社の研修費用を支給しつつも貸し付けという形をとり、入社後5年以内に辞めた場合には返金を求めたりするなどし、トラブルに発展しているケースがあります。 前借金や損害賠償の予定については、実際には労基法により厳しく規制されています。



会社がなぜこのような制度を導入しているかと言えば、劣悪な職場環境等に耐えかねて社員がどんどん退職してしまうため、少しでも足止めをさせようとしているからです。



離職率の高さは、入社前の段階で「ブラック企業」を見分けるための有用なポイントですが、入社後の段階では、離職をさせないような仕組みを採用しているかどうかが重要なポイントだと言えるでしょう。



●ポイント4「夢ややりがいの強調」

社風として、夢ややりがいを強調し、努力・気合・感謝などといった精神論を強調している会社も要注意です。会社としては、社員に対して精神論を強調することで、会社の劣悪な職場環境について目を向けさせないという狙いがあります。



本当は残業をさせている時間に応じて残業代を払わないといけないところを、「社員自身が好きでやっていることだから」と思わせることで、サービス残業をさせてしまえるわけです。会社にとってこれほど楽な人件費節約術はありません。



経営者の責務は、経営を安定させつつ、社員の生活や健康を考えなければならないはずなのですが、以上に共通しているのは、むしろ会社の出費の節約にばかり目を向けてしまっているということです。このような経営方針の職場は雰囲気が荒み、日常的にハラスメントが蔓延してしまいます。



ここでご紹介したポイントを参考にしていただきつつ、ご自身の会社に問題があるかどうかを今一度確認されてみてはいかがでしょうか。



(笠置裕亮弁護士の連載コラム「知っておいて損はない!労働豆知識」では、笠置弁護士の元に寄せられる労働相談などから、働くすべての人に知っておいてもらいたい知識、いざというときに役立つ情報をお届けします。)




【取材協力弁護士】
笠置 裕亮(かさぎ・ゆうすけ)弁護士
開成高校、東京大学法学部、東京大学法科大学院卒。日本労働弁護団本部事務局次長、同常任幹事。民事・刑事・家事事件に加え、働く人の権利を守るための取り組みを行っている。共著に「新労働相談実践マニュアル」「働く人のための労働時間マニュアルVer.2」(日本労働弁護団)などの他、単著にて多数の論文を執筆。
事務所名:横浜法律事務所
事務所URL:https://yokohamalawoffice.com/