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離婚調停の注意点 調停委員の対応に「?」を感じた場合の対処法

2022年05月02日 10:11  弁護士ドットコム

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夫婦円満な生活を送るためにも、できれば事前にトラブルの芽は摘んでおきたいものです。そこで、年間100件以上離婚・男女問題の相談を受けている中村剛弁護士による「弁護士が教える!幸せな結婚&離婚」をお届けします。


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連載の第8回は「離婚調停の注意点」です。離婚について当事者でまとまらないときには、家庭裁判所の調停手続きを利用することができます。



ただ、いくつか注意点もあります。中村弁護士は「当事者は調停委員達と話すことになりますが、たまに強引に手続きを進めようとする調停委員もいます」と話します。



調停ではどのようなことが行われるのか、手続きの流れや注意点などを紹介します。



●本人同士で進めることも少なくない

今回は、夫婦関係が悪化して、いよいよ裁判所に調停を行うというときの注意点をお伝えしたいと思います。



離婚調停は、代理人弁護士をつけずに、ご本人が申し立てて本人同士で進められることも少なくありません。ただ、ほとんどの方は、調停を行われるのは初めての経験かと思いますので、どのようなものかわからない未知の世界かと思われます。



家庭裁判所が扱う調停には様々な種類がありますが、ここでは、離婚調停(正確には「夫婦関係調整調停」といいます)を中心に、その周辺でよく問題となる調停(婚姻費用分担調停や面会交流調停など)についてご説明したいと思います。



●離婚訴訟の前に「調停」が必要

調停は、要するに「裁判所を通じた話し合い」です。間に裁判所が入ってくれますが、話し合いであることには変わりません。そのため、基本的には、裁判所が一方的に判断を下すということはなく、その点が訴訟と大きく違うところです。



法律上、離婚訴訟など訴えを提起することができる事件で、家事事件手続法の規定により調停を行うことができる事件については、訴えを提起する前に調停を行わなければならないと規定されています(家事事件手続法257条1項。これを「調停前置主義」といいます)。



つまり、家族関係の問題については、いきなり白黒つける訴訟に委ねるのではなく、一度話し合いを行いなさい、ということになっているのです。



そのため、これから離婚したいという方は、離婚訴訟を提起する前に、原則として離婚調停を経ることが必要です。相手が離婚に応じないことが明らかである場合でも、基本的には一度「調停」という場で話し合いを行うようにとされているのです。



●調停の流れ

調停は、裁判官(または家事調停官。以下同じ)1名と、通常2名の調停委員の3名で構成される「調停委員会」が主導して手続きが進められます。



調停で話し合いが行われた結果、合意できれば「調停調書」というのが作成されます。この調停調書は、確定判決と同一の効力を有するので、例えば、調停で決められた婚姻費用や養育費の支払いがなされなければ、別途訴訟などを行わなくても、いきなり強制執行ができるようになります。



他方、合意できなかった場合は、調停は成立しません。その場合、審判手続に移行するものとしないものがあります。



審判とは、判決と同様に、当事者が合意していなくても、裁判所が一方的に判断を下すものです。審判手続に移行する事件の調停は、調停が不成立になった後、別途何かしらの手続きを取る必要はなく、自動的に移行し、担当する裁判官も同じなので、改めて一からやり直す必要はありません。婚姻費用分担調停や面会交流調停、(離婚後の)財産分与調停や養育費調停などがこれに該当し、これらの調停は、仮に合意に達しなかったとしても、最終的に一定の結論は出ます。



これに対し、離婚調停については、審判手続に移行しません。そのため、話し合いで合意できなかった場合は、調停不成立で終わり、裁判所が何かしらの判断をしてくれるということはありません。



それでも離婚したい場合は、別途離婚訴訟を提起することになります。改めて印紙を納める必要がありますし、通常、担当部や担当裁判官も変わるので(裁判官の数が少ない地方の支部などでは同じ裁判官が担当することもあります)、調停で話し合ったことや、提出した資料も再度出し直して、一から裁判官に改めて理解してもらう必要があります。



そして、訴訟では判決が出ますので、最終的な結論(離婚請求が認められるか、認められないか)が出ることになります。



●調停の具体的な手続き

続いて、調停では具体的にどのように手続きが進められるのかについてお伝えします。



最近は、調停が電話会議で行われることもありますし、今後はWEB会議システムの利用によるオンラインにおいて行われる調停も導入される予定ですが、以下では、とりあえず今の時点で主流である双方が直接裁判所に出頭する形での調停を前提にご説明します。



まず、調停は、裁判所に調停申立書を提出することによって開始されます。その際に必要な書類は、裁判所のウェブサイトなどに載っているため、ご確認下さい。また、その際に、収入印紙を貼り付けて裁判所に納め、指定の郵便切手も併せて納めます。



調停を申し立てると、大体1カ月半~2カ月程度後の日付で第1回調停期日が決められます。この日は、裁判所と申立人の都合で決めることになるため、相手方が第1回は都合がつかないこともあります。



そして、第1回期日当日は、家庭裁判所内の会議室(5~6人程度が入れるような部屋)において、調停委員2名(通常は男女1名ずつ)と話すことになります。上記のとおり、調停委員会は、裁判官1名、調停委員2名で構成されていますが、この場には、通常、裁判官は来ません。



1回の調停は概ね2時間前後で、最初に申立人から30分話を聞き、それを踏まえて相手方から30分話を聞き、それを踏まえて申立人から再度30分話を聞き、さらにそれを踏まえて相手方から30分話を聞く、というのが通常です。すなわち、30分ずつ交代で2回話を聞いてもらうことになります。もちろん、状況によっては、10分で話が終わって交代することもあります。相手方が話しているときは、待合室で待機することになります。



このように、交互に調停委員に話を聞いてもらうことになるため、基本的には相手方と顔を合わせることはありません。また、待合室も別の部屋なので、待合室で顔を合わせることも基本的にはありません。最後、調停成立時に調停条項を読み上げる際に、相手方と同席することもありますが、その点も事前に要望しておけば、同席しないように配慮してもらえることが多いと思います。



このような形で、お互いの争いとなっているところを把握した上で、次回までに双方の主張や、その裏付けとなる証拠の提出を求められたり、合意成立のために、双方で何かいい和解案を提案できないかなどの検討を行うことになります。それを踏まえて、第2回期日以降を迎えます。



●どのくらいの期間で終わる?

そのようにして何回か期日を重ね、双方の合意が成立するまで、または合意成立の見込みがないと判断されるときまで、やりとりが続けられます。



事案によって何回期日が設けられるかは様々なので、一概には言えませんが、裁判所の統計上は、平均して期日は3~4回、6カ月前後で終了していることが多いようです。



ただ、弁護士に依頼するような事件では、それなりに争点が多く、私が扱っている案件では、期日として5~6回、9カ月~1年程度かかることが多いように感じます。



●調停委員はどんな人?

続いて、調停を主催する「調停委員会」についてご説明します。調停を主催する調停委員会は、裁判官1名と、調停委員2名(通常は男女1名ずつ)の3名で構成されています。



調停委員は、任期2年で民間人の中から最高裁判所によって任命される裁判所の非常勤職員です。弁護士がなることもありますが、必ずしも法の専門家ではない人(地元の名士など)が選ばれることもあります。



裁判官は、提出された資料の記録を読み、適宜調停委員から報告を受けています。また、今後の方針について調停委員と裁判官で話し合いを行って決めます。ただ、基本的には話し合いの場に出てこず、出てくるのは調停成立時あるいは不成立時くらいのときです。



そのため、基本的には、当事者は調停委員達と話すことになるため、調停委員とのやりとりがとても重要になります。



●調停委員に安易に流されないように注意!

調停委員は、中立公平な第三者であることは間違いありません。ただ、進行の仕方等に疑問を感じる調停委員がいることも、また事実だと思います。



上記のとおり、調停委員は必ずしも法の専門家であるとは限りません。もちろん、裁判官と一緒に調停委員会を構成しているため、全く法を無視したような態度を取るということはありませんが、現在の法実務の観点から、疑問があるような見解を示されることもあります。



調停委員は裁判所の職員であるため、調停委員から言われるなら間違いないんじゃないかと思われるかもしれませんが、必ずしもそうではないことがある、というのは頭の片隅に置いておいた方がいいと思います。



また、たまに強引に手続きを進めようとする調停委員もいます。特に、調停はあくまでも話し合いの場なので、一方が強硬に主張していると、法律上は相手の方が間違っていても、穏やかな方に対して、譲歩するように説得してくることがあります。その意味で、「声のデカい方の主張が通りやすい」ということがあります。これが、必ずしも不当というわけではありませんが、最終的に調停が成立したとしても、納得がいかないということもあるでしょう。



そのため、調停委員が裁判所の職員だからといって、全面的に信頼していいというわけではありません。調停委員は、中立公平な第三者ですので、相手の味方ではありませんが、あなたの味方でもないのです。



私が過去に体験した例では、当初、本人同士で調停手続を進めていたが、途中から私が入った事案で、財産分与に関して1000万円以上条件が変わった事例もありました。



したがって、調停委員の発言する内容や、手続きの進め方について疑問を持ったのであれば、一度弁護士に相談することをお勧めします。



(中村剛弁護士の連載コラム「弁護士が教える!幸せな結婚&離婚」。この連載では、結婚を控えている人や離婚を考えている人に、揉めないための対策や知っておいて損はない知識をお届けします。)




【取材協力弁護士】
中村 剛(なかむら・たけし)弁護士
立教大学卒、慶應義塾大学法科大学院修了。テレビ番組の選曲・効果の仕事を経て、弁護士へ。「クライアントに勇気を与える事務所」を事務所理念とする。依頼者にとことん向き合い、納得のいく解決を目指して日々奮闘中。
事務所名:中村総合法律事務所
事務所URL:https://rikon.naka-lo.com/