2022年04月30日 18:01 リアルサウンド
YamatoN(ヤマトン)こと、林 祐人(はやし ゆうと)は、韓国発のFPS(ファースト・パーソン・シューター)ゲーム『CrossFire(クロスファイア)』をはじめとする数々のタイトルで、日本王者の座を総なめにする勢いで活躍した元・プロゲーマーだ。現在は、プロゲーミングチーム“REJECT(リジェクト)”のチーム運営部・部長 兼 ストリーマーとして活動している。
長きにわたる現役選手時代を経て、現在はストリーマー活動も継続しつつ、“eスポーツの産業化”という目標に向かって邁進するYamatoN。そうした足跡の原点を探ってみると、ある一貫性が浮かび上がってきた。
プロゲーマーやストリーマーを目指すうえでも、また、その先で望ましいセカンドキャリアを掴み取るうえでも、重要なのは自分自身の“目的意識”なのだ。
【写真】REJECTが所有するゲーミングベース、“REJECT GAMING BASE”
・現役選手時代から培ってきたチームマネジメント能力
――まずは、YamatoNさんの現役時代を振り返っていきたいと思います。そもそもプロゲーマーを目指そうと思ったきっかけは何だったのでしょうか?
YamatoN:僕は『CrossFire』というタイトルで本格的にFPSをやり込むようになり、2009年ごろから“Liebe(リーベ)”というクランの一員として複数回にわたり国内王者を経験しました。
その後、2010年に設立されたクラン“Vault(ヴォルト)”に移籍してからは、『CrossFire』公式の世界大会に日本代表チームとして出場することもできました。その大会では国内史上初めて韓国代表チームに勝利することができたものの、残念ながら決勝では中国代表チームに負けてしまい準優勝に終わりました。
そこでの敗北から、いまのままの状態で努力し続けるだけでは世界王者になるのは難しく、中国チームのように、フルタイムで練習に打ち込める環境が必要だと感じたため、世界一になるための手段としてプロゲーマーになる道を選びました。
――2011年には“Vault”がゲーミングデバイスメーカー“ARTISAN(アーティサン)”とスポンサー契約を締結しプロチーム化。それに伴って、ベトナムでのブートキャンプを実施するといった活動も話題となりましたね。
YamatoN:ベトナム遠征については、僕が尊敬する元FPSプロプレイヤーであり、現在はプロeスポーツチーム“Jadeite(ジェダイト)”でヘッドコーチを務めるnoppo(ノッポ)さんの影響が大きいですね。
2006年に『Counter-Strike(カウンターストライク)』でスウェーデン遠征を行ったnoppoさんから、「ブートキャンプは技術向上のうえで大きな成果があった」と聞いていたんです。
やはり、日本よりもハイレベルな競技シーンが存在する国や地域で練習をすることは非常に大切です。実際に現地に身を置くことでしか得られない情報やフィードバックなどは、どれも掛け替えのないものでした。
――2012年以降は、『スペシャルフォース2』や『Alliance of Valiant Arms(アライアンス オブ ヴァリアント アームズ』(以下、AVA)といったFPSタイトルでも活躍されていました。
YamatoN:そうですね。『スペシャルフォース2』は、2度ほど国内大会で優勝しています。その後、2014年に友人たちと『AVA』をプレイしていたところ、“Galactic(ギャラクティック)”というクランからスカウトを受けました。
その“Galactic”のメンバーとして公式の国内大会で優勝し、のちに“DETONATOR(デトネーター)”(当時はDeToNator表記)に移籍してからも、『AVA』の国内大会で優勝を経験させてもらいました。
――さらに2016年には、“DETONATOR”の『Overwatch(オーバーウォッチ)』部門の立ち上げメンバーとして名を連ねることになります。
YamatoN:『Overwatch』に関しては、ゲームがリリースされるという情報が出た段階から、「世界中のFPSプレイヤーがこのタイトルに集結することになるだろう」と、その注目度の大きさを感じていました。
間違いなくFPS競技シーンのひとつのターニングポイントになるタイトルだと思ったので、当時“DETONATOR”に所属していた自分は、『Overwatch』部門を設立するために、必要な人材を考えたり、実際にスカウティングをしたりという部分にも積極的に関わっていたんです。
――2016年当時から、すでにチームマネジメント的な業務にも携わられていたのですね。当時はどのような方針でチームを組織していったのでしょうか?
YamatoN:じつのところ、自分主導でチームを組織するという経験は、『Cross Fire』や『スペシャルフォース2』時代にも何度かあったんです。
『Overwatch』のときは、高い実力を持ち合わせていることは大前提として、話題性も重視しながら選手をスカウティングしていきました。FPSならタイトル問わず知名度があって、かつ上手なプレイヤーを軸にしたい、と思ったんです。
――その後、『Overwatch』部門のメンバーとして国内王者に輝き、世界大会にも出場。約10カ月間の活動の末、YamatoNさんを初めとする第1期メンバーは選手活動を終えられました。
YamatoN:どのようなタイトルであっても、チームの立ち上げメンバーというのはだいたい1年程度で、ひとつのピークを迎えるものだと考えています。
『Overwatch』部門に関しても、第1期メンバーはだいたい1年程度で入れ換えのタイミングを迎えるだろう、と初めから想定していました。だからこそ、その後の活動に幅を持たせられるようにと考えて、競技シーンと広報活動の両面に注力していた部分もあります。
そんな活動を続けていくなかで世間からの注目も大きくなり、やがて朝から夕方までイベントに出演してからそのまま国内大会に出場する、なんてことも増えてきました。結果として、出場する試合には勝てていたのですが、選手への負担も考えて、本格的に選手活動と広報活動を切り分けていく方向にシフトしていったんです。
事前に準備していたぶん、そのあたりの移行はスムーズに行えましたし、部門の黎明期に積極的な広報活動を行ったことで、その後も良い選手が加入してくれる好循環が作れたと思っています。
・チームの「文化」を創り上げていくという使命
――『Overwatch』部門での選手活動終了をもって競技シーンから離れ、ストリーマーとして活動していくことになったYamatoNさんですが、その当時の心境を振り返っていただけますか?
YamatoN:プロゲーマーを引退することについては、とくにこれといった感慨は浮かばなかったです。
……というのも、僕の目標はメジャーなゲームタイトル、とくにFPSタイトルで日本のチームが世界一の座に着くことなんです。そしてその目標を達成するにあたっては、自分自身が競技者ではなくてもいいとも当時から考えていました。
――日本が世界の頂点に立つことを至上の目標と考えるようになった、その原点にあるのはどのような想いだったのでしょうか?
YamatoN:やはり、僕自身が『CrossFire』の現役選手時代に、あと一歩のところで世界一に手が届かなかったという経験をしていることが大きいと思います。
自分が本気で世界一を目指していたからこそ、現在進行形でがんばっているプレイヤーたちのために、力になりたい。
そして、日本のチームが世界一になることによって、eスポーツが日本国内でもっと大きな産業になるとも考えています。
――プロゲーマーにおけるセカンドキャリア構想という観点から見ても、YamatoNさんほど現役選手時代から大局を見据えて行動されてきた方はほかにいないと感じます。こうした視座はどのようにして得られたものなのでしょうか?
YamatoN:僕は、本気で世界一を目指そうと考えたときに、世界一を目指せるだけの(練習)環境づくりや、そのためのスポンサー探しなどを独力でやり続けてきました。
そうしたなかで、さまざまな分野の方とお話しする機会を得られたことが、このような考え方を持つきっかけになったのでは、と思います。
おかげさまで、自分の最大の目標は何か、という部分をはじめ、その目標を達成していくにあたり、自分自身が選手ではなくてもモチベーションが保てる、ということにも気が付くことができました。
――現在の“REJECT”チーム運営部 部長というお仕事は、ある意味、ご自身のこれまでの経験の集大成的な内容と言えるのでしょうか。
YamatoN:はい、基本的には、これまでやってきたことを変わらずやり続けている、という感覚です。
“REJECT”というチームには優秀な社員が多く、とくに組織外部に働きかけていく能力は非常に長けています。しかし反面、内側の基盤については、まだまだこれからという部分もあります。
だからこそ、eスポーツシーンに長く携わってきた僕のような人間の知識が必要とされたわけです。現在は、チーム運営に限らず“eスポーツ”というワードに関係するすべての業務に携わっているような状況です。
――それだけ、業務内容は多岐にわたると。
YamatoN:はい。たとえば、チームスポンサーである、ゲーミングデバイスメーカーさんとの打ち合わせに出席すると、そこでよく「選手にどういう風に紹介してもらったら伝わりやすいか」という話題が挙がるんですね。
そこに選手経験のある僕のような人間がいれば、「選手としては短期間しか使えていないデバイスを紹介するのは難しいだろうな」、「それなら選手たちにデバイスを触ってもらう機会を作り、それ自体をイベントにしてしまえばいいのでは?」といった発想が出てくるわけです。
あとは、最近だとゲーム大会の公式ミラーリング配信が話題になっていますが、そうした手法をさらに発展させて、チームを応援するミラーリング配信を行って、それをきっかけにeスポーツ観戦の楽しみかたを知ってもらい、広めていく……といった取り組みも行っています。
日本のプロゲーミングチームは、自分のチームを応援する姿勢を見せていく部分がまだまだ足りていないと感じているんです。
“REJECT”としても、eスポーツの魅力を広めていく活動や、eスポーツ競技シーンの観戦の楽しさを伝えていく活動には十分取り組めているとは言えません。ですので、現在はそうした取り組みに注力しているチームであると認識してもらえるよう、さまざまなアプローチを積み重ねている最中です。
さきほどお話した応援配信に関しても、各ゲームタイトルに紐付いたゲストを弊社の “REJECT GAMING BASE”にお招きするなどし、人と人とを繋げていきながら配信の場そのものをコミュニティとして昇華させていきたい。そうしたコミュニティを持つことが、ゆくゆくは“REJECT”ならではの“文化”と呼べるものになると思っています。
――つまり、“REJECT”のチームカラーとしての「文化」を創り上げていくことが、現在のYamatoNさんの使命なんですね。
YamatoN:「“REJECT”は、常にこういうことをやっているよね」という核になるものを打ち出していきたいんです。
「“REJECT”はeスポーツ観戦配信を自社のゲーミングベースで行っている」、「“REJECT”は大会後に、選手たちが試合の振り返り配信を行っている」、「“REJECT”は応援しているファンに対してきちんと情報を発信してくれる」……そんな風に言ってもらえるようになることが、ひとまずのスタートかなと思っています。
・目標に向かって誠実に、惜しみなく行動することで道は開ける
――“REJECT”の一員として“eスポーツの産業化”というミッションの達成を目指すYamatoNさんですが、活動のなかで参考にしている分野・業界などはありますか?
YamatoN:サッカー、とくにJリーグは非常に参考になりますね。娯楽としてライバルになるスポーツも多いなかで、マーケットを日本国内に絞らずアジア全体と捉えている点は素晴らしいと思います。
アジア市場も見据えてのアジア人選手の補強であったり、多言語配信であったり、こういった部分はeスポーツ業界も取り入れなければなりません。
……とはいえ、もともとJリーグをそういった目線で見ていたわけではなく。それこそ最初は、とある大会の直前に自分が優勝したときのことを考えて、「インタビューで何を話したら格好良いかな?」と、サッカー選手のインタビューを見漁ったのがきっかけなのですが(笑)。
――YamatoNさんのようにeスポーツシーンに精通する人材は、いまやさまざまな企業から引く手あまただと思います。こうした人材が業界に増えていくために必要なことは何だと思いますか?
YamatoN:現状すでにそういった方は無数にいると思います。先日、eスポーツ専門学校の学生が弊社にインターンに来ていたのですが、その彼も素晴らしい展望を持っていました。
それを思えば年齢など関係ないですし、そうした人材を企業側がキャッチアップできていないだけ。発掘する手段がないだけだと感じます。
――すると、YamatoNさんのような方が業界に増えていくことは、もはや時間の問題だとも言えるのでしょうか。
YamatoN:……そこは難しいかもしれません。僕としては、eスポーツシーンがあと2~3年で、もうワンランク上に行けないと、その時点で終わりだという危機感があります。だから、悠長なことは言っていられないんです。
最近は『VALORANT』の盛り上がりがあるものの、これを機に自然と国内eスポーツシーンが拡大していくと考えるのは非常に危険なことです。ここで集まってくれた人たちを、どう逃がさず囲い込めるかを早急に考えなければなりません。
現状は、特定のタイトルやチームに対してファンが見に来てくれている状態ですが、eスポーツというカテゴリ自体を楽しいと思ってもらえなければダメなんです。
――たとえば、店に固定客がついたことを成功とするのではなく、もっと広く街全体の盛り上がりにしていかなければならない……みたいなことですよね。
YamatoN:そのとおりです。そのためには、各々のチームがより良いコンテンツを作って発信していかねばなりません。そして、それらにお互い刺激を受けながら高め合っていく必要があると思います。
話は戻りますが、“日本のチームがメジャータイトルで世界一になる”ということは、つまりそういうことなんです。世界一になるということは、必然的に世界一になりえる環境が国内に整ったことを意味します。
そうなって初めて、「eスポーツは産業として大きくなった」と言えるようになるのだと、僕たちは考えています。
――現役選手時代から、現在の“REJECT”チーム運営部 部長としてのお仕事やストリーマー活動にいたるまで、それらすべてで一貫して同じ目標に向かって歩まれてきたことがよくわかりました。
YamatoN:プロゲーマーというのは、あくまで自分の実力を向上させるための環境を手に入れるきっかけでしかないと思います。
ストリーマーというのも、いまの僕にとっては“eスポーツの産業化”のための手段なんです。ただ、手段はあえて捨てる必要もないから、今後もストリーマー活動は両立して続けていきます。そこは安心していただければ(笑)。
いずれにせよ、プロゲーマーを目指すにしてもストリーマーを目指すにしても、「なぜ自分がそれになりたいのか?」という“目的意識”が重要だと思います。理由は何でもいいんです。「自分にはゲームしかないから」でもいいですし、「自分が業界を切り拓いて、お金をたくさん稼ぎたい」でもいいです。
そうした“目的意識”を軸に活動をしていけば、必ず何かが生まれます。そこに向かって後悔がないように誠実に活動していけるか、惜しみなく行動していけるかが、目指している未来をつかむための鍵になるのではないでしょうか。
(取材・文=山本雄太郎/編集協力=ローリング内沢)