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『呪術』五条悟、『るろ剣』比古清十郎、『刃牙』範馬勇次郎……人気漫画に見る“作中最強キャラの扱い方”の妙

2022年04月30日 13:51  リアルサウンド

リアルサウンド

『呪術廻戦』

 作品の人気を牽引する存在にもなれば、重用しすぎると物語を崩壊させるバランスブレイカーになりかねない、“最強キャラクター”。異世界転生系の作品、あるいは異色のヒーロー漫画『ワンパンマン』なども含め、「最強であること/“無双”すること」自体がコンセプトの作品やキャラクターはまた別として、漫画や小説の人気作には、ジョーカーとも言える最強キャラの扱いが極めて巧みなものが多い。本項では、その例を考察してみたい。


(参考:【画像】『呪術廻戦』もう1組の“最強”=乙骨憂太&祈本里香が巨大フィギュアに


■『呪術廻戦』五条悟


 例えば、現在ブレイク中のバトル漫画『呪術廻戦』の“最強キャラ”と言えば、日本に4人しかいない特級呪術師のひとりで、単独で世界の均衡を崩すほどの能力を持った五条悟だ。


 物語の序盤から圧倒的な実力を見せており、ともすれば「どんなに危機的な場面でも、五条に任せておけばいいのでは……」という、緊張感を欠いた展開になることもあり得たが、現在は納得のいく条件/理由で「封印」されている。その間にメインキャラクターたちは成長を遂げ、さまざまな能力を持った呪術師たちによる熱いバトルが展開されていることから、五条が戦線に復帰したとして、勢力図は多少なりとも変化していることが予測されるが、同時にその「強さ」への信頼は失われていない。この辺りのバランスが、“最強キャラ”の扱いとして、非常に巧みだ。


■『るろうに剣心』比古清十郎


 明治時代初期を舞台にした剣客バトル漫画『るろうに剣心』においては、主人公・緋村剣心の師匠にあたる、十三代目飛天御剣流継承者・比古清十郎が、作者も認める最強キャラクターだ。しかし、すでに隠居の身であることから剣心の戦いに介入することは少なく、最大の見せ場は、作中最大ともいえる強敵・志々雄真実が抱える“十本刀”のひとり「破軍の不二」と対峙したエピソードである。


 危機的状況に陥っていた剣心のたっての頼みであり、この「不二」がエヴァンゲリオンを思わせるような大巨人で、一種の番外編的なバトルになったことが、“ジョーカー”の切り方として巧みだ。なおかつ、その異形から人格を認められず、「怪物」として扱われてきた不二の武人としての矜持を引き出し、その上で圧勝するという、熱い展開を描き切っていた。比古清十郎はいまなおファンが多いキャラクターである。


■『刃牙』シリーズ・範馬勇次郎


 格闘漫画において「最強」のイメージを確立しているキャラクターといえば、『刃牙』シリーズに登場する“最強生物”ーー個人で大国の軍事力を凌駕する範馬勇次郎だろう。実の息子である主人公・範馬刃牙との対戦で「敗北」しているが、それは勇次郎自身の美学によるところが大きく、いまも苦戦すら考えられない最強キャラクターだ。


 『刃牙』シリーズは「最強」を目指す闘士たちの戦いが本筋の作品であるため、極端に言えば「勇次郎が全員倒して終わり」にもなりかねないところだが、彼は神出鬼没で戦うべきときにしか戦わず、自分に比肩する強者の登場を待ち望んでいることもあって、登場人物たちの「強さ」にお墨付きを与える役回りをうまくこなしている。今後、正面から完全な形で勇次郎に勝利を収めるキャラクターが出てくるのか。それが長期シリーズが幕を閉じるときの核心かもしれない。


■『シュート!』久保嘉晴


 バトル漫画だけでなく、スポーツ漫画にも最強キャラクターは登場する。例えば、サッカー漫画の金字塔で、7月から新作アニメが放送される『シュート!』の久保嘉晴。掛川高校サッカー部に所属する彼は、高校2年生で患った大病を抱えたまま、チームメイトにはそのことを隠してプレーを続けた、スーパースターだ。


 もう一人の主人公と言って差し支えない輝きと存在感を放っていたが、インターハイ静岡県予選準決勝において、「奇跡の11人抜き」を達成したあと、久保はピッチ上で倒れ、急逝してしまう。『ダイの大冒険』におけるアバン先生のように、序盤で実力者が退場(アバン先生は実際には生存していたが)する展開は、漫画作品において珍しくない。しかし、それがご都合主義的に映らず、物語に深みを与えるエピソードになっている作品は、やはり”最強キャラの扱い”が巧みな名作と言えるだろう。


 最強キャラにはロマンがある。『はじめの一歩』の鷹村守、『転生したらスライムだった件』のリムルや『ドラゴンボール超』のウイス、『闘牌伝説アカギ ~闇に舞い降りた天才~』の赤木しげる、『シティーハンター』の冴羽獠など、魅力的な「最強」は枚挙にいとまがないが、みなさんはどんなキャラクターに惹かれるだろうか。その「強さ」が作中でどう表現され、どうコントロールされているか、ということを考えながら読んでみると、その類型から、新たな“推しキャラクター”が見つかるかもしれない。


(向原康太)