トップへ

カロリーメイト担当者の仕事の流儀とは? 大塚製薬プロダクトマーケティングマネージャーに聞く

2022年04月28日 15:21  マイナビニュース

マイナビニュース

画像提供:マイナビニュース
新フレーバー「バニラ味」が発売されたバランス栄養食「カロリーメイト」。同製品のプロダクトマーケティングマネージャーを務めているのが、大塚製薬の岩崎央弥氏だ。カロリーメイトが長年愛される理由、そして岩崎氏の仕事の原動力について聞いてきた。


○当初は売れなかった? カロリーメイト誕生秘話



1983年、大塚製薬からカロリーメイトが満を持して発売された。発売時のラインアップは"ブロックタイプ"と"リキッドタイプ"。だが実は、この2つはもともと異なるルーツで生まれた製品だったという。



リキッドタイプの原点は、医療現場で使われる経管・経口栄養食「ハイネックス‐R」。1970年代の日本では、食の欧米化、インスタント食品の登場により、栄養不足や栄養バランスの偏った食生活の方がどんどん増えていた。そのような背景を受け、「ハイネックス-Rで培ったバランスのとれた栄養を一般生活の中で健康維持に役立ててほしい」という思いから開発されている。



一方、ブロックタイプは、朝食の欠食が増えていくであろう兆候を受け「新しい朝食を作ろう」と生まれた製品だ。いつでもどこでも手軽に食べられることを目指して世界中のパンを集め、その中からイギリスのショートブレッドに着目。コンパクトかつユニークな形をヒントに開発された。



「カロリーメイトは味へのこだわりが強いのですが、お菓子とは根本的に作り方が異なります。お菓子はできたものに栄養素を足していきますが、カロリーメイトは栄養素が正確に決まっていて、その上でフレーバーづくりをしていくのです。栄養成分を範囲表示しないことも、カロリーメイトのこだわりです。これは、医療現場で培ったノウハウや思想を受け継いでいる証拠です」



1983年の発売時はとても世の中から驚かれたそうだ。当時は食品のカロリー表示さえろくになかった時代。バランス栄養食といわれてもピンとこなかった。だが大塚製薬は「栄養調整食品」という分類を作り、地道に販売を続けていった。その名称から単に「カロリーが摂れる」と思われがちだが、タンパク質・脂質・糖質・ビタミン・ミネラルという「5大栄養素」をバランスよく含み、ビタミンにおいては11種類を補給することができる「バランス栄養食」なのだ。



「発売当時は"カロリー"という言葉に"栄養"という意味合いが強く、『栄養の友』という意味でカロリーメイトと名づけられました。ですが、当初は"不思議な味"といわれることも少なくありませんでした。そこで『頭で考えて食べてもらう食品にしよう』と、200名のカロリーメイト販売促進担当をつくり、8ミリフィルムの映写機を持ち、全国を語り歩く活動を行ったのです」


実際、カロリーメイトが認知され、安定して売れるようになるまで約10年かかっているという。だが、いまカロリーメイトを"おいしくない"と感じる人は少ない。これはなぜだろうか。



「それは、味覚が形成されるタイミングでカロリーメイトを食べているからです。子どものころに味の現体験がある人たちは、抵抗なくおいしく感じます。これは、『ポカリスエット』でも同じです。製品がその価値と共に世の中にあたりまえの様に存在する中で育ってきたからです」

○新フレーバーに「バニラ味」が選ばれたワケ



これまで、さまざまなフレーバーやゼリータイプなどを発売してきたカロリーメイト。2022年3月22日、ブロックタイプのラインアップに新たに「バニラ味」が加わった。新しいフレーバーとして「バニラ味」が採用された理由を、岩崎氏はこのように語る。



「コロナ過を受けて生活様式は大きく変化しました。これまでカロリーメイトは外出先で食べられることが多かったのですが、現在はお家の中でも栄養補助として使われる場面が増えています。『家に置いておいて、困ったときにはパッと食べる』というシーンが増えることで、子どもやお年寄りが口にする機会が増えたのです。そこで、子どもから大人までなじみがある味にしようと『バニラ味』が選定されました」



バランス栄養食であるカロリーメイトは、頻繁に新しいフレーバーを出さないという方針があるそうだ。バニラ味は開発に約3年かけており、開発番号はゆうに1,000を超えたという。バニラの香りの中にほのかなりんごの甘みがあり、さらに苦味を感じるチョコレートチップがアクセントになっているその味わいは、狙い通り、だれもが飽きずに食べ続けられるだろう。


○カロリーメイトが指示される理由とは?



カロリーメイトは2023年に40周年を迎える。これほどのロングセラーとなった理由を、岩崎氏はどのように考えているのだろうか。



「生活者の方が抱えている栄養に関する問題が、時代ごとにあります。例えば、昔流行ったダイエット方法は"断食"、スポーツ栄養は"かつ丼を食え"でした。カロリーメイトはそれに対し、情報と製品を通じてバランス栄養を的確に届けていくという活動を続けてきました。流行り廃りに影響されることなく実直にこれを続けてきたからこそ、ブランドとして信頼してもらえるのだと思います」



だが直近2年はカロリーメイトにとっても大きな転機になったという。買いだめ需要で売り上げが急上昇した半面、備蓄して消費しないため、その反動でその後一時的に売り上げがさがったのだ。

「そんなときに向かうべき方向を示してくれたのも生活者のみなさんでした。カロリーメイトに対する新しい求められ方は確かにあって、これを拡大していくことに最大限務めました。いまブランドは再び成長曲線を描いており、歴代でもトップクラスの売り上げで推移しています」



大塚製薬は食事を尊重しており、健康の基本は一日三度のバランスの取れた食事と考えているそうだ。その背景には「ハイネックス-R」の存在がある。当時、食事が採れない人は点滴で栄養を補給するしかなかった。だが大塚製薬は、口から食べる喜びを味わってほしかったのだという。



「何かを食べたり飲んだりすることへの根本的な喜びが人にはあります。口からなにかを摂取するというのは、生命活動を続けるうえでとても重要なことです。我々はそれをきちんとかなえてあげたいという思いでカロリーメイトを開発しました」


○岩崎氏がカロリーメイトを担当するまで



学生時代はスポーツに打ち込んだという岩崎氏。就職活動では大塚製薬一社に絞り込み、4年生の4月に熱意を伝えて入社したそうだ。そのきっかけは、チームメイトの部屋の引き出しから出てきた「ネイチャーメイド」だったという。



「大量のネイチャーメイドを見て、チームメイトに『なんだこれ? 』と聞いたところ、陸上競技に行ったときに協賛社の大塚製薬からもらったと。そして、『体調を崩しやすいから』と話したのです。日本を代表するトップアスリートが、この粒ひとつで安心を得られるということに衝撃を受けました。『私自身は日本を代表する人間にはなれないが、アスリートであろうとビジネスマンであろうと、日本を代表するような人を支える仕事ならやってみたい』と思い、そんな仕事が大塚製薬ならできるんじゃないかと考えたのです」



岩崎氏の最初の担当先は佐賀県。ここで水分補給と栄養補給の大切さを語り倒す仕事に就いた。学校でも病院でも老人クラブでもどこにでも行き、一年間でおよそ2万人に説明していたそうだ。この経験がいまの岩崎氏のベースになったという。



「あなたの話を聞いてからカロリーメイトを、ポカリスエットを、ネイチャーメイドを食べている、と言われるのはとてもうれしかったです。その延長がいまの仕事なのかもしれません」



それから福岡で企画業務を担当したのち、入社6年目で始めて営業に配属される。ここでお店の方や本部のバイヤーとやり取りをし、売り場の工夫や商品配置で来店した方にどうやって健康貢献するかを学んだそうだ。その後、東京本部の事業企画部に異動となり、ここでカロリーメイトやSOYJOYなどのリテール(小売)マーケティングを担当。そして現職に至る。



「マーケティングや開発をやりたいとは考えてないかったので、カロリーメイトのプロダクトマーケティングマネージャーをやるときは『俺ですか?』と思いましたね。ですのでスタートはとても苦労しました。製品価値を伝え続けることの難しさ、それを売上につなげて、成長を継続すること難しさを感じました」

○岩崎氏の「仕事の流儀」と若い方へのアドバイス



そんな岩崎氏が、仕事をするなかで常に考えていることは「人それぞれのカロリーメイト」だという。



「私の頭の中にあるカロリーメイトと、みなさんがそれぞれ考えているカロリーメイトはまったく違います。なかには、カロリーメイトを肴にお酒を飲んでいる人もいます。話を聞いてみると、『甘さがハイボールにちょうど合う』『おつまみだとカロリーがわからない』という答えが返ってきました。もちろん、その話を聞いておつまみとして提案するかというと別ですが、そういう話は会社でPCを前にしていてはわかりません。生活者の話を聞き、意見に向き合って、各時代によって変わるバランス栄養食の需要を理解したうえで、必要な人に届けていくのが私の使命だと思っています」



岩崎氏は生活者の生の声を聞くために、お店の前で雨の中2日間立ち尽くして購入者を待っていたこともあるそうだ。ここで、同氏の仕事の流儀を伺ってみた。



「『スエット』、汗をかくことですね。佐賀では、汗をかいてさまざまな人に食べてもらってきました。会議や仕事では何度も脂汗を流しました。何かをやり遂げた時に涙が止まらない経験もしました。いまではPCと向き合う時間が増えましたが、本質はそこにはないと思います。汗をかいて人と向き合って、初めて学びが生まれるのです。大塚製薬の企業文化に『流汗悟道』という言葉がありますが、いまの仕事に就いてから初めてその言葉の意味を理解できるようになってきた気がしています。これから40代、50代になったらこの言葉の見え方も変わってくると思います。楽しみです」



そんな岩崎氏に、20代のビジネスパーソンに向けたアドバイスを聞いてみたい。



「私からできるアドバイスはあまりないのですが、いま放映しているCM『青いカロリーメイト』の力を借りてお話しするならば、『いまならではの働き方』はあります。同時に『昔ながらの働き方』もあって、どちらも正しいと思っています。両方やってみて、経験して、自分ならではの働き方を見出していくことが大切だと思います」


最後に、岩崎氏からの生活者の皆さんへメッセージをいただいたので、紹介しておこう



「カロリーメイトは非常に強いブランドです。人それぞれ、自分ならではのカロリーメイトがある、これが強さだと思います。ゆえに新しいフレーバーの発売は、楽しい反面、強い不安もありました。"みなさんのカロリーメイト"の新しい仲間として『バニラ味』が受け入れてもらえるのか、発売前日は気になって眠れませんでした。ですので、いま「これいいね!」という声をいただいていることがとてもうれしく思います。これからもバランス栄養食を必要とされる方一人ひとりに向き合っていきたいと考えていますので、どうぞよろしくお願いします」(加賀章喜)