金曜の夕方。ああ今週も働いた。帰って一杯やって、週末ぐらいはゆっくりしよう……。そんな風に一息ついたところに届いたメール、そこに書いてあったことは……。
「金曜日の17時前後に一斉に『月曜日の朝までにお返事をお願いします』とメールを送った結果、おじさんの週末がどうなるか、考えたことがあるか」という、とあるユーザーのツイートが話題を呼んだ。ツイートには、こうしたメールを受け取って土日や正月、お盆休みなどに命じられた経験者たちからの、共感と怨嗟の声が相次いで寄せられた(文:ふじいりょう)。
「無茶振り」を生む背景は?
ツイートへの反応を見ると、少なからぬ人たちが「金曜日の定時間際に『急ぎでないので月曜の朝までで結構です』と来る」といった、まるで休日というものが存在しないような文面のメールをしれっと送られた経験があるようだ。ツイッターでは「『この土日にやっとけよ』って言っているのと同じ」「仕事を投げられる側の気持ちを考えてほしい」などと、しれっと休日にまで仕事させようとする送信側の身勝手な言いように怒りの声が多数あがっていた。
「否応なしに土日出勤にさせられる」といった声は、製造、旅行・病院・教育・印刷・フリーランスなど幅広い職種の人たちから寄せられているようだった。ツイート主は大学教員のようだが、このような体験をした人は業種・立場を問わず、大量に存在するようだ。
働き方改革も盛んに言われているが……
そもそも労働時間の上限や、休日・時間外労働の割増賃金などを考えれば、あんなふうにメールでサラッと「(本来なら)休みの日に働け」とはよほどの緊急事態でもない限り言えないはずだ。かつては休日出勤もサビ残も当たり前の企業の話はよく聞いたが、「働き方改革」が言われる昨今、そうした文化は変化しつつある。2021年4月1日より働き方改革関連法が順次施行され、時間外労働の上限規制や長時間労働抑制策を企業側(使用者)が講じることが求められるようになった。
とはいえ、そうした対策がどれだけ浸透しているかは、職場によって極端に差があるのが現実だ。しれっと週末に働けと求められるケースはまだまだ少なくないのだろう。
メールを送る側も業務でカツカツな中、上司に「今日中に送っておけ」などと急かされて、金曜ギリギリに送る羽目になってしまっているのかもしれない。とはいえ、依頼は「相手の就業時間」も考慮にいれてすべきと言えるだろう。
このままだと「つながらない権利」が必要かも?
こうした無茶振りメールへの「自衛策」を披露する人たちもいた。たとえば「金曜15時以降のメールは見ない」「休日はチャットツールを切っておく」とか、「週明けまでスルー」「休暇を頂いており、メールが確認できておりませんでしたという嘘の定型文を月曜に返す」といった具合だ。ただ、こうした強気の策は、自分が下請けだったり、非正規雇用だったりと、すぐに首を切られかねない立場にいるとなかなか取りにくいものだ。
こういった話で思い出すのが、一部の国で導入されている「(ネットに)つながらない権利」の存在だ。勤務時間外の連絡に応答しなくてもいい権利のことで、フランスでは2017年に法制化された。こうした流れを受け、休暇中のメールを受信拒否できるシステムを採用する民間企業も出てきたようだ。
日本では、厚生労働省が2021年3月に「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」を公表。「時間外・休日等のメール等に対応しなかったことで不利益な人事評価を行うことは適切でない」「役職者、上司、同僚、部下等から時間外等にメールを送付することの自粛を命ずること等が有効」と明記している。こうした方向性で議論が進めば、やがて冒頭のようなメール「被害」は減るかもしれない。
筆者は出版社・Webベンチャーなどを経てネットメディア業界で働いているが、メディアやベンチャー界隈では深夜に連絡が来ることもザラで、Slackなどのチャットツールが普及して以降はその頻度が増した印象がある。業務時間外に、急ぎでもなんでもないSlackやメール連絡をもらうと、そのたびに「送信予約」を使ってほしいなあと思うのだが……。