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『オッドタクシー』は愛憎渦巻く作品に? 此元和津也が語る、“脚本家”としての矜持

2022年04月27日 08:01  リアルサウンド

リアルサウンド

『映画 オッドタクシー イン・ザ・ウッズ』(c)P.I.C.S. / 映画小戸川交通パートナーズ

 2021年4月期にテレビ東京系で放送されたTVアニメ『オッドタクシー』。セイウチやアルパカ、ネコなど動物の姿で描かれるユルいキャラクターが織り成す、ブラックユーモアたっぷりの会話劇と本格クライムサスペンスが話題となり、ネット上には考察を繰り広げるファンが続出。その人気は幅広い層に波及した。放送終了後も、海外のアニメアワードや、文化庁メディア芸術祭のアニメーション部門で新人賞を獲得するなど勢いは止まらず、TVシリーズを大胆に編集した『映画 オッドタクシー・イン・ザ・ウッズ』も公開に。初日3日間の累計興行収入が5200万円を突破する大ヒットとなり、現在も公開中だ。


【写真】『オッドタクシー』脚本家の此元和津也


 そんな本作の脚本を手がけたのが、漫画『セトウツミ』(秋田書店)や日本テレビ系ドラマ・映画『ブラック校則』の脚本を手掛けた此元和津也。アニメ初挑戦ながら、史上稀に見る怪作を世に送り出してしまった彼に、作品への思いと脚本家としての矜持について訊いた。


■「別の方向性の着地を追求したい」


——TVアニメ『オッドタクシー』の反響を作り手としてどう受け止めましたか?


此元和津也(以下、此元):未だにそんなに実感できてないですけど、観てくださってる人やスタッフ、僕の周りの人たちが喜んでくれてるのは嬉しかったです。知り合いの編集者さんから「アニメであんな体験をしたのは初めてだ」という言葉を聞いたのが印象に残っています。


——会話劇としてもミステリーとしても、非常に見応えのある作品に仕上がっていると思いますが、TV版の制作時、脚本の執筆はスムーズに進みましたか?


此元:内容に関しては感覚や勢いで作っていったのでそれほど苦労はありませんでした。ただその前の段階で、いつどこでどれぐらいの規模で放送するのか、初めはまったくわからない状態で。そもそもの作業自体にモチベーションを見出すのが大変でした。漫画と違って、活字だけでイメージしなければならないのと、すぐに形にならないジレンマで、前半の方はなかなかスムーズに書き進めることができませんでしたね。


——動物のキャラクターと、現代的でリアルな会話のギャップに引き込まれました。今作の脚本執筆で意識したことはありますか?


此元:もともとそういうギャップを狙っていきたいという趣旨で自分のところにきたオファーだと思うので、特に何も意識せず自然体でやりました。ホモサピエンス(CV:ダイアン)やヤノ(CV:METEOR)あたりは、それぞれ本職の方が演じてくださったので、心強かったです。ただ、本職だからこそ言いたくない台詞があるんじゃないかと心配になったりはしました。


——映画版の制作についてはいつ決まったのでしょうか。 


此元:昨年夏の終わり頃か秋の初め頃です。ただの総集編に留まらないよう、TVシリーズを観た人も観ていない人も楽しめる構成にするために、限られた時間内で取捨選択しながら内容を詰めていきました。


——映画版で新たに追加した台詞やシーンもありましたね。


此元:17人の証言形式になっているので、新しく楽しめる要素としてそれぞれの視点からのシーンをできる限り取り入れています。映画版では騙す段階は過ぎたと思うので、種明かし的な楽しみ方をしてもらえれば。ただ疑問が解消されたと思ったら、新たな疑問が湧いてくるかもしれません。そういった、まだ何かありそうな余地自体が見どころです。


——『セトウツミ』や『ブラック校則』など、これまで発表してきた作品と『オッドタクシー』で、作品作りの過程で変化はありましたか?


此元:一個一個自分の中で、気が済んだというか、区切りをつけていった感覚はあります。自分主導でやれるものに関してはずっと着地にこだわってきました。最後にひっくり返すような終わり方は、もうだいぶ気が済んだので、ひとつの武器として持ったまま、また別の方向性の着地を追求したいなと思います。


■「『ドラえもん』の中にこの世のエンターテインメントのすべてが入っている」


——漫画家と脚本家、ふたつの肩書きをお持ちですが、それぞれの面白さを教えてください。


此元:漫画は間も演出も構図も全て自分ひとりでコントロールして、誰も自分の領域に入れずに完結させる圧倒的な個の力。一方で脚本は、それぞれのプロが分業でパフォーマンスすることによって得られる相乗効果みたいなもの。それが、それぞれの面白いところかなと思います。


——此元さんがこれまで触れてこられたエンターテインメント作品で、特に影響を受けているものを挙げるとしたら何ですか? 


此元:『ドラえもん』です。影響を受けたというか真似できるたぐいのものではないですが、『ドラえもん』の中にこの世のエンターテインメントのすべてが入っているんじゃないかなと思います。子供の頃に読んだ果てしなく壮大に思えた1話が、たった8ページの作品だったりして、今読むとただただ驚きが勝ります。


——『オッドタクシー』はご自身の中でどのような立ち位置の作品になりましたか?


此元:今はまだ渦中にいるので、愛憎渦巻いてる状態ですが、いつか振り返れば特別で思い出深い作品になっていると思います。脚本家として未知数な段階で声をかけてもらったことが単純に嬉しくて、その期待に応えたい、貢献したいという意味で作品に対しての思い入れは強くあります。その反面、一球入魂で「これで完成。さあ次!」と切り替えたタイミングで細々としたものから負担の大きいものまで作業が舞い込んでくるので、一時期、書き下ろしという言葉が嫌いになりました。ひとりで作ったものならビジネスより気持ちを優先させますが、コンテンツが大きくなっていくという認識も覚悟もなかったので、ありがたいことだとはわかっていますが、そういった面での戸惑いから愛憎渦巻いています。こうして言語化するとガチっぽくなってしまいましたが半分冗談です(笑)。


——アニメ作品には今後も取り組んでみたいと思いますか? また取り組んでみたいみたいジャンルなどはありますか?


此元:機会があればやってみたいと思います。ジャンルにこだわりはないですが、漫画でも実写でも人形劇でもなんでもいいので、できれば現実と地続きで、その時面白いと思ったものをどんどん書いていけたらなと思います。


(取材・文=渡部あきこ)