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知床観光船事故、法的責任はどうなる? 「会社代表も罪に問われうる」と弁護士は指摘

2022年04月26日 16:51  弁護士ドットコム

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北海道・知床半島の沖合で乗員・乗客26人が乗った観光船「KAZU 1(カズワン)」(19トン)が遭難した事故は、4月25日11時時点までに11人が死亡する大惨事となった。


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報道などによると、4月23日午後、観光船は「浸水している」との救助要請後、行方がわからなくなった。翌24日、捜索活動が本格的に開始し、知床岬付近などで船に乗っていたとみられる人が次々と意識のない状態で発見されるも、いずれも死亡が確認された。



この観光船をめぐっては2021年、2件の事故を起こしていたと報じられている。



2021年5月には海上のロープの塊に衝突し、乗客3人が軽傷を負った事故が発生。同6月には浅瀬に乗り上げる座礁事故を起こし、今回遭難した観光船の船長(54)は業務上過失往来危険容疑で書類送検されていたという。



事故当日は朝から強風・波浪注意報が出されていたようだ。一方、乗員は通報時に「エンジンが止まっていて、自力で航行できない」とも話していたとも報じられている。



天候の影響をどれほど受けたのか。また、観光船の異常によるものなのか、人為的ミスによるものなのか、事故原因の特定にはまだ至っていない。



もっとも、死亡事故となれば、観光船を運行していた会社や船長が責任を問われる可能性はあり得そうだ。今後、どのような責任が発生し得るのか。坂口靖弁護士に聞いた。



●会社の代表者が刑事責任を負う可能性もある

——海上保安庁が刑事事件として捜査するなどと報じられています。



船舶の事故の場合、「業務上過失往来危険罪」および「業務上過失致死傷罪」が成立する可能性があります。



船舶の事故によって人が死傷せず、転覆等の危険が発生したにとどまる場合には、業務上過失往来危険罪のみの成否が問題となり、人が死傷するような結果が生じた場合には、業務上過失往来危険罪および業務上過失致死傷罪、両罪の成否が問題となります。



業務上過失往来危険罪の法定刑は、「3年以下の禁錮または50万円以下の罰金」と規定されています。他方で、業務上過失致死罪は、「5年以下の懲役若しくは禁錮または100万円以下の罰金」と規定されています。



これらの罪の責任を負う者は、結果発生に対し、注意義務を負い、その注意義務を怠ったと評価される者です。



——今回のケースでは、誰の責任が問題になりうるのでしょうか。



現在の報道状況では責任原因の詳細が不明ですが、刑事責任を負う者として想定されるのは、まず船長となります。



船長は、自動車の運転手等と同様に、具体的な操船の際にその都度、適切な操船を実施すべき注意義務を負っています。



その操船が適切に行われずに、本件事故を発生させたと評価されるのであれば、船長が業務上過失往来危険罪等の刑事責任を負うことが想定されます。



もっとも、船長は行方不明となっており、仮に、本件船舶事故に注意義務違反があったとしても、刑事責任を問うことは困難であることが想定されるところです。



——船長以外の責任が問われることはあるのでしょうか。



船舶運航会社の代表者などが刑事責任を負うこともあり得ます。



波風が強く運航させることは困難な状況であった、船舶には以前の事故による損傷が放置してあった等の当時の事情が報じられており、これら事情が事故の原因となったという可能性は考えられます。



仮にこれら報道内容が真実だったような場合には、船舶運航会社の代表者などに、「出航させるべきではなかったにも関わらず出航させた」「船舶を修繕しなければならなかったにもかかわらず修繕しないまま出航させた」等の注意義務違反(過失)が認められ、前述の刑事責任を負うという可能性もあるように思われます。



もっとも、一般的には、このような管理・監督過失と呼ばれる責任については、事故と過失との間の因果関係を明らかにすることなどについて難しい面も多く、今回のケースについても、現状では刑事責任を追及しうるのかについては、なんとも言えないというところになろうかと思われます。



●観光船の事業者は「保険には加入しているはず」

——民事責任についてはどうでしょうか。



本件運航会社は、不法行為責任(民法715条、709条)または債務不履行責任(民法415条)を負担することとなります。



また、船長においては、不法行為責任(民法709条)を負う可能性があります。



通常、観光船事業を運営する場合、当然のごとく保険には加入しているはずですので、損害賠償金の支払いが得られないという事態に陥ることは可能性は低いように思われます。



被害者や被害者家族の方々においては、今回のケースで、この民事責任の追及が必要不可欠だと思います。




【取材協力弁護士】
坂口 靖(さかぐち・やすし)弁護士
大学を卒業後、東京FM「やまだひさしのラジアンリミテッド」等のラジオ番組制作業務に従事。その後、28歳の時に突如弁護士を志し、全くの初学者から3年の期間を経て旧司法試験に合格。弁護士となった後、1年目から年間100件を超える刑事事件の弁護を担当。以後弁護士としての数多くの刑事事件に携わり、現在に至る。YouTube「弁護士坂口靖ちゃんねる」<https://youtube.owacon.moe/channel/UC0Bjqcnpn5ANmDlijqmxYBA>も更新中。
事務所名:プロスペクト法律事務所
事務所URL:http://prospect-japan.law/